番外編その一「二人はこれで入部を決めました!」
これは、瑠偉と瑠奈が軽音楽部に入る前のお話。
高校に入学した後にある、どこの部活に入るかを考える期間。瑠偉と瑠奈は、いまだに決めていない。
「ねえ、瑠偉。どこの部活にしたか、もう決めた?」
「いや……まだ。けど、運動部には入るつもりはないよ」
この日、二人は廊下の掲示板に貼られている部活動の募集ポスターを見ながら、そう話していた。
基本的なスポーツ系の部活に、文芸関連の部活。その数は多く、そこに同好会も含まれるとさらに選択肢は広まる。
「この学校って、けっこうな数の部活動があるよね」
「アニメ研究同好会とか、ゲーム制作同好会……いろいろあるね」
「わたしらって、アニメとかゲームが好きじゃん? やっぱり、そっち系にしようか」
そう瑠奈が尋ねると、瑠偉は無言でうなずく。
双子だからか、ほぼ同じ趣味であり、なにをやるにも一緒。アニメやゲームを好きな点も同じだが、困ったことがあった。
「俺たちが好きなジャンルって、多分だけどどの同好会とも合わなそう」
「まっ、まあね……ギャルゲーとか乙女ゲームが中心。しかも、古めの作品ね」
「アニメはそれとなく話題に合わせられるけど、ゲームの話は難しくない?」
過去にギャルゲーを話題にしていた二人は、それが原因で友達をなくしたことがある。古いギャルゲーなどを知る人など身近にいなく、苦い思いがあった。
その原因がゆえに、アニメやゲームの同好会があろうともすぐに入るとは考えない。
つまり、瑠偉たちの理想とする部活動が学校にはないということになる。
「けどさ、早めに決めないと先生に怒られちゃうよ」
「うーん。まあ、見学にだけは行ってみようか」
瑠偉たちは、ひとまずアニメやゲームなどの同好会に見学をすることにした。
アニメ研究同好会。そして、ゲーム制作同好会。
その他にも、いろいろな部活を見て回ったが、二人はしっくりとこない。
どの部活にもこれといった魅力もなく、瑠偉たちはますます迷う。
「……正直、部活に入るより、自宅でギャルゲーをやったりとかベースを弾いているほうが有意義な時間じゃないか?」
「それは……言えているけど、絶対に部活に入らなきゃいけない校則があるんだよね」
「募集の締め切りって、いつまでだっけ?」
見学をしてから日にちはだいぶ過ぎて、もう一週間。瑠奈は入部届を確認すると、締め切りは身近にせまっていた。
この日、朝のホームルームが始まった後、担任の先生が教卓で話す。
「えー、そして。まだ部活動の入部届を出していない生徒が、クラスに何人もいるようだが、明日の放課後に、最後のクラブ紹介が行われるから、まだ決めていない生徒は参加するように」
担任からそう聞かされた二人は強制的に参加をすることになる。
「最後だってさ……どうしよう」
「こうなったら、クラブの紹介を見て決めてしまおう。適当な同好会に入って、幽霊部員になればいいさ」
「けど、最後に紹介をする部活ってほとんど人気がないところばかりな気がする」
「それは……仕方ないな」
お互いにため息をつき、明日のクラブ紹介にがっかりしながら今日の授業を受ける。
――次の日。
すべての授業を終えた瑠偉たちは、部活動の紹介を見るために体育館へ足を運ぶ。
体育館の中には、二人の他にも数十人の一年生らが集まっていた。
「俺たちだけかと思ったけど、他のみんなも部活を決められないで集まっているものだな」
「こういうのは慎重に決めることだからねぇ。入っても、うまくなじめなかったら嫌だしさ」
ざわざわと騒ぐ他の生徒に構わず、二人は座り込んで始まるのを待った。するとすぐに、生徒会の役員だろうか、一人の生徒がマイクを持ちながらステージに現れる。
「それでは、いまから最後のクラブを紹介するリクリエーションを始めます。みなさんは、これからステージに上がる部、同好会の紹介を見て入部を決めるようにお願いします」
そうやる気のない声で話し終わった後、生徒会の生徒は去っていく。そして、各部や同好会の紹介が始まる。
「……本当に、ろくでもない部ばかりだね」
「あっ、ああ。誰も入らないだろうってところしかない」
始まった部活の紹介を見ていた二人は、そう話す。
地味で活気もなければ、入部をさせたいのか疑問に思うくらいどの部もやる気がない。淡々と、部の活動内容を話しては次の部へ入れ替わる様を見て、時間だけが過ぎていく。
「それでは、次の同好会。えっと、音楽研究同好会の皆さん。お願いしますー」
「はっ……はい!」
そう言われてステージに現れたのは、たったの一人。しかも、なぜか手にはギターを持っている。
「なにあれ? 軽音楽部みたいな、音楽系の同好会?」
「そうじゃない? 音楽研究って名前なんだしさ」
「それにしても……なんか、音楽をやってますって雰囲気を感じない人だよね」
姿はどうみても地味。そこらにいそうなモブのようで、オタクのような見た目をしている。
「あんな人でもギターを弾くんだね……」
「どうせ、軽音楽部に入れなかった人が作った、お遊びのバンドをやる同好会じゃない?」
「ぷっ! たしかに、それっぱい」
瑠偉と瑠奈は、ステージに上がっている上級生を見ながら、からかうようにしゃべっている。
二人だけでなく、周りからもくすくすと笑い声が聞こえる中で、その人はギターを構えて、小さなアンプと繋げる。
演奏でも始めるのだろうか。すべての準備を終えた後、マイクで同好会の説明をし始めた。
「えー、僕が入っている音楽研究同好会は……」
マイクから聞こえる声を聞いていると、次に口にした言葉に二人はおどろく。
「今は同好会に二人しかいませんが、僕らはギャルゲーソングというものを世に広めたいと考えて活動しています。今日は、そのギャルゲーソングの一つをみんなに聴いてもらいたいと思います」
そう話して、ギターを握り今にも弾こうとしている。
「ギャルゲーソングを弾く? スマホやブラウザである美少女ゲームが流行っている時代に?」
「どうせ、最近のやつでしょ?」
瑠偉と瑠奈はギャルゲーをプレイしている。当然のことながら、ギャルゲーソングにもそれなりに知識があった。
あきらかに動揺している二人は、ステージにいる男子生徒を見つめる。
そして、ギターの弦を思いっ切りはじくとそのギャルゲーソングを弾き出す。激しいロックなサウンド。それでもって、人前で弾けるレベルの演奏で曲を奏でる。
体育館の中は大きな音に包まれると、他の生徒はポカンと口を開けながら知らない曲を聴いていた。
けれど、二人はその曲に聞き覚えがありさらにおどろいた。
「すげえ……この曲、あのギャルゲーのオープニングだ」
「まさか、十数年前の曲を弾ける人がいたんだ……」
ステージで一人、必死になってギターを弾いている姿を見て、次第に二人の心を動かされていった。
難しい理由はなく、純粋に誰も知りもしないギャルゲーソングを演奏するその度胸と情熱を弾く姿から感じたからである。
体育館で聴く他の生徒からは、その演奏が気持ち悪く見えているのだろうけれど、瑠偉たちにとっては衝撃的な出会いとなった。
「音楽研究同好会か……」
「ねえ、瑠偉。どの部に入るか決めた?」
「ああ。もう、決めたよ。瑠奈は?」
「……あたしも」
こうして、どこの部に入るか悩んでいた二人はようやく決めることができた。
二人の入部届には同じ名前が書かれている。
瑠偉と瑠奈がやりたいと思える、その同好会の名前が。




