第一章第七話『vsモーセ②』
幼い頃から私はこの能力が嫌いだった。みんな私自身には興味がない。興味があるのは、この能力だけ。
特別な力。
――『舞姫』。
「舞姫!」「あれが舞姫らしいよ!」「舞姫の能力聞いた?」「あんなの卑怯よね」「ずるい」「あの子、普段からみんなのこと見下してるんだよ」「結局能力頼りじゃん」
私はこの能力が嫌いだ。
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「リミット・オフ――『舞姫』」
ノアの身体から紅いオーラが噴き上がる。亜麻色だった髪は雪のような白へと変わり、黒かった瞳は燃えるような紅へと染まった。その姿を見たモーセの表情も変わる。今までの余裕そうな笑みが少しだけ消えた。
「なるほど……これが噂の舞姫か」
「すごいな」
「これは、何としてでも欲しい」
ノアは一瞬だけアヤトを見た。そして視線をモーセへ戻す。
「アヤト、ありがとう」
「後は任せて」
次の瞬間。先程とは比べ物にならない速度の糸が放たれた。燃えるような紅い糸。それを見たモーセは初めてその場から動いた。
「危な!」
ノアが追撃しようとした瞬間。モーセが手を向ける。
「……ッ!」
ノアが後方へ吹き飛ばされた。咄嗟に防御したらしい。それでも大きく弾き飛ばされていた。アヤトは慌てて駆け寄る。
「大丈夫か!!」
「大丈夫……」
「アヤトは逃げて……」
「モーセは私が止めるから……」
アヤトは驚きそして恥じた。仲間達を殺され。自分も傷つき。それでもノアはアヤトを守ろうとしている。
「はぁ……」
「何やってんだよ俺」
「え?」
「一緒にやろう!」
「……」
「ノア、勝つぞ!」
「なっ……!」
アヤトはモーセを指差した。
「おいモーセ!」
「テメェの相手はこの俺だ、この子に手ぇ出してんじゃねぇ!」
「はっ」
「君に僕の相手が務まるわけ?羽虫以下だと思って無視してあげてたのに死にたいの?」
「うるせぇよ」
「それに知ってるか?」
アヤトはニヤッと笑う。
「男ってのはな、何があっても女に手を出しちゃなられねー!恐竜の時代からな!」
「なにそれ、もういいかな?そんな話してる暇ないんだよね」
モーセが手を向ける。だがアヤトは知っていた、見えない斬撃。その存在を。だからアヤトは糸を放っていた。
ドンッ!!
空中で何かと衝突した。
「は?」
「俺が何の策もなくお前に喧嘩売ったと思うか?」
その瞬間だった。
「アヤト!どいて!」
ノアが飛び出す。モーセがアヤトへ意識を向けた一瞬の隙。そこへ。
轟ッ!!!
紅蓮の糸が襲いかかった。
「チッ」
直撃――
そう思った。
「リミット・オフ――『透刃』」
次の瞬間。ザシュッ!!アヤトの胴体から血が吹き出した。
「――ッ!!」
咄嗟に糸で防御した。ノアも咄嗟に防御の糸を出してくれたのに、それでも貫かれた。膝をつき、視界が揺れる。
「ねぇ」
モーセが笑う。
「今どんな気持ち?勝てると思った?思ったでしょ?無理だよ、舐めすぎw君さ、自分が守るとか言っておいて、守られてるじゃん、ダサすぎない?」
モーセの身体からも紅いオーラが噴き上がる。髪が白く染まり。瞳が紅く燃える。
「僕だって奥の手くらいあるんだよ」
そこから先は地獄だった、無事だったノアとモーセが激突する。アヤトは痛みを堪えて。涙を堪えて。必死に。2人を観察した。観た。ひたすらに、
「……」
そして。
「ここだ」
細い糸を一本飛ばした、モーセの肩へ、気付かれないほど細く。
「飛べ」
アヤトが指を折るその瞬間だった。モーセの身体が宙へ浮き空へ飛んだ。
「は?」
アヤトはすぐに地面から巨大な針を出しモーセへ飛ばす。
「行け!!」
モーセが落下する、斬撃を繰り出そうとした、が、糸は器用にも避けてモーセへと迫る。
グサッ――
「痛っ…」
肩に突き刺さり血が流れる。モーセは自分の肩を見る。
「は?」
ギロリとアヤトを睨む、その瞬間をノアは狙っていた、あらかじめ予測できていたかのようにモーセへと一撃を溜めていた。
「斬り時雨」
ノアの渾身の一撃。
ズドォォォン!!!
モーセの腹を貫いた。
「ガハッ……!」
城壁へ吹き飛ぶ、ノアが叫んだ。
「ナイスアヤト!!」
だがアヤトは知っていた、終わっていない
アニメとか漫画ではよくある展開だ、ここからが油断できない。
「ノア!まだ終わってないぞ!」
ドォォォォン!!!城壁が砕け散った。
血を吐きながら。モーセが立っていた。
「ハハッ……」
「ハハハハハハッ!!」
笑っていた。
「最高だ!何年振りだろうね、僕に傷をつけた人間なんて」
そして。
「君は絶対殺す」
アヤトを指差した。ここから先は一方的だった、ノアの攻撃は避けられ、ノアは斬撃で吹き飛ばされる。
アヤトも糸を出そうとした。
だが。
「……え?」
出ない。
「なんでだ……?」「立てない……」「なんで??」
「魔力切れだよ」
モーセが笑う。
「運が悪かったね、あのうざったい糸があれば、あと数分生きられたかもしれないのに」
「ま、どうせ死ぬから関係ないか」
アヤトは理解できなかった。
「魔力……?」
その時だった。
「アヤ、ト……」
ノアが血を吐きながら呟く。
「生きて……ね」
「舞姫リンク――『アヤト』」
身体の奥から力が湧き上がる、、、だが。
ドサッ
ノアが倒れた。
「ノア!!」
アヤトは立ち上がろうとするが、
ドゴッ!!!
モーセの蹴りで吹き飛ばされた。
「……」
「助け、ないと」
立ち上がる。また殴られる、それでも立ち上がる。
「俺だけが知ってるんだ…だから助けるんだよ……ノアを……」
「もういいよ」
モーセが手を向ける。
「もう死ねよ」
見えない斬撃が放たれる、避けられない。終わった。そう思った瞬間だった。
パキン
何かが砕けるような音が響く。
「……あ?」
モーセが目を見開いた、放ったはずの斬撃が消えていた。
そして。
どこか気の抜けたような声が聞こえる。
「ねー」
「何やってんの?」
モーセがゆっくりと振り返る、その顔から余裕が消えていた。
「まさか君が来るとはね……」
アヤトも後ろを振り返る、そこに立っていたのは、青い髪をした小柄な少年だった。
この場にいるアヤト以外の全員がいや世界中が知っている。
彼の名を知らない者はいない。
世界最強。
勇者。
そして――英雄。
『ジョワ』




