『ブレイヴイマジン』第7章 オープンゲート③
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俺たち七人は公園に集まり、浮かない顔を突き合わせた。
「外には、ヴェンジャーズが居る。だけど、肝腎のガーディをどうにかしなきゃ、彼の計画は止まらない。魔神族と直接契約しているのは、彼だもの」
鞦韆に腰掛け、コーディアは苦い顔で呟いた。アロードは俺を見、「お前さ」と言いづらそうに口を開いた。
「ガーディと、何か繋がりがあるのか? 俺たち、お前が記憶喪失だって事、つい忘れそうになるからさ……もし何か思い出した事があるなら、言えよ? もしガーディの事で、何か知っていたら」
「ごめん、特に何も……」
話してしまう事は出来たが、俺はそれを言えなかった。つい数時間前までは、事態が事態であるだけに話さざるを得ないか、と思いもしたが、ガーディさんの口から全てが話された今、俺がそれを明かす事に大きな意味があるとは思えなかったし、何より俺が本当にルーラーによって招喚された使徒であると明かす事で、必然的に告げる事になるものが辛かった。
俺がこの世界で役目を果たすという事は、全てが終わったらフロントワールドへ帰還するという事だ。それは、仲間たちとの別れを意味する。アロードやシルフィ、ゼドクやルクス、旅で出会った皆、そしてユリアとも、時空の境界に隔てられた俺の世界では、もう永遠に会える事はなくなるだろう。
ユリア──ルーラーによってこの世界に送られ、右も左も分からない状態の俺と、初めて友達になってくれた少女。成り行きで俺が命を救い、魔物を一緒に倒し、旅に出た相棒。慣れない生活と現実への不安で消耗し続ける俺を、いちばん傍で癒し続けてくれたのは彼女だ。
しかし、世界を救いたいと思う気持ちは、嘘ではない。また、それを果たして今度こそ、フロントワールドで逃げずに生きたいという思いも。強烈な両面感情が生じ、心が凍りつくのを感じた時、アロードが「そっか」と呟いた。
「だけどさ、最低限すべき事は分かったんだ。ヴェンジャーズも、魔王ディアボロスも、止めなきゃいけねえ」
「当たり前でしょ。あたしたちのイマジスハイムまで……友達皆、殺されるかもしれないっていうんだから」シルフィが、決意を孕んだ声で言った。
「でも、どうすればいいのかな。今度戦うヴェンジャーズは、セイバルテリオに居た奴らに加えて、この近辺全域の駐在部隊。イヴァルディさんだって前の戦闘でああいう事になりかけたんだし、そもそもあたしたちだけじゃ……ガーディを食い止めるので一杯一杯よ」
ロゼルが、しどろもどろに容喙する。その時ユリアが、徐ろに発言した。
「さっきガーディが、魔王の属性に対抗出来るのはイマジンだけだって言っていたよね? だから、今までの旅で出会ったブレイヴとイマジンを皆集結させたら、もしかしたらガーディを止められるんじゃないかな」
「ブレイヴたちを?」
コーディアが、目を丸くする。「そんな事、出来るの?」
「当然、ガーディがヘルヘイムに行ってディアボロスを呼ぶには、世界樹を使って魔界の門を通らなきゃいけない。だけど、世界樹の警備は凄く厳重だし、一日や二日で易々と突破出来るものではないはず。まだ時間はあるわ」
「ゼドクたちも、世界の危機がすぐそこまで迫っているとなれば、また協力してくれるはずだろうしね」
イヴァルディさんが、腕を組んで熟考の姿勢を取った。
「もしかしたら、彼らも噂を聞いてこの辺りに来ているかもしれないよ」
「あとは、リビィにアスターク、ジーゼイドさん、スティギオね」
「いい方法だと思うよ。もし選択なんて出来ない状況まで追い込まれたら、俺たちもヴェンジャーズの命を大勢奪わなきゃ済まない事になる」
俺が言うと、皆はっとしたような顔になった。
「もしかしてケント君、彼らも救いたいって思っているの?」
ユリアに問われ、俺は肯いた。
「犠牲はなるべく出したくないって、ブレディンガルでも話したじゃないか。俺はその気持ち、まだ変わっていないよ。救いたいんだ、勝手な感傷かもしれないけど。彼らは魔神族みたいな、絶対の敵じゃない。このミッドガルドで生まれ育った人間だから……勇気って、対立する者をただ滅ぼす為だけのものじゃないと思うから」
言ってから、傲慢な台詞に聞こえるかな、と反省する。しかし、黙って俺の言葉を聴いていたユリアは、眩しそうに俺を見つめながら微笑した。
「ケント君、本当に成長したよね。最初に会った頃は、一言口に出すのも大変そうだったのに」
「俺の人見知りとか、シャイな性格が改善されたのは、ユリアのお陰だよ」
「そうかな?」
「ああ。俺の隣に居る人は、やっぱりユリアじゃなきゃ」
言った時、仲間たちの空気が微妙に変化する。あれ、何かおかしい事を言ったか、と慌てかけた時、ユリアが頰を染めてもじもじと縮こまった。シルフィが「ケント君さすがー!」などと言いながら、俺に肩をぶつけてくる。アロードが「隙ありゃ即イチャつくんだからなあ」と溜め息を吐き、コーディアは「これが天然誑しというやつか」と独りで納得している。
「いや、そういう事じゃなくって!」
真面目な話をしていたのに、と思い、俺は疲労を覚えながら仲間たちを宥めた。話を戻すように咳払いし、「ともかく」と続ける。
「皆に連絡しなきゃ。ゼドクは後で探すとして、どうやってリビィたちを呼ぶ?」
「無難に手紙でいいんじゃね? 俺たちには、HMEもねえしな」
アロードが応じる。「ここは丁度ミッドガルドの中心だし、四箇所でも速達で手紙出せばすぐに届くと思うぜ」
「よし、じゃあ早速準備に取り掛かろう」
俺は締め括った。
旅が始まってから八十六日目。俺たちの冒険はまだ続く。世界を救うという目的は大きいが、少しずつでも出来る事をしよう。俺は、そう思った。




