第二章 騎士試合 Ⅲ
「レオ、騎士試合に出るの?」
レオがそうイーダに尋ねられたのは、ブリュンヒルトと騎士試合について語ったその翌日の、神学部の講義の終わった後であった。レオは法学部であるが、父にキリシア教についても学ぶように云われていたために、イーダと同じ神学部の講義もいくつか受講していたのだった。
「ん? ああ……」
いち早くそのことをイーダが耳にしていることに驚きを感じながら、レオは肯定した。
「……どうして?」
イーダの問いに、レオはどう答えればよいのかわからなかった。もちろん、直ぐにブリュンヒルトに焚き付けられた、イーダへのキスの件が思い浮かんだが、そのことを口に出せるほど、レオは素直でも気障でもなかった。
「どうしてって……まぁ、自身の修練の一環として……」
「……ふーん」
レオの答えに、イーダは一度そう納得したような表情を無理やり作って見せた。
だが、やがて、意を決したように、少しだけ怯えた表情を見せながらもレオに尋ねた。
「わたし、自惚れてもいいのかしら?」
その言葉はイーダにとって最大級の勇気を動員して発せられたものだった。レオは、その言葉に堂々と答えたかった。そして、イーダの細い体を抱きしめたい欲求が沸き起こった。だが、それでも、理性をかろうじて働かせて、欲求に抗うことができた。レオとイーダの立場からすれば、他にどうすることもできないのであった。
「まぁ、取り敢えずこれだけは聞いてくれ」
けれどレオはイーダの問いに直接答えはしなかったが、それでも自分自身の想いをはっきりと口にした。
「絶対に勝つ。絶対に優勝する」
その想い、その決意をはっきりと聞いて、イーダは自分が両想いであることを確かめることができた。イーダは怯えた表情を、パッと華やかせて、少しだけ頬を林檎色に染めながら、
「うん! 頑張ってね、レオ」
と云った。
レオの胸に、どろどろとした妄執や、穿ったものとは違う、愛する何かの為という、純潔な闘争心が宿った。
次回更新は日曜日の予定。この土日で一杯書くぞ!
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