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『ブレイヴイマジン』第1章 リアルデスゲーム⑦


          *   *   *


 朝食の席に、シルフィが同席しない事には今日気付いた。ユリア曰く、この屋敷の中にはイマジンが二人存在し、シルフィではないもう一方は存在が秘匿されているらしい。そちらにはかなり不自由な生活を強いざるを得ないらしく、いつも個室に居る為食事はシルフィと一緒に摂るのだという。

 食事が終わると、俺はそのイマジンの居る部屋へと案内された。そこには客間にあったのと同じようなテーブルがあり、シルフィと一緒に別の少年が椅子に腰を下ろしていた。燃えるような赤毛を持ち、服は黒字に赤のラインが入ったパーカー、手の甲には炎のような紋章の入れ墨が入っている。目つきは鋭かったが、その顔貌は何処か幼さを残していた。人間であれば、俺より少し年下くらい──中学三年生くらいから高校一年生くらい──だろうか。

「……誰だよ、そいつ?」

 少年から、友好的とは言い難い反応が来たので俺はつい動揺する。ユリアは「えへへ」とはにかむように笑い、俺を手で示した。

「昨日話したケント君。私の命の恩人で、もう友達になったよ」

「友達……ねえ」

 少年は、何処か面白くなさそうに呟いた。俺が戸惑っていると、ユリアはくるりと向きを変え、今度は俺に向かって少年を指し示す。

「アロード・ファイヤー、火属性のイマジン。私が、シルフィと一緒に保護したの」

「保護?」

 そういえば昨日シルフィが、イマジンを襲ってフォームメダルを奪う者が居る、というような話をしていた。

「エヴァンジェリアに属する七つの世界の事は、シルフィから聞いたんだよね。……実は近年、神話でしか語られていなかったエヴァンジェリアの世界系外に存在する第八世界……地底世界ヘルヘイムの魔神族を統べる王、魔王ディアボロスが封印を解かれて、世界を滅ぼす計画を本格化させ始めたの。それまで魔神族はあの手この手で世界を攻撃し続けていたけど、それが一気に加速したってところかな。

 その計画の本質は、七つの世界を魔界へと作り変えて、魔物を通じてマナを世界中に溢れ出させる事。実はこの世界、マナがなくてはならないものではあるけど、その分配がかなり偏っていてね。『地脈(レイライン)』っていうマナの大きな流れがある場所とない場所で、作物の実りや技術力が格段に違うの。そして、レイラインの濃い場所は大都市の貴族や財閥が占有している。マナの再分配を訴え続けてきた人々のうち、過激化した一部は、マナを世界に溢れさせるっていうディアボロスに忠誠を誓って、『ヴェンジャーズ』っていう組織を独自に結成したのよ。

 ディアボロスは、人の心理に付け込む事を得意とする。自分と共に既存の秩序を壊す事に協力してくれたら、新たにマナの心配がなくなった世界で、安寧を約束しようって貧しい人々に言ったの。つまり、自分に従う者は滅ぼさずに救ってやる、って事ね」

 ユリアは言うと、馬鹿みたい、と乱暴に息を()いた。

「イマジンからフォームメダルを奪う事で世界を滅ぼそうとしているなら、その人たちだって破滅するに決まってる。魔物が凶暴化して、世界に災厄が起こるんだから。それに、魔神族は(さが)として人と共存する事は出来ないんだから、用済みになったらヴェンジャーズだって容赦なく処分されるはずよ」

 その口調が何処か寂しげだった為、彼女の知り合いがヴェンジャーズに居るのだろうか、と考えた。しかし、俺が何かを言うよりも先に、アロードと呼ばれたイマジンが「ちょっと待てよ」と口を挟んできた。

「こいつ、そんな事も知らねえのか?」

「え、いや……」

 俺が弁明しようとすると、彼は鼻を鳴らした。

「記憶喪失とか言うから変だとは思ったけど、まさかそんな事まで忘れちまったなんてな。幾ら何でも酷すぎる、どうして俺がこんな奴と……」

「ちょっと、アローちゃん」

 シルフィが窘めるが、アロードは怒ったようにガタン、と椅子を鳴らして立ち上がる。俺はいきなりにべもない言い方をされ、腹を立てるよりも先に戸惑った。

 俺が、彼と何をする予定だったのだろう。ユリアとシルフィは、彼に俺の事をどのように伝えていたのだろうか。

「だから言ってんだろ、ずっと前から! 俺のブレイヴは俺が探す、だから早く外に出してくれってな。保護なんて言って、いつまでも軟禁状態でさ。このままじゃ死んだも同然だ。ヴェンジャーズは俺とシルフィを探してんのに、シルフィは契約出来て俺は何も出来ねえ。存在すらない事にされて……」

