『ブレイヴイマジン』第7章 オープンゲート④
* * *
翌日、俺とアロードは、ゼドクとルクスがこの街に来ていないか聞き込み調査を行った。
昨日郊外で起こった戦闘は、アーチェスレリアの衛兵や魔法使い、ヴェンジャーズの双方に多くの死傷者を出したようだが、ガーディさんがヴェンジャーズ側を一時的に撤退させた事で鎮静化したらしい。しかし、彼らはガオケレナのすぐ根本に、スピナジアの時のような大規模な陣を形成し、世界樹の守り手たちに戦いを挑む準備を進めているようだった。
先手を打たれ、主導権は奪われた。ユリアたちは今街の役人たちと会合を行い、ヴェンジャーズとの決戦に備えて部隊を編成するように要請しに行っている。ブレイヴである彼女と、ステファン王の薨御により暫定的にミッドガルドの長となっているイヴァルディさんの出席は欠かせず、補助にコーディアたちも回った為、ゼドクを探すのは成り行きで俺とアロードのみとなった。
「すみません」
俺はまた一人、道路で清掃を行っている男性に話し掛けた。
「この辺りで、イマジンを連れた若者を見ませんでしたか? 黒髪で紫色の瞳の、何処か外国人っぽい……動作や言葉が、演劇の台詞みたいな男の人です」
「そうだなあ、ううむ……ごめん、分からないや。その人、君たちの知り合いなのかい?」
「あ、はい。少し、協力して欲しい事があるんです」
「見かけたら伝えるよ。宿は『春の鹿子亭』?」
「そうです、ありがとうございます」
宜しくお願いします、と頭を下げると、清掃員は再び道路を掃き清め始めた。
この調子で、なかなか手掛かりは集まらない。
「もう少し、街から離れて聞き込みしてみようぜ。もしかしたらあいつら、この街には寄ってねえのかもしれねえ」
アロードが提案してくる。ここまで来る半月間もだが、最近の俺たちは情報収集しかしていないような気がする。が、今は仕方がなかった。俺は肯き、彼と共に郊外に出るべく、東に進んだ。
郊外に出、彼方──とはいえガオケレナが巨大な為、すぐ近くにあるような錯覚を抱かせる──ヴェンジャーズの陣を横目に東へ移動していくと、小さな集落が目に入った。恐らくアーチェスレリアの、日本の県でいうところの「飛び地」に当たる部分なのだろう。
俺たちはそこに向かい、まず入口に居た衛士にゼドクの事を尋ねると、そこで初めて手応えのある情報が入手出来た。
「イマジンを連れたお客の事なら、通り沿いに一軒ある宿屋の支配人さんが何か言っていたよ。世界樹方面に向かうような事を言っていたけど、ヴェンジャーズを刺激しないか心配だ、って」
「本当ですか!?」
俺たちは歓声を上げたが、それはすぐに懸念に変わった。彼は、俺たちが何かを言わない限り一人で戦おうとする。ヴェンジャーズを刺激する事もだが、まず彼がルクス諸共無謀な戦いに挑むのではないか、という事が心配だった。
「ありがとうございます、その宿に行って話を聴いてみます!」
俺たちが向かうと、「雨傘の唄亭」という宿はすぐに見つかった。受付に立っていたのは、背の高く、痩せた壮年の男性だった。
「すみません、支配人さんはいらっしゃいますか?」
「はい、私がそうですが……?」
「失礼しました。突然で申し訳ないのですが……ここに、ブレイヴの青年が来たと聞きました。彼らが今何処に居るのかなど、お分かりでしょうか?」
俺が早速本題に入ると、支配人は眉を潜めてペン先を眉間に当てた。
「さあ、そのような二人は確かにいらっしゃったのですが、実は彼らは宿泊なさらなかったのです。入口で休憩するだけで、名簿にも名前を記載しませんでしたし……とても険しいお顔をされていたのは覚えています」
