絶許
エリザベスに言われて俺は気づいた。いままでずっとプライドが邪魔をしていたのだ。心のどこかで今の自分に誇りを持ち、変わってしまうことを恐れていた。そして、type3だと思われる奴には絶対に勝てないと俺は思い、敗北を恐れて動けなかった。だが、そのようなくだらない固定観念は捨ててしまえば良い。俺はこの世界で帰還者たちに未来をもたらす。そのためにも、type4のままtype3を倒す。そう決めたのだから、まずはあいつとけりをつけなくてはならない。
朝起きて、エリザベスがいなくなっていたのは残念に思ったが、予想の範疇だった。エリザベスは俺が寝入った後に家を出たのだろう。おそらく俺の家まで来たは良いが気が変わったので泊まらずに、そのままどこかに行ったのだ。あいつはそういう奴だ。
それはもういい。俺は昨日決めたことを実行するだけだ。下手に決意を揺るがしたくない。
如月神をこの手で抹殺するのだ。奴がtype3だろうと関係ない。負けることを恐れて、このまま何もしなければ俺は腐ってしまう。機会をうかがい、確実に抹殺する。そうでなければ俺自身が納得できない。俺が奴を屠ることでtype4の可能性を世界に証明するのだ。
とはいっても、すぐにチャンスがやって来るとは思っていない。だから待つのだ。
今日はとりあえず日課通り如月を尾行した。すると、奴は仕事をさぼって一人で歩いていた。武器もなく、丸腰である。しかも隙だらけだ。いきなりのチャンス到来。普段であれば短刀くらいは持ち歩いていたが、今日のこいつは昨日死んだ奴らの遺族の家を訪問しており、どこか顔も暗く、本調子には見えない。
これほどの男を殺す機会はそうはないだろう。勝てるかは分からないが、やるしかない。
説得をして仲間にするという選択肢はない。はっきり言えば、こいつは害悪でしかない。こいつは多くの将来有望なtype4が殺害し、国に言われるがままに帰還者たちを捕縛・粛清してきた屑。こいつを殺しさえすればより多くの帰還者がこの世界で自由を手に入れることができる。俺は異世界転移により人生を台無しにされた人々のために戦うんだ。俺に勝ち目があるかないかよりも、今ここで戦って、こいつを世界から排除する。
「俺の貴重な時間をお前に割くわけがないだろ?てめえは誰だ。」
「お前の質問には答えない。とりあえず死ねや。」
俺は市街地での戦いを選んだ。ここなら魔法による差は生じない。こいつと俺ではスペックに大きな隔たりがあるが、大規模な魔法の使えない市街地戦ではその差は大きく縮めることができる。
自分の社会的地位のためだけに多くの帰還者を殺してきた奴だ。多くの人を巻き込むような大規模な魔法は使えない。
俺はナイフを取りだし、切りつけた。思えば、俺がいままで異世界に行って殺してきたα世界の人間は全員異世界人に恨みを抱き、散々虐げてきた畜生だ。しかし、話に聞く限りだと俺の先輩方が好き放題やったせいだからだ。因果応報である。だが、断罪されるべき人間が放置され、代わりに後から来た人間が割りを食った。この世界に帰ってきた後も同様だ。だから、向こうの世界でもこちらの世界でも碌な目に合わないのだ。すべてはこいつのせいだ。俺たちはいつも尻ぬぐいをさせられた。絶対に許せない。
丸腰の相手に俺は刃物を突き立てた。こいつに慈悲はない。奴の皮膚を裂き、血が流れ出てきた。だが、奴はなぜか反撃しない。わざと攻撃させているのだろうか?いや、違うな。こいつの顔を見るとまるで被害者のように怯えているように見える。馬鹿か、こいつ。こいつはずっと弱い者を狩ってきたのだ。まさか自分が攻撃されるとは思っていなかったのだろう。思い上がりやがって。
どうせ、「今まで俺は社会に貢献してきたのに何で殺されるの?」とか思ってんだろ。調子に乗るなよ。お前のせいで何人もの人が苦しんできたんだ。死んじまえ。
俺は腕を前に伸ばした。白銀のナイフが一直線に奴の腹に向かい、そして突き刺さった。
ナイフで相手の腹を刺してやった。いくらこいつが強くとも、臓器を損傷したら致命傷になり得る。
「え?」
「どうした、弱いじゃねえか。」
想像以下だ。なぜ抵抗しないんだ。
「なあ、頼みがある。おそらくあんたは国から俺を抹殺するように頼まれたのだろ?命をくれてやるから、家族には手出ししないでくれ。」