「外は危ないの!」シルフィは割り込み、アロードに叫び返した。「あたしたち、ヴェンジャーズから逃げてユリアちゃんに助けられたんじゃない。忘れたの?」

「ブレイヴの居るお前に言われたくねえ!」

 アロードとシルフィは睨み合う。俺は話に着いて行けず、おずおずと挙手した。

「あの……さ、俺、何をすればいいの? アロードは、俺が気に入らない?」

「心配しないで、ケント君」

 ユリアは、イマジン二人の肩に両手を置いた。

「実はね、昨日私とシルフィで、アロードに持ち掛けてみたんだ。私の命を救ってくれた、とっても強くて格好良い王子様が居るから、ブレイヴとして契約したらどうかな、って」

「えっ、俺が?」

 驚いてアロードの方を見る。彼は、不貞腐れたようにそっぽを向いていた。

「ケント君は記憶喪失だし、この世界についてもよく知らない。だけど、ブレイヴにはぴったりだと思うよ。優しいし、強いもん」

「俺……強くなんかないよ」

 昨日からベタ褒めのされ通しで、俺は気まずさを感じる。アロードの抱いた印象こそが、本当の俺に近いように自分では思う。

「強いよ、ケント君は!」

 ユリアは叫ぶと、ずいっと俺に顔を近づけて来る。俺は、仰反(のけぞ)りつつも赤面してしまう。

「戦闘に不慣れなのは最初は誰でも同じ。でも、ケント君はその中でも私を助けてくれた。きっとケント君は、今にどんどん強くなっていって、私よりも強くなって、そのうち……私を守ってくれるようになって…… 」

 ユリアは一人で想像して舞い上がっている。シルフィは呆れ顔で「ユリアちゃんってば、本当に乙女なんだから」と呟いた。

 俺はその時、ふと昨日ガーディさんが言っていた事を思い出した。確か、シギンさんが「現在屋敷にはのっぴきならない事情がある」というような事を言っていた、という旨を俺が教えた時だった。

 ──その”事情”とやらは、アロード・ファイヤーに関する事か?

 もしかしたら、その通りだったのかもしれない。イマジンたちの話をそのまま受け取るなら、アロードとシルフィはヴェンジャーズに追われてギアメイスの村に逃げ込み、ユリアに保護された。結果としてシルフィは彼女と契約する事になり、その存在が(おおやけ)になったが、アロードは未だに存在を隠されている……という事なのか。

 そしてアロードは、それに不満を持っている。ブレイヴを探し、自分も戦いたいと思いながら、それが出来ないでいる。

 俺は、何だかアロードを可哀想に感じた。出来る事なら、俺が何とかしたいという思いもある。それに、ブレイヴに変身したユリアの強さは途轍もなかった。剣を叩き落されてさえいなければ、俺が居なくてもジャバウォックに勝てていそうだった。俺も、アロードと契約すればあのように戦えるようになるのだろうか。

 反面、世界に八人しか存在出来ないブレイヴの一人が、余所者の俺で良いのだろうか、という気持ちもあった。

(……逃げるのか?)

 心の中で、そう自分に問うた。相変わらず分かりづらいが、もしかすると、これがゲームの大前提かもしれないのだ。つまり、素性の知れない主人公が村で唯一戦えるブレイヴのヒロインを助け、それがきっかけでブレイヴとなり、戦う事になる、という。

「……ユリアが『友達』って言うからには」

 アロードは(しば)らく黙り込んでいたが、やがて微かに頭を上げて口を開いた。

「本当に、ちゃんと戦える奴なんだろうな、お前?」

「まあ、一応はね……」

 俺は肯く。

「お願いよ、ケント君」シルフィは両手を合わせた。「アローちゃんは生意気なガキだけど、あたしにとっては可愛い弟分みたいなものだしさ。契約してあげて、ユリアちゃんの目には狂いがないのよ」

 アロードは「弟分?」と言い、不満そうな顔をしたが、またシルフィに対して反駁するような事はなかった。俺は少し考え、意を決して彼に言った。

「契約しようよ、アロード」

 特段の自信がある訳ではない。だが、今の俺にとっては必要な事だった。

「ユリアもシルフィも、ああ言っているんだし。俺は確かに未熟者で、君にとっては不満も不安もあるかもしれない。だけど、俺も精一杯やるつもりだから……何なら、今日ヴィラバドラを討伐する時に、俺がブレイヴに相応しい人間かどうか確かめてくれ」

「……分かったよ」

 アロードは、不愛想ながらもそう答えた。昨日ユリアが持っていたのと同じようなフォームメダルを、俺に差し出してくる。俺がそれを受け取ると、ユリア、シルフィはぱちぱちと拍手をした。

「その代わり、ヴィラバドラ退治であんたの実力とやらを見せてくれよな」

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