「何か、話していたりとかは?」
「お客様のプライバシーですが、あなたもイマジンの方をお連れとお見受けしますので、お話し致します。彼らは、太刀使いのガーディという人について何やらお話しされていましたよ。彼を探して、世界樹に向かうとか……今、樹の周辺にはヴェンジャーズが集まっていますので、お止めしようかとも思ったのですが」
「ケント、それって……」
アロードが、鬼気迫る表情で俺の袖を引いた。
「間違いなさそうだね。ゼドクたちは、ガーディさんを倒しに行ったんだ」
俺は彼に応じると、支配人に向かって頭を下げた。
「情報提供、感謝します。アロード、すぐに行こう」
俺はお辞儀をすると、既に駆け出していたアロードの後を追って宿を走り出た。
* * *
集落を出、俺たちは世界樹へ向かって疾駆する。ユリアたちに伝えるのが先決ではないか、とも一瞬思ったが、もう一度アーチェスレリアと往復したのでは時間が掛かりすぎる。
彼らが宿を訪れ、また去った時間については聞きそびれた。俺たちとほぼ同時にセイバルテリオを出発した以上、そこまで時間は経っていないはずだが、などと考えて百メートル程を走った時、樹とは別に新たなものが見えてきた。
額に宝石のようなものが嵌め込まれた、鱗に身を包んだ飛竜の魔物。そして、そのすぐ横には、半分宙に浮かんだような状態の魔物に対し、武器を振り上げる白ずくめの剣士。
「ゼドクだ!」
「しかも、戦っているのはヴィーヴルじゃねえか……あいつ、ヴェンジャーズを止めに行く途中であれに襲われたんだな」
話している途中で、
「光輪斬撃破!」
ゼドクのクリアレストライトが、飛竜の翼に炸裂した。ヴィーヴルは激昂し、口から大量の熱線を吐き出す。俺はあっと叫びかけたが、遅すぎた。
熱ブレスはゼドクを正面から包み込み、地面に当たって大量の火花を散らす。転倒した彼に、追撃で魔物の牙が迫る。俺はもう、見ていられなかった。
「トランスフォーム『アロード・ファイヤー』!」
変身すると、デュアルブレードを抜刀しつつヴィーヴルに突進する。しかし、それが到達するよりも早く、その鋭い牙がゼドクの鎖骨辺りに突き立てられた。血液が迸り、ヴィーヴルの鼻先が真っ赤に染まった。
「覇山焔龍昇!」
俺は動揺で足を止める事なく、魔物の体側を大きく斬り上げる。唸り声を上げながら魔物がこちらを向いたので、その鼻面を思い切り薙ぎ払った。
「グアアルルルルッ!!」
ヴィーヴルは狙いをゼドクから俺に移し、口元に火花をちらつかせ始める。俺の技を二度喰らっても、まだ戦意を喪失していないらしい。やはり竜系は耐久値が凄まじいな、と思いながら、俺はその熱線が射出される前に、第三の攻撃を繰り出していった。
「爆炎天翔斬!」
頭部を横向きに薙がれ、ヴィーヴルは俺とゼドクから斜め上方向に外れた位置にブレスを飛ばす。火種が口元で暴発したらしく、飛竜は咳き込むような息と共に煙を吐き出した。それで懲りたらしく、魔物は舞い上がり、飛び去った。
「ゼドク!」
俺は変身を解き、彼を助け起こす。彼の変身も既に解除されており、右手の傍にはルクスのフォームメダルが落下していた。
「ゼドク、しっかりしろ!」
「ケント……」彼の瞼が、微かに痙攣する。「賊が……世界樹に……」
それだけ言うと、彼はがくりと首を垂れた、唇は既に血の気を失っている。
俺は、アロードに向かって叫んだ。
「手伝って! ゼドクを、さっきの宿屋まで運ぶんだ!」