第九十五話「この学園ライブはひと味違う!もう一度ギャルゲーソングを響かせろ」
ギターを鳴らす音が聴こえ、僕らのライブが始まっている。
ドラムにベース。そして、芹沢さんのギターとともに僕のギターも大きく響き渡る。
――まずは、この曲からだ。
弾くのは、これまで弾いてきた中の一曲。学校で以前に弾いたことのあるものであった。
しかし、今回は構成を変えた。
ボーカルを響子から僕へ。コーラスは芹沢さんと響子と入れ替えている。
大型イベントに合わせた構成で、この合同ライブに挑むのだ。
イントロの出だしが、流れるように体育館へと広がっていった。
――ギュワワァァン!
特に僕と芹沢さんのギターがいつも以上に引き立てさせる。以前よりも、音色が良いとさせ思う。
こんなにも音に動きがあるのは、目の前に見える光景にあった。
体育館を埋めつくす……とまではいかないが、想像をしていたよりも多くの生徒が集まっていた。
集客ゼロ。そんなことを考えていた自分が恥ずかしい。そう思いながら、僕はギターを弾き曲を進めていく。
以前のような冷やかしや、悪く思っている人がいる感じがしない。きちんと、僕らのギャルゲーソングを聴き入っている。
そう思えてくるのが、僕らの演奏に力が入っている証でもあった。
――しかし、なぜ急にここまで好印象になったのかな?
これと言って特別になにかをした覚えがない。
けれど、きちんと観ている生徒を統制しているところを見るに、これも生徒会のおかげあのだろう。
そう思った僕は、その感謝もギターに込めて弾く。
イントロも良い感じで弾けているし、ここからが見せ場となる。楽器を弾きつつ、僕はマイクスタンドにあるマイクへと顔を近づけた。
曲の構成を変えた、僕のボーカルが入る。
Aメロへとつながった瞬間に僕は声をマイクにのせて歌う。
響子がマイクを握っているのから、観客は彼女が歌と思っていたのだろうか。僕がいきなり歌い出したので、おどろく人の顔が見える。
だが、おどろいたのも一瞬ですぐに場の雰囲気が変わる。
――これは……どう捉えればいいのだろうか。
歌声におどろいているのはわかるけれど、それがすごいからなのか変だから冷めたのか。
どちらにも感じ取れる雰囲気に、僕は歌いながら戸惑う。
コーラスを歌う芹沢さんたちや、ドラムやベースを弾き続ける瑠奈たちもどうしたもんかと、弾く音で感じる。
このままでは良い演奏のラインが崩れてしまう。どこかで見ている大石君たちに、ガッカリされてしまうかもしれない。
なんとも言えない空気の中で演奏をする僕らの前に、その声が大きく聞こえ始めた。
「やほおおおおい! 素晴らしいではないか、岩崎君! 原曲のようなジワジワと来るボーカルになっているぞおおおおお!」
一人で大声を上げながら、周りを気にすることなくさけぶ。それは金本であった。
突然の声に、ステージで演奏をしている僕ら。そして、体育館にいる他の生徒の時が一瞬だけ止まった。
――あのおかっぱ野郎……いきなりさけんで、どういうつもりだ。
また暴走をして場の空気を壊すつもりかと、僕は金本をにらみつける。
けれど、その後に金本が隣にいる生徒にそう同じことを尋ねているような姿があった。
「どうだい! チミもそう思うだろう? あの曲はギャルゲーの黄金期で一番の有名な作品のでねえ」
「は……はあ」
これ以上、変に暴走をしないでおくれよと言ってやりたいが、悔しいかな僕らは演奏の手を止めるわけにはいかない。
僕らのライブは続ける必要がある。
けれど、金本のさけびを聞いた生徒たちがざわざわと騒ぎ始める。
「まあ、たしかにギャルゲーはどうか知らんけど、歌は悪くないかもな」
「前は女の子のボーカルだったけど、男の声でも良いように聴こえるような……」
という声が、わずかに聞こえてくる。
その声は次第に周りへと伝達されていき、ざわめきは歓声へと変わる。
「いいぞー! 岩崎。おまえってボーカルができるんだな!」
「そんな顔をしてないで、歌えー! 軽音楽部に負けるぞー」
同じクラスの連中が、そう茶化し出すと笑い声も混じり始める。なんとも、不真面目なライブだろうか。
だが、こんな空気感の中でライブも悪くない。いや、だからこそ逆に曲の演奏が持ち直す。
――なにを言っているんだ、クラスのやつらは。まだまだ、これからだよ。
僕はそれを証明させるように、声量を上げサビを歌う。響子とはまた違ったか歌唱に、すごみが増す。
歓声がさらに大きくなっていき、その雰囲気はどこかのメジャーバンドのコンサートだ。
これまでやってきた学校でやったライブの中で、おそらく一番のノリを観客から感じる。
僕のボーカルが、観客を湧かせている。ギャルゲーソングを歌っているのに。
リードコーラスをメインにしていきた僕も、同じ気持ちよさを感じるが、こんな気持ちを響子は毎度味わっていたと思うと、うらやましい。
メインボーカルだけが得られるこの表現できない気持ちを、僕は歌いながらさらに感じていった。
そして、僕らは一発目の曲を弾き切ることができた。
まだ一曲目なのに、すでに会場が盛り上がりっている。けれど、まだまだライブハウスのような歓声と熱気は少ない。
このまま二曲目といくのだが、そこで僕は後ろへ振り向いてみんなに提案をする。
僕がそれを口にすると、みんなはおどろく。
「え? いいんですか? それは大型イベントでやる予定じゃあ」
「いや……この良い雰囲気をさらに爆発させる必要がある。この後に出る軽音楽部にプレッシャーを与えてやりたいしな。それに、なにより……」
そう言った後、僕は芹沢さんを見つめる。
芹沢さんは初めに動揺を見せるが、次第に目からやるぞという意思をのぞかせる。
「よし! それじゃあ、いくか!」
「まあ、やるしかないっしょー!」
「「おおー!」」
話はまとまったところで、僕らはふたたび演奏の準備をする。
そして、僕は正面にあるマイクスタンドからギターの芹沢さんと交代をする。いきなりの行動に、観客は興味深そうにしていた。
なにも用意されていない純粋にギターだけのためにあるスペースに、僕は行く。
マイクスタンドが正面にあるところにいる芹沢さんが慣れない手つきでマイクの位置を調節しているのを見守る。
「さあ、芹沢さん。君のボーカルをみんなに届けてみようか……ギャルゲーソングの魅力を君の歌声で」
僕はそう小さな声で芹沢さんを見ながら口にする。
すべての調整を済ませ、ギターを構えてマイクスタンドにいる芹沢さんはもう立派なギターボーカルだ。
僕らはこれから二曲目を演奏する。僕の提案通りの、芹沢さんが歌う構成で挑もうとしていた。
きっと、この体育館の雰囲気をさらに変えることができるはず。僕はそう確信をしながら、みんなに合図を出す。
ドラムのスティックがカンカンと鳴り、カウントを取る。僕はギターを構え、カウント後に力強く鳴らした。
僕らの二曲目のギャルゲーソングを弾き始めるのだった。




