第7話 上位
力は手に入れた。
だが――
それで届くとは限らない。
HYDRA CHRYSALIS
新章:TRANSCENDENCE
第7話 上位
静かだった。
あれだけの戦闘の後とは思えないほど。
風だけが吹いている。
崩れた街。
水の気配。
そして。
榊。
「……終わったな」
誰かが言う。
だが。
榊は首を振る。
「いや」
短く。
「まだだ」
その言葉と同時に。
空間が歪む。
見慣れた現象。
だが。
今は違う。
密度が違う。
圧が違う。
「……来たか」
榊が呟く。
次の瞬間。
現れる。
あの男。
先行個体。
変わらない姿。
だが。
存在感が違う。
「……へぇ」
男が言う。
榊を見る。
まっすぐに。
「やったな」
わずかに笑う。
「そこまで行くとは思わなかった」
榊は黙る。
ただ。
構える。
水が応える。
完全に。
「……で?」
榊が言う。
低く。
「今回は何しに来た」
男は肩をすくめる。
「確認だ」
一歩踏み出す。
「お前が“どこまで行ったか”」
空気が張り詰める。
一瞬で。
「……試すってか」
榊が笑う。
わずかに。
「上等だ」
その瞬間。
消える。
両者が。
次の瞬間。
衝突。
見えない速度で。
水がぶつかる。
空間が歪む。
衝撃が広がる。
「……いいな」
男が言う。
余裕の表情。
「前よりはマシだ」
榊が押す。
力で。
だが。
止まる。
完全に。
「……っ!」
それ以上進まない。
「力任せか」
男が言う。
冷静に。
「それじゃ届かない」
その瞬間。
圧が変わる。
水が裏返る。
制御が乱れる。
「なっ……!」
榊の水が。
一瞬。
奪われる。
「言っただろ」
男が言う。
「使い方だ」
水が男の側へ流れる。
一部が。
完全に。
「……まだか」
榊が歯を食いしばる。
だが。
冷静だ。
(違う)
前とは違う。
“繋がってる”。
完全に。
(なら)
一度、引く。
力を。
流れを。
「……?」
男がわずかに眉を動かす。
その瞬間。
榊が動く。
力じゃない。
“流れ”。
水の根本。
接続そのものを。
操作する。
「そこだ」
一点。
男の制御ラインへ。
干渉。
「……!」
初めて。
男の表情が変わる。
一瞬だけ。
「……面白い」
すぐに戻る。
だが。
確かに。
届いた。
「……だろ」
榊が笑う。
「ただのパワー勝負じゃねぇんだよ」
水が再び動く。
今度は。
奪われない。
完全に。
維持している。
「……なるほどな」
男が言う。
興味深そうに。
「本体接続か」
榊は答えない。
必要ない。
「……なら」
男が一歩踏み出す。
その瞬間。
空間が変わる。
圧が増す。
段違いに。
「次だ」
低く言う。
「見せてやる」
水が変わる。
質が。
密度が。
まるで。
“別の存在”。
「……っ!」
榊が反応する。
だが。
遅い。
一瞬で距離を詰められる。
「ぐっ!」
衝撃。
吹き飛ばされる。
地面を削る。
止まらない。
「……まだ甘い」
男が言う。
ゆっくりと歩いてくる。
「接続しただけじゃ意味がない」
榊が立ち上がる。
血が流れる。
だが。
目は死んでいない。
「……だろうな」
拭う。
口元を。
「だからやるんだろ」
構える。
再び。
水が応える。
「……いい」
男が笑う。
はっきりと。
「やっと“対等”だ」
その言葉。
それが。
すべてだった。
敵ではない。
格下でもない。
“同じ領域”。
「……行くぞ」
榊が言う。
「来い」
男が答える。
その瞬間。
再び衝突。
今度は。
さっきとは違う。
拮抗。
互角。
水と水。
意志と意志。
完全なぶつかり合い。
そして。
その戦いは――
まだ終わらない。
―――続く
第7話を読んでいただきありがとうございます。
ついに先行個体との再戦が始まりました。
力だけでは届かない領域での戦い。
次話では、
この戦いの行方が大きく動きます。




