第三十五話「いつの日か、またこのバンド同士のライブを実現せよ!」
僕は目の前にいる仙道にどう話していこうか考え込む。話したいことがたくさんあるのだが、言葉に困る。
すると、そんな僕にシゲ君が尋ねてきた。
「岩崎君のバンドはどんな調子ですか? 変わらずに、ギャルゲーソングを?」
「うっ、うん。そこは変えずに、今でも弾いているよ」
そう答えると、シゲ君は満面の笑みを浮かべる。バンドはしばらくやっている中、音楽の方向性は変わって来るものだ。
僕らがもしかして、ギャルゲーソングを演奏するバンドでなくなったかとシゲ君は気になってそう尋ねたのだろう。
しかし、僕らはギャルゲーソングの良さを世に広めたい気持ちは変わらない。もちろん、バンドの方向性は揺るがない。
「けど、今日は他の皆さんは来なかったんですか? 一緒に楽屋まで乗り込んで来そうな方々ですし」
「あ、ああ……金本先輩たちか」
僕はシゲ君に、今の同好会がどうなっているかを説明する。
するとシゲ君だけじゃなく、それを聞いていた他のメンバーもおどろく。
ナルシストなベース担当の成瀬君。無口なドラムの小野寺君。女の子がバンドに加わったと聞いて一番おどろいたのは成瀬君だった。
「マジか、うらやましすぎるな! その子たちは可愛いの? なに系?」
「え? いや、可愛いと思うよ。多分だけど……」
「マジかマジか! もしかして、ライブに見に来てる? 会いに行こうかなあ」
「やめないか、成瀬。岩崎君が困っているだろう」
異様なテンションの成瀬君に、小野寺君がそう言って静止する。
「なあ、仙道。おまえも気になるだろ?」
成瀬君はずっと黙っている仙道に近づきながら尋ねる。すると、仙道はため息をついてから、僕を睨みつけながら口を開いた。
「あのキノコ頭野郎たちが引退しただぁ? んで、新しくバンドを組んだメンバーが女の子だと? バンドを舐めんじゃねえ! そんなのはロックでもなんでもねえ!」
「晴君……そんなひどいことを言わなくてもいいじゃないか」
「ちっ。おまえらのバンドも俺らみたいに活動を広げているかと思ったから、今日のライブに呼んだのによー。ガッカリだぜ」
そう仙道は見損なったような口ぶりで話し終わる。先ほどの和気あいあいとした雰囲気から、居心地の悪い空気へと変わっていく。
だが、僕はそれに対して、異を唱えるように返す。
「少なくとも、みんなはバンド活動に今は燃えているんだ。金本先輩たちとやった時よりも、たしかにバンドのレベルは下がっているさ。けど、女の子と組んだからと言ってバカにはされたくない!」
僕が仙道たちのバンドがすごくなっていることを思い知らされる中で、彼らと会って言われるかもと思うのはこのことだった。
芹沢さんたちとバンドを組んだことで僕の中で少しだけ後ろめたさがあり、それを仙道に言われるのが悔しいと感じた。だから、僕はなにを言おうか迷っていたのだろう。
しかし、実際に仙道から言われた僕は、今はっきりとわかったことがある。
「ギャルゲーソングとかふざけたジャンルをやるおまえが次は女とバンドをやるのを俺は認めねーだけだ!」
「……バカにはしてねーのな。単にうらやましいだけじゃね?」
「成瀬君。そんなことを言ったら、晴君がキレちゃうよ」
仙道に隠れて、シゲ君たちがコソコソと話す。そんなのを構うことなく、続けて仙道はしゃべる。
「ガールズバンドなんてもんは、所詮はお遊びなんだよ! 女と一緒にやるようなおめえのバンドなんざ、俺は認めねえ」
仙道は根っからのロック思考を持つ男だ。バンドは男同士がやってこそ意味があると思っているだろう。
しかし僕はそうは思わない。女の子と一緒にバンドを組んでも、男だけのバンド以上の音楽を奏でられると確信している。
芹沢さんや瑠奈。そして響子と一緒にやって、その片鱗を僕は見たのだから。
それよりも、仙道から言われたことに僕は頭にきていた。彼女たちのバンドに対する想い否定されているようで、黙っていられない。
「僕のバンドは……これからさらにすごくなる! 仙道たちが認めざるおえないバンドになってみせるよ!」
「ほう、言うじゃねえか! 今は、俺たちのロッケンロールスターズがおまえより先に進んでいるのによう」
「今は……ね! けど、すぐに追いついてやるさ」
「上等じゃあねーか。なら、おめえのバンドがどこまですごくなるか見せてもらうぜ!」
まるで仙道がギャルゲーソングを認めなかったあの時と同じように、僕らはぶつかり合う。
今日のライブを見た乾燥を言うよりも、これは宣戦布告に近いだろう。
言いたいことを言った僕は、楽屋を出ようとする。このままここにいたら、さらに言い合いに取っ組み合いになるかもしれない。
そんなことより、早くみんなのところへ戻ってバンドがやりたいと僕は思った。
「おい!」
楽屋を出ようとした時、仙道に呼び止められる。
「もしおめえらのバンドが前みたいに噂になったら、対バンしようぜ」
「……え?」
仙道からの突然言われたことに僕はおどろいた。まさか、対バン相手にと考えてくれたとは思っていなかったからだ。
「そうですよ。岩崎さんたちとはまたライブを一緒にしたいですし、僕は新しいバンドがどうなるか楽しみにしていますよ」
シゲ君がそう僕にエールを送ると、成瀬君たちもうなずいている。
「あっ、ありがとう」
「だが、それはまだ先のことだ! 女と組んだおまえのバンドが俺たちのいるところまで来てからの話だぜ」
「絶対に仙道が認めるようなバンドになって、進化した僕らのギャルゲーソングをまた聴かせてみせるよ」
「へっ! 言うじゃねえか」
仙道が最後にそう話し、僕は答える。お互いにニヤリと笑い、僕は楽屋を後にした。
――あれは、仙道が僕に鼓舞させるために言った言葉なのだろうか?
歩きながらそう考えるも、それ以上にまた一つ目標ができた。
着々とバンドとして上にいく仙道たちのバンドと再びライブができるかもしれない。その目標が、僕をやる気にさせたのは間違いなかった。
「あっ! キョウちゃんが帰ってきた。どうだった? 仙道たちに言いたいことは話せた?」
みんなのところへ戻った僕に響子がそんなふうに尋ねる。
「ああ。それより、みんな……これから頑張ってバンドを成長させていこうな」
真剣なトーンで話す僕の声に、みんなは目をキョトンとする。
仙道たちが認めざるをえないバンドになって、ギャルゲーソングの良さをさらに広められる最高のライブをやってみせる。
ここにいる、みんなと共に。




