20250828 Re:調査報告
山田です。
このたびは調査依頼に応じていただき、誠にありがとうございました。
また、私個人の依頼ごとのために、大変なご足労をおかけしました。
ご返信が遅くなり、申し訳ありません。
これまでにいただいた調査メモやレポートは、小説サイトに投稿されたものも含めてすべて目を通させていただきました。
まさか○○県や■■県にまで足を運んで取材してもらえるとは思ってもおらず、「そこまでやるのか」と驚嘆した次第です。
彼が働いていたという有限会社アグアマラのことも、そこで起こった風評被害事件のことも、そして彼の死によって事故物件となってしまったアパートのことも、なにもかも初めて知りました。
私一人ではネット検索くらいしか扱えず、それすらも「不知水」の文字が書き込まれたクチコミサイトを見逃していたのですから、自分の調査能力の無さには本当に恥じ入るばかりです。
あなたに協力を依頼していなければ、きっと何も分からないままだったでしょう。
本当に、感謝しています。
ですが。
メールいただいた調査報告内容に記載されていた、「不知水の身に起こったこと」。
これに関しては、あなたなりの推測であることは承知の上であえて言います。
間違っています、と。
もともとあなたは「水」をテーマにしたホラー小説のネタを探していたとのことでしたね。
無意識か意図的かは知りませんが、あなたの推測はその欲求に引っ張られ過ぎています。
結果、あなたの出した結論は、あなたの都合のいい形で出力されてしまったように感じます。
もちろん私としては、それ自体を咎め立てできる立場ではありません。
でももしも、すでに死んでしまったらしき不知水があなたの推測を聞いたら、きっとあの世で怒り出すでしょう。
水神の祟りなどというものがこの世にあるのかは私にも分からないので、そこには触れません。
ですが少なくとも不知水の人生を襲ったのは、殺された死者の怨念などでは絶対にありません。
これだけは断言できます。
何故そう言い切れるのか、と思うでしょうね。
すみません。
私はあなたに、嘘をついていました。
もともと今回の依頼は「奇妙な広告に登場する不知水夏慈という人物について、どこかで見た気がして気になっているから調査に協力してほしい」という話でしたよね。
あれは、調査の動機をごまかすための嘘です。
不知水についてあなたに調べてもらううえで、あの告発広告の存在は調査の足掛かりとしてちょうどよかったので、興味を持ってもらうためにああいう伝え方をしただけのこと。
つまり、私は最初から不知水という男のことを知っていました。
あの告発広告の存在自体は、本当につい最近知ったのですが。
ある時期を境に、私と離れ離れになったあの男が、今どこでなにをしているのか。
それを知りたくて、でも自分では上手く調べられなくて、そこであなたを利用しました。
騙していて、すみません。
あと、それとお気づきとは思いますが、山田という名前も嘘です。
改めて自己紹介しますね。
私の名前は、伍堂院斗夢。
あの日、海上で遭難し行方不明になった、不知水の友達です。
……幽霊とかじゃありませんよ?
このあとお手すきのタイミングで、ボイスチャットで通話できませんか?
ここからは文字のやりとりではなく、直接お話をしたいです。
準備が出来たらいつでも声をかけてください。
よろしくお願いします。




