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彼女の存在
「肌がきれいな子だったね。今じゃ要介護か。人間何があるか分からん。」
酔漢がもたらす知らせといえども、おおもとは確かな情報であるらしい。情報のおおもとだと言うのは、五十代の女性で、テレジアとは三十年超の行き来をしている同級生──つまり我々三人としても同じ校舎に学んだ嘗ての同級生なのでした。テレジアの実家に出入りしている仲ゆえ、その人から聞いたとなれば信ぜぬわけには参りません。
白状すると、ながいことテレジアについて忘れておりました。何かにつけて思い出しはしても、手痛くあしらわれた相手のことだから敢えてひたりたい思いででなかった。人生にあって、彼女は無念さの象徴でした。敗北そのものでした。わたしからすれば、かかないでよい恥をかき、味わう必要のない屈辱を味わった原因が、彼女の存在でした。テレジアが悪かったのでは、勿論ありません。申しましたように、初めから終わりまで、わたしの片思いであるにすぎなかったのです。
「今日は俺帰るわ」
居酒屋で二次会の話を断って、オジサン二人をあとに歩き出していました。