成る程、突然の事態に斜め上の解釈をして国がこいつの排除を決定したと思っているのか。社会的地位のために人を殺してきた奴が国に殺されそうになったら自分も受け入れるという点に少しは好感が持てる。
だが、そんなのクソくらえだ。
「つまらん。何故俺が貴様との約束を守らねばならない?命乞いする相手も何人も斬り殺してきた癖に、都合の良いことをほざきやがって。弱肉強食、それが異世界でのルールだったろ?この世界でもそのルールを適用させてもらう。つまり、俺がお前を殺したらてめえの家族をどうしようと俺の勝手だ。なあに、たっぷりと可愛がってやるよ。」
こいつは苦しんでから死ぬべきだ。簡単に殺すべきではない。こいつの家族にはなにもするつもりはないが、せいぜい家族が俺にいたぶられるのを想像しながら死ね。
「殺す。」
魔力が上昇している。つまり、こいつは魔法を使おうとしている。マジか。周りにはさっきから野次馬が遠巻きに見ているぞ。スマホで撮影してやがる。もし、魔法を使ったのなら社会的に貴様は死ぬぞ。
その時は、俺は撤退する。GPSの埋め込まれた貴様のことは地の果てまでDDPFの人間が追いかけて、抹殺してくれる。俺が手を下すまでもない。かつての仲間に殺されると良い。
「龍神の息吹き」
凄まじい爆音と光が辺り一面を包み込んだ。
次に目の前に映った光景は人々を唖然とさせた。
破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破
奴の口から放たれたブレスは俺の真横を通り抜けて、通行人を貫通し、そのまま射線上にあった建物を粉々に粉砕した。奴が弱っていたから避けることができたが、こんな大技を使ってくるとは思わなかった。マジかよ。
「ば、ばけもの。」
「うわああああ!」
「きゃああああ!」
周囲の野次馬が蜘蛛の巣を散らすように一斉に逃げ始めた。俺も人混みに紛れ込み、逃げることにした。
「あばよ、てめえは終わりだ。」
俺は瀕死の馬鹿を置いて、この場を立ち去る。あの傷で大規模な魔法を使うのは自殺行為だ。間抜けな奴め。自分の都合で多くの帰還者を殺した貴様はこれから報いを受ける。
社会を敵に回して、足掻くといい。それが貴様の罰だ。
「ま、待て」
ズタボロになったゴミが何か言っているが、知ったことではない。そのまま俺は奴の前から姿を消した。
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ここはどこだ?
俺は自分が浮いているかのような感覚に陥った。そうだ。さっき突然覆面男が俺にナイフで斬りつけてきたんだ。あれはプロだ。そして、俺の家族に手を出そうとした。
だから、俺はあいつを魔法で迎撃しようとしたんだ。結局、倒せたのかは分からない。
「お前は愚かだ。」
ん?誰だっけお前?爬虫類の癖に髭の生えたおっさんがいた。
「ワシは貴様に生き血を吸い付くされ、無惨に殺された龍神じゃわい。覚えとらんのか?」
ああ、思い出した。確かに俺は2年半前くらいに地元の人から龍神と崇められていたでかいドラゴンを討伐したことがあったな。あれは楽しかったな。
「楽しかったか。ふざけているのか。貴様の余興のせいで天変地異が起こり、多くの人々が飢饉で死んだのだぞ。」
そうだったの。あの頃は7人の中で誰が一番強くなるのかに必死だったし、他の奴らと比べたらだいぶ俺は良心的だったと思うけどな。だって、俺が殺したのは爬虫類だぞ?そもそも天変地異とてめえを殺したことに因果関係でもあんのか?他の奴らはその時の気分で何人も人を殺して楽しんでいたぜ?俺は善人だ。あいつらとは違う。
「お前は自分のことしか考えていない。そして、傲慢だ。その身に余る力で多くの人々を不幸にした。因果は巡り、貴様が裁かれるときが来た。」
随分と上から目線だな。お前は既に俺の一部だ。負け犬がいきがるな。てめえは俺に力を提供するのが仕事だろ?ところで、俺はまだ生きているよな?確か大けがしたと思うけど、大丈夫だよね。
「残念なことに、お前の傷を我の能力で現在治療をしている。貴様はtype1に匹敵する再生力を有している。お前を殺すには完全に消滅させるか、血を全て抜く以外に方法はない。」
ふーん。何分くらいかかりそう?
