第五十六話「お誘いは大型イベント!そこに映るのは強き者たち」
同じクラスの軽音楽部に入っている大石君から、僕らに伝えたことはおどろくものだった。
――数ヶ月後に開かれる、高校生たちによるライブの大型イベント。
それを例えるならば、スポーツの県大会に出るようなもの。僕らの住む県にある高校生バンドマンたちによるナンバーワンを決めるイベント。
「それって、普通は軽音楽部しか出れないイベントでしょう? なんで、あたしらが出られるのよ」
「大石君が言うには、この前の大報告でやった僕らの演奏を聴いた学校関係者が特別な枠で出してもいいってことになったんだって」
「いやいや……あたしらはギャルゲーソングをメインに活動している同好会でしょうー? さすがに、場違いすぎるってー」
大石君から伝えられた後、僕らはそう話し合いをしていた。
あまりにもいきなりなことに動揺と混乱が部室に広がる。
「あのう……岩崎先輩。あたしたちは、そのイベントについてまったく知識がないんですが、そんなにすごいイベントなんですか?」
僕と響子が話していると、瑠奈がそう尋ねてきた。
「うん。俺も聞いたことがないな……芹沢先輩はありますか?」
「わたしもそんなイベントがあったなんて知らなかったかな。前にいた高校でも、そんな話があったとは聞いたことがないし」
芹沢さんや瑠偉も、同じくそのイベントについては知らずにいる。
僕も詳しくはわからないが、毎年に軽音楽部が出場ている行事であるくらいのしか知らない。
あくまで、軽音楽部のためにあるイベンドだろうと思っていた。
「本来は僕らのような同好会が参加できるわけでもないし、なにか見えない力が動いていたのかも」
「なんですか、それ。まあ、ライブができるイベントに出られる意味ではラッキーでしたね」
「一応、うちの軽音楽部も出るからな。それに負けないように、良い演奏ができるようになろう」
せっかくライブができるチャンス。この機会を逃すと、僕らはただ練習をするだけの日々を送るはめになるだろう。
一回戦敗退でも、ギャルゲーソングを知らない人たちに聴かせることができれば目的としては達成できるのだから。
「よーし。とりあえず、弾ける曲をさらに練習をしていこう!」
「まあ、そうですよね。イベントに向けて、改めて練習をしなきゃですね」
ある程度、話し終わった僕らは曲の練習を始める。どういったイベントなのかは、後日に回すことにした。
練習の途中で、珍しく顧問である山本先生が尋ねてくる。
「おまえら……どういう経緯で、こんなことになったんだよ」
「あっ、山本先生。やっぱり、先生のところにも話が来てたんですね」
「ああ。軽音楽部を担当する先生からな……すごい迷惑そうに、うらみがこもったお言葉をもらったぞ」
山本先生はそうげっそりとした顔をしながら、僕らに話す。いつも同好会は僕らにまかせっきりな先生だが、今日はめずらしく部室に姿を現す。
ということは、この大型イベントに先生がきちんと真面目に顧問につく。
「一応、学校からの正式な行事だからな。今回は俺がきちんと引率をすることになったから、くれぐれも問題を起こさないように」
「「はーい」」
本当はやりたいくないという本音が、先生の顔から読み取れる。しかし、こうなったからには、全力でライブに挑むべきだろう。
特になにもせず、椅子に座る山本先生を横に僕らは練習を再開する。
ギャルゲーソングを弾く僕らは、完璧な演奏をそれぞれが行う。相当な練習と、少ないながらも人前でライブをやってきただけに、みんなはミスがなく楽器を奏でていた。
「ほう……おまえらは、それらしく弾けるようになっているな。先生がいない間に、けっこうな努力をしてきたと見える」
「先生……普通は部活の時間は顧問がいるのが当たり前でしょう? なんで、いつもいないんですか」
「ふっ。先生はこう見えて、忙しいんだよ。授業の準備やら、会議。そして、古きギャルゲーをプレイしなければ……だからな!」
「いや……最後のギャルゲーをプレイするのだけは、納得がいかないのですが」
「部活動は岩崎にまかせているから、安心してギャルゲーができているのさ」
この山本先生ときたら、顧問のやるべきことをせずにふざけたことを言いやがる。
――まさか、職員室でギャルゲーをしているのか?
などと思いつつ、僕はため息をつきながらギターの弾く手を止める。
「けど、その演奏では他の高校生がやるライブには勝てないのかもな!」
「え? どういうことですか」
先生の言葉に、瑠偉はそう聞き返す。
僕らはまだライブの経験は少ない。しかし、演奏に関してはそれとなく自信はあるだけにみんなも納得がいっていない様子だ。
それをわかっているのか、山本先生は話を続ける。
「たしかに、メンバーが変わってバンドは新しくなっている。それでも、きちんとバントとして成り立っている……だがしかし!」
「「……だがしかし?」」
勢いがある声に、僕らはそう口をそろえた。すると、先生はどこから持ってきたかのわからないが、一枚のDVDを取り出した。
「こいつを見れば、おまえたちも理解できるだろう。たしか、部室にパソコンがあったよな? どれどれ……」
机に置いてあるパソコンを動かし、DVDを入れて先生は動画を開こうとする。
「あの、なんですか? そのDVDの中身は」
「ん? それは決まっているだろう。おまえたちが出るはめになった大型のライブイベントを撮った映像だよ。去年のな」
そう言って、山本先生は僕らに去年にあったライブイベントの映像を見せる。
映像の中には、多くの高校生たちと観客が写っていた。そして、しばらくしてバンドがライブをやる場面に切り替わる。
「へえ……けっこう、それらしいイベントですね。場所もライブハウスみたいだし」
「なんかメジャーデビューを目指す本格派のバンドによるイベントって感じですね」
「まー、実際にはそういうものでしょー。いかにも、陽キャたちのお祭りねー」
流れる映像を見ながら、瑠偉や響子がそう感想を述べる。
たしかに、軽音楽部でバンドをやっている高校生たちのためにあるみたいだけど、だからと言ってそこまですごいバンドがいるようには思えずにいた。
学生のバンドだし、悪く言えばお遊びのようなものだろう。
そう思っていた僕だが、実際のライブ映像を見た後にその考えが間違いであったことに気づかされる。
――ギュウワワァァン! ジャラーン!
演奏が始まり一組のバンドが演奏を始めると、その音がすごい。念入りに作られた楽器の音や、それをうまく使いこなし完璧な弾きを見せる。
とてもじゃないが、高校生がやるライブではない。メジャーデビューでもしたばかりのバンドではないかと思ってしまうくらいの実力だ。
「すごい……」
僕は、ただおどろきながらそう口にしてしまう。
「鼻をへし折るわけではないが、このレベルのバンドがこれからどんどんライブをやるぞ? しかも、この子たちは一回戦敗退だ」
「え? こんなすごいライブをやってもですか?」
「ただ演奏がうまいだけでは、この大型イベントで勝ち上がることはできないんだよ。そのバンドにしか出せない魅力が必要なんだ」
山本先生の言葉に、僕らは黙ってしまう。
こんなおそろしくレベルの高い高校生たちを相手にギャルゲーソングをやる僕らは大丈夫なのかと不安がよぎる。
僕はとんでもないイベントに出るのだと思いながら、その後も映像を見続けた。




