第九十一話「抽選会で再会は、互いの誓いでもある!」
正直、よくテレビで見かける甲子園の組み合わせ抽選会とは、こういうものなのだろうか。
僕は山本先生と一緒に、とある会場の席に座って始まるのを待っている。
「なんか……変に緊張をしてきますね」
「まあ、文芸関係の部活でこんな抽選会があるとも思わないし、参加をすることもないからなあ」
抽選会のくじ引きがもうじき始まるだろうけど、僕は辺りを見回す。
いかにもな陽キャ。派手な金髪のヤンキーから、ギャルまでそれはまさに多種多様。
この中で場違いな学生がいるならば、それはおそらく僕であろう。
――居心地が悪いような。
特に知り合いも近くにいるわけでもなく、ガヤガヤと騒ぐ会場の雰囲気に僕はそう感じていた。
すると、隣に軽音楽部の大石君がドスンと座って僕を見つける。
「なんだ、おまえも来ていたのか」
「まあ……なりゆきはどうあれ、僕らの同好会も参加することになっているしねえ」
「まさかの市長の娘である芹沢さんがいての奇跡みたいなものだからな。それより、イベントでやる曲は仕上げているのか?」
大石君はそう尋ねると、僕はうなずいた後に話す。
「数あるギャルゲーソングの中で、これだって曲を選んだからね。もちろん、完璧に仕上げているよ。大石君たちは?」
僕は逆に尋ねる。軽音楽部がどういった曲をやるのか、それは気になった。
僕の通う学校の軽音楽部は以前より、大きく変わった。入部をしようと思っていた時にいたチャラい先輩を含め、軽い気持ちでやっているような部員はいない。
バンドに対して、とても情熱的で真面目であるという印象が強い。
大石君が部長であるだろうけれど、どういったジャンルの曲をやるのか。実力はどこまであるのかは、まだよくわかっていなかった。
「俺たちはオルタネイティブ系の曲をやるよ。今は、ハイトーンのボーカルが流行っているからな。それに寄せたバンド編成でイベントに出るつもりさ」
「そうなんだ。それはすごい……」
そう話す大石君の目に自信があるように見えた。彼らなりに、このイベントで結果を残したいという意思を感じる。
おそらく、それは僕らと同じように。
「もしかしたら、組み合わせ次第で僕らが当たるかもしれないね」
同じイベントに出るのだから、当然その可能性はあるだろう。すると、大石君が答える。
「ん? それはないぞ。高校で二つの部が出る場合は、グループが分かれるんだ。まあ、決勝とかで当たる場合もあるけどな」
「へ? そうなの?」
「そりゃあ、そうだろう。一回戦で同じ高校で戦うとかは、見たことはないだろう」
「まあ……そうだよねえ」
言われてみればたしかにそうであるが、総スカンを食らったみたいだ。
しばらく大石君と話していると、会場の雰囲気が変わる。すると、壇上になにやらかしこまった人が現れてマイクでしゃべり始める。
「えー。それでは、これよりライブイベントの抽選会を開催いたします。学校名を呼びましたら、代表者は壇上に来てくじ引きを行ってください」
そうマイクで話した後、会場は盛り上がることもなくまるでお通夜のような空気が漂う。なんとも、悲しい組み合わせ抽選会だろうか。
その後、淡々と抽選が行われていく。
僕の番はまだ先である。くじを引いて、壇上にあるボードに高校名が貼られていった。
すると、大滝エマがくじを引くのか壇上に上がる姿を僕は見つめる。
「さて……どこの学校とだろうか」
僕は対戦相手がどこの学校なのか。そして、僕らの同好会と同じグループに分けられるのか気になった。
くじの番号を司会の人に手渡し、それを確認をした人が学校名の書かれた紙を貼る。
グループはⅭ。その対戦相手の枠は空白だ。
「次は……」
そう司会の人が話すと、僕と大石君を呼んで壇上に上がるよう言われる。
同じ高校の生徒が二人くじを引くのだ。そのことに、他校の生徒が反応をする。
――なぜ、二枠をこの学校が引くのか。いったいどういうことだ?
などと思っているような視線が、こちらに突き刺さる。変に注目を浴びてしまうことに僕はなんともいえない心境だ。
「えー、まずは軽音楽部さんから。そして……市からの特別推薦である音楽研究会さんはその次に引いてください」
「「はい」」
僕と大石君は司会の人に言われ、先に大石君が箱からくじを取る。彼の引いたくじにはCグループの文字。
ボードを見ると、まさかの対戦相手はあの大滝エマがいる高校とぶつかった。つまり、この二校が一回戦で戦うことになるということだ。
そして、次はいよいよ僕の番である。
できるならば、勝ち上がった先にどちらかと対戦をするようなところがいいと願いながらくじを引く。
「……Aグループかあ」
紙に書いてあるグループと番号を見た後、僕はすぐにボードを確認する。そこにはすでに決まっていた学校名のとなりに同好会の名が並ぶ。
その一回戦目の学校には身に覚えはない。だが、勝ち上がっていく先には滝沢エマが入っている軽音楽部が遠い。
それはつまり、グループAですべての高校に勝たなければ当たらないのだ。
「こりゃあ……修羅の道になりそうだな」
僕はトーナメント表を見ながら、そう吐露する。こうして、僕らの組み合わせ抽選会は終わりを告げた。
会場の外で山本先生の車を待っていると、他校の生徒はぞろぞろと帰っていく。その様子を見ている僕に、例の滝沢エマの姿がある。
なにか声をかけるべきかと悩んでいたら、彼女のほうが僕に気がついて近づいてきた。
「やっぱり、同じイベントに出るんだね! それに、一回戦が君の学校の軽音楽部だなんて、なにかの縁かなあ?」
「え? あっ、そうだね」
僕は思わず、そう答えた。いきなり話しかけられたら、つい緊張をしてしまう
「ねえ、そっちの軽音楽部ってどんな感じ? やっぱり、そこそこうまい?」
「たっ、多分? 僕は軽音楽部がいいバンドだと思うけど」
「そーかー! なら、気合を入れて挑まないとね」
こちらの軽音楽部について聞いてくるが、そこまで気にしている様子はない。余裕すら感じる。
それだけ、自分たちのバンドに自信があるからだろう。
「まあ、グループは違うけど、最終的にお互いに対戦相手になれたらいいね!」
「そうだね。まずは、グループを勝ち上がらなきゃだ」
「君がどんな演奏をするか、楽しみだね。まだ、聴いたことはないしね」
「きっと……おどろくようなライブにしてみせるよ。もし、戦うことになったらそれを知ることになるさ」
そう。滝沢エマはまだギャルゲーソングを聴いたことがないはず。ならば、その良さを知らしめるのだ。
僕がそう話すと、滝沢エマはにやりと笑う。そして、なぜか握手を求めた。
「それじゃあ、お互いにイベントで最高のライブをやろう。あたしらのどちらが良いライブをやるか勝負だね」
そう口にして差し出された手を僕は握って無言でうなずく。僕らの手の力は、ぐっと力強く握られる。
――すでに、勝負は始まっている。
必ず、この人に勝とう。僕はそう思った。