「ざっと10分ほどで完治するだろう。まったく、臓器が損傷しているのに、無理に大技を使いおって。少し危なかったぞ。」
いやあ、最初は仕事をさぼったから制裁に来たのかと思ったら、思ったよりも物騒でさ、気づいたらあの様よ。俺もオフだったから無茶苦茶油断していたよ。お前のせいだからな?俺が大けがしても回復するし、この世界に来てから雑魚ばっかだから危機感がなくなってしまったよ。
「ふん、ならtype3の奴らに勝負を挑んでくればどうだ?」
いや、それはいい。俺は自分よりも弱い奴を痛めつけるのが好きだからな。今日、少し強い人にナイフで刺されて気づいたよ。
「クズめ」
とっとと俺の体を治せ。
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「やはり、この程度では殺せませんわね。」
遠くから双眼鏡で見ていると、奴の肉体が物凄い速さで再生しているのが見えた。ここにいては気づかれて、死亡フラグが立つので、この場を離れることにした。
「なぜとどめを刺さない、あの間抜け」
私が昨日、予知によってどのような台詞を言えば間抜けが如月を殺しに行くのかを調べ、上手く誘導したのに、どういうわけか自己満足して帰りやがった。大方、あいつの魔法にビビったのだろう。
以前は見逃してやったが、今度会ったら殺しても良いかもしれない。あの間抜けは自己満足の偽善者の屑野郎で、いままで生かしておいたのは利用価値があるかもしれないと思っていたからだが、どうも使えそうにない。
うじうじしたチキン野郎だからいつまでもtype4なのだ。まあ、そもそも期待はしていなかったが、もう少しで殺せたと思うと、残念だ。その少しがかなり遠いのだが。
私が止めを刺しに行きたいが、いかんせん昨日から私に対して包囲網が作られている気がする。昨日、異世界人が喫茶店に来たことから、同じtype2の存在を疑っている。
あれはおそらく当て付けだ。間抜けには偶然だと言ったが、そうではない。いくらなんでもタイミングが良すぎる。
これは挑戦だ。どちらの予知がより優れているか、望む未来ををもたらせるか、それによってtype2同士の勝敗は決する。私は普段は予知能力をセーブして、その代わりに活動的に動いている。今回は少々無理をしてでも敵を排除したいので、未来予知の力と肉体強化の両方を併用して戦いに臨む。
奴が私の存在についてはいくつかの未来予想図の中で見つけたのだろうから、面識はないし、私は敵の正体を知らない。現時点では、向こうに軍配が上がる。今後、何があってもおそらく敵は私に容姿を見せるつもりはないだろう。もし、顔を見せたら正体が発覚し、私に対策を打たれる。未来予知を検索すると私が監禁される未来と試験管に閉じ込められる未来が見えた。このまま異世界に帰る方が安全であるが、いかんせん周期が到来しなければ帰ることはできないので、数か月はこの世界に滞在する必要がある。
「望むところだ。ぶっ殺してやるわ。」
私はこの世界であの7人に復讐を果たす。前座でtype2の雑魚を血祭に挙げる。この世界でtype4をまとめ上げ、数の力でtype3を各個撃破してやる。見ていろよ。
「必ず、全員あの世に送って差し上げるわ。」
絶許、私はこの世界の害虫を全員駆除してやる。すべては世界を守るために。




