第四十九話「最後の追い込みは金本の指導!そして、それは愛」
金本たちが僕らに練習の手助けをしてくれることになった。それはいいのかもしれないが、ものすごいスパルタな指導になっている。
「ちがーう! そこは、指をこうやってクネクネさせるように弦を押さえては離すのだ! さあ、もう一度やり直しだ」
「はっ……はいぃぃ」
鬼のような形相をする金本に、僕と芹沢さんは必死にギターを弾いている。なにかミスをしたならば、金本の怒号が飛び何度も弾きなおさせる。
「どんなにアレンジをうまくできたからといって、ギターの弾き方がダメなら意味がないだろう! ライブで余裕を持って弾けるように、この金本様が修正してやるぅ!」
「おいおい。金本、そんな教え方をしてたら岩崎君たちが壊れてしまうだろう?」
「ええええい、和田よ! ここで岩崎君を甘やかしたら、必ず本番でやらかすだろう。この男だけは、僕が鍛えなおしてやる」
「あー、はいはい。それじゃあ、芹沢さんは僕とギターをやろうか。金本の言うことは、もう聞かなくていいよ」
「え? あっ、はい」
そう和田に言われた芹沢さんは場所を変え、僕と金本から去っていく。
――芹沢さんがうらやましい。和田先輩からなら、いい指導が受けられるだろうし。
僕はうらやましく思いつつ、金本を見て首をガクリと落とす。
芹沢さんだけでなく、瑠偉や瑠奈もそれぞれ荒木や岡山から練習を見てもらっている。横目で見ているが、みんなは先輩たちから丁寧に教えてもらっているようだった。
「さあ、岩崎君! イントロから弾きなさい。さあ、さあ!」
僕は金本に言われ、無言でギターを弾く。自分で考えたフレーズを彼の前で奏でる。
――ジャンッ! ジャカジャカ!
弾き始めは上々。ミスもなく、流れるようにギターを走らせる。左手で弦を押さえて、右手に持つピックが上下にストロークさせていった。
その様子を金本は、じっと見つめる。視線を感じつつ、僕は構わずサビのところまで演奏するが、そこで金本の声が大きくなる。
「ストップだ! そこで指を止めなさーい!」
「……ええぇ」
まったく問題なく弾いていたつもりだった僕は、思わず声をもらす。
「今のイントロからサビに入るまでは、問題ない。しかし、サビのいいところで、違和感を感じたのだよ!」
「違和感? 別に普通だと思いますけど……」
「君はなにもわかっていなーい! ここは、こうやって弾くのだ」
金本は僕からギターを取り上げ、弾いてみせる。それを見た僕はおどろく。
同じフレーズを弾いているのに、まったく別に聴こえる金本のギター。それに、楽譜を見ずにほとんどのギターパートを弾いてしまう。
「あの……金本先輩」
「なんだね、岩崎君? なにか僕の演奏に言いたいことがあるのかね」
「まあ、そうなんですけど……なんでそんなにギターを完璧に弾けるんですか? 楽譜とか見せてないですよね」
僕は思ったことを金本に質問してみる。すると、金本はさらっととんでもないことを話し出す。
「ん? 君の演奏をこの前に聴かせてもらっただろう? それを聴いて覚えただけだが……僕、なにかやっちゃいましたかねえ?」
――この、おかっぱ野郎が……イライラするセリフを言いやがって。聴いただけで弾けるなんて、おかしいだろうが。
鼻にかけるような言い方に少し不機嫌になるが、やはり金本のすごさを自覚する。
「けど、僕と先輩のギターはどこか違いのだろう。全然、わからない」
「ふふふ……それはだね、岩崎君」
僕の言葉に反応した金本は、不敵な笑みを浮かべて答える。
「ずばり! 君のギターには、感情が少ないのだ。うまく弾こうとするあまり、フィーリングがない」
「……フィーリング?」
ギターはテクニックだけでなく、フィーリングも重要。すなわち、弾いたときに感情が表現されているかが特にギャルゲーソングをやるうえで必要不可欠だと金本は話す。
「去年からの君もそうだが、岩崎君はテクニックを頭の中で考えすぎる傾向がある! ギャルゲーソングはもっと、熱いハートで弾くものなのだ! 愛だ……愛!」
「え? けど、この曲は好きなほうですし、それなりに感情を込めて弾いているけどなあ」
「だから言ったであろう! 少ないのだ、愛が。君には愛が足りぬ」
よくわかからない理由で金本は僕にそう話すけれど、どう感情を込めたら納得するのだろう。
僕はギターを構え直し、頭の中で曲のイメージを膨らませる。
――さくりんはかわいい声だしなあ。きっと見た目もかわいいのだろうな。
曲より、歌うアーティストを強く思い浮かべてしまう。つい、顔がにやける。
「気持ち悪い! 岩崎君が考えていることは手に取るようにわかるぞい。だが、それでいい」
「気持ち悪いってひどいじゃないですか! って、それでいい?」
「ああ。ギャルゲーもそうだが、歌手を好きな気持ちを曲に表すのも良いことだ。さくりんへの愛を、そのギターに込めて弾いてみろい」
そう言って、金本はサビの出だしから弾くように指示をする。言われるがまま、僕はギターを構えなおす。
――さくりん。こんな、良い曲を生み出してくれてありがとう。今、最大のリスペクトと愛を込めて、あなたの曲をギターで弾きます。
自分でもなぜ、こんな気色の悪いことを考えたのかわからないが、さくりんのことを考えると次第にギターに熱がこもる。
そして、僕は勢いよくギターをかきならす。
ギュウゥゥワァァン! ――僕のギターから、これまでにない音が出た。まるで、魂のさけびかのように。
「そう! それだ、岩崎君。今の音が感情が表現されたギターのサウンドだ!」
「おお……これが、さくりんの曲をギターでやるときに出る本物の音なのか」
「よーし! そのまま、一気にアウトロまで弾けー!」
「やあああああってやるぜぇぇぇ!」
謎のテンションに包まれた僕と金本は、しばらくギターを弾き続ける。
「……あれ、なにやってんですかね?」
「見ないほうがいい。あいつらの行動は、理解不能だ」
などというみんなの声が聞こえるが、構わず僕は金本に指導を受けた。
そんな練習が数日続いた後。ついに、大報告会でライブをやる日がやってきた。




