第一章第三話『過去と今』
――世界が、止まった。
そう聞くと、まるで自分以外の時間が止まった世界を想像するだろう。
人も、風も、音も、全てが停止した静寂の世界。
だが今アヤトの目の前で起きているのは、まさに誰もが想像する“それ”だった。
道を歩いていた人々は動かない、風で揺れていたスカートも止まっている。空を飛んでいた鳥でさえ、空中で固定されたみたいに静止していた。
なのに――アヤトだけは動ける。
「……何が、 起こった?」
乾いた声が漏れる。直後だった。
「――ッ!!」
頭の奥から何かが流れ込んでくる。
叫び声。飛び散る血。倒れる女性。謎の紋章。燃え盛る巨大な城。貼り付けにされる人々。
そして――。
誰かが、追われている。
「……ッハ」
息が詰まった。頭痛。吐き気。脳を無理やり掻き回されるみたいな感覚。
「なんだよ……これ」
理解が追いつかない。けれど、身体は覚えていた。
この感覚を。
この異常を。
世界は再び動き出す。止まっていた人々が歩き始め、空気が流れ、街の喧騒が戻ってくる。だがアヤトだけは、その場から動けなかった。
忘れるわけがない。
この世界へ来る前、一度だけ同じことが起きていた。
雨の中。女性とぶつかった瞬間。血が飛び散る未来を見た。
そして、その未来は現実になった。
「……まさか」
嫌な汗が流れる。
アヤトは深く息を吸い、無理やり落ち着きを取り戻そうとした。整理しろ。まず考えろ。
今の自分には二つの選択肢がある。
一つ。
この意味不明な未来視を無視すること。
もう一つ。
あのフードの女性を追いかけること。
「……いや、普通に考えれば無視だろ」
アヤトは小さく呟いた。知らない相手だ。助ける義理もない。そもそも、未来が本当に起きる保証だってない。もし関わって、自分まで死んだら?そんな危険を冒してまで助ける理由なんて――、
「……ありえねぇ」
そう吐き捨て、アヤトは背を向ける。関わるな。逃げろ。面倒ごとには近づくな。今までだってそうやって生きてきたじゃないか。そう自分に言い聞かせた、その時だった。
ふと、脳裏に雨の音が蘇る。
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土砂降りだった。前が見えなくなるくらいの大雨。雨だけじゃない。あの日は、血も降っていた。
「――危ないっ!!」
赤信号。飛び出した自分。タイヤの音。誰かに突き飛ばされる感覚。アスファルトへ倒れ込む身体。そして。血まみれで倒れていた、あの女性。
なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。なんで?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ。なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ。
どうして。
意味がわからなかった。怖くて、苦しくて、理解したくなくて。だから逃げた。けれど。
あの日、自分は見ていた。
ぶつかった瞬間。あの人が死ぬ未来を。
見てしまっていた。
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「……っ」
アヤトは足を止めた。呼吸が乱れる。胸の奥が熱い。逃げるのか?また?あの時みたいに?
「ハァ、、、」
「それは違うだろ、 ……また逃げるのかよ俺は…」
空を見上げながら、アヤトは呟く。情けない。怖い。死にたくない。そんな感情は今でも変わらない。
けれど。
「、、、ッ!」
あの時、自分は何もできなかった。助けられたくせに、逃げた。何も返せなかった。何も変われなかった。
「彼女は死ぬんだぞ……」
だったら。今度こそ。
今度こそ、自分は――。
アヤトは数秒間、その場で立ち尽くす。そして。振り顔を上げた。震える拳を握り締める。
「……いいや」
足に力を込める。
「もう逃げない」
心臓が鳴る。
「逃げたりなんか――してやるもんか」
走り出した。人混みを掻き分けて。息を切らして。無我夢中で。もう昔の自分じゃない。逃げ続けた内堀綾人じゃない。
だから――、
「救ってやる……!」
必ず。
今度こそ。
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さぁ次回はついに絶世の美女が出てくるかもしれないね〜!!
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