第9話 コードネーム《S-7》 file 高橋彩葉
悪戯者との戦闘後、《S-7》の高橋彩葉は駐屯地の地下2階に設置されている【英雄の礎】と書かれた部屋に入った。この【英雄の礎】と呼ばれた部屋は自信の能力は平常時と戦闘時の能力や感情の変化を数値化している機械を確認した。
「今日の私の能力は・・・良好か・・・感情は・・・少々乱れてる?参ったな~最近訓練やら出動やらで遊べてないからな~今度みんなでどこか行こうかな~」
彩葉含めてS部隊全員この1ヶ月、遊ぼうにも他部隊への訓練や悪戯者排除のための出動などここ最近忙しい日々が多くて中々リラックスが出来ていない。
「それにしても今日の出動・・・私役に立ったかな・・・」
彩葉はそのように考えていた。時間操作という能力であるため中々能力を使う機会が無い。あったとしたら同程度の実力を持った悪戯者との戦闘ぐらいだろうか。この能力は登録しているS部隊以外の人間の時と場所・記憶の変更が可能である。しかし、この時間操作は使い方をミスれば罪になることがある。
「この能力・・・結構不便だな~」
【英雄の礎】の管理・点検・整備は私が任されているため愚痴を言いながら修理していた。修理終了後、私は自室へと戻り【時間操作の代償】という資料を読んだ。
「私も昔はこれを扱うのに苦労したな~」
振り返ってみると私の能力は親からも能力削除が提案されていた。それは中学2年のクリスマスのことであった。
中学2年の当時、私は一家全員が英雄であったということは知ってはいたがなろうとは思っていなかった。しかし、私はクリスマスの日ある異変に気づく。
「時間が戻ってる?え?何で?」
突然の出来事であった。彼氏も時間が巻き戻っており、何が起きたか分からずにいた。
「何で俺たち場所がさっきいたところに戻ってるんだ?彩葉、何が起きたんだ?」
「私も分からない・・・今LINEで母さんや父さんの返信を待ってる」
「分かった。確か彩葉の家族皆英雄だったよな。皆すごい能力持ってたんだよな~。もしかすると彩葉も英雄になれるんじゃね?」
「まさか~」
英雄になれるという言葉に半分冗談かと思っていたがその可能性もあるかもしれないと私は思った。現に場所だけは戻ったとしても送ったLINEの文面は残っているため何かしらの能力が開花したと思われる。また、彩葉の彼氏は英雄オタクであるため能力の発言などにも詳しいのである。
「さっくん。何か分かったの?」
「彩葉。多分英雄になった」
「え~!?」
私が英雄になれるかどうかは確実に運と血縁にあるため一族が英雄ならば私もそうなるのも必然であった。そうこうしている内に両親からLINEの返信が返ってきた。
「あ、返ってきた。何々・・?〈彩葉。その現象について話がしたいからさっくん連れて帰ってきなさい〉だって」
「俺も!?」
「そうみたい」
さっくんというのは私の彼氏ではあるものの幼馴染的な存在であった。告白をしたのは彩葉の方からである。
その後、足早に買い物を済ませ自宅へと戻っていった。家に帰りリビングへ行くと両親の他におじいちゃんやおばあちゃん、英雄A部隊で活動中のお姉ちゃんが待っていた。
「お帰り彩葉、さっくん。いきなりでごめんなんだけど彩葉に能力が発現したと思うの」
「本当にいきなりだね・・・でも何で今頃?」
「能力の発現の時期はね個人の差があるの。だから今日発現していなくても明日明後日に発現することだってあるの」
「そうなんだね、それで私の能力はどんな能力なの?」
と聞くと皆黙ってしまったがようやく口を開いたのはおじいちゃんであった。おじいちゃんは英雄創設時のS部隊のメンバーであった。英雄創設期は市民からの期待は低くダサいなど言われていたがおじいちゃんは生き甲斐を感じていた。
「じいじは彩葉の能力は時間操作だと思うんじゃ。能力の発動の際に頭痛はあったかの?」
「一瞬ズキッとした痛みがあったかな。気にする程度ではないけど」
「なら時間操作で確定じゃな。確かじいじが現役の頃は時間操作保有者がいたのう」
「その人は今も生きているの?」
「いや。初期の頃の戦闘は命懸けでな、徳野さんは悪戯者との戦闘で亡くなった」
「そっか・・・」
彩葉は時間操作が他にどんな影響を及ぼすのか聞いた。さっくんは真剣に話を聞いていた。ここで黙り込んでいた母さんがようやく話を始めた。
「この能力はね彩葉。使い方を誤ると犯罪になってしまうことがあるから気をつけてね。特に時間を巻き戻したり先に進めたりするときは気をつけてね」
「分かった」
母さんが言うには時間操作発動時に時間を進めたり巻き戻す時に故意に周囲の人を連れていくことは英雄では能力悪用防止のため禁止している。犯罪は言い過ぎかもしれないが危機感を持たなければならない。
「どうする彩葉、能力を削除するか、この能力を生かしていくか」
「生かしていきたい!折角能力が出たんだし頑張ってみようと思う」
「じゃあ高校からは英雄育成学校だね。さっくんと別れてしまうが大丈夫?」
さっくんとは幼小中とずっと同じ学校、クラス、隣の席であったため離れてしまうのはとても残念であった。しかし
「僕は彩葉のことを陰ながら応援します。僕に能力が発現するかは不明だけどその時はよろしくな」
「うん!」
それからというもの度々能力が発動し困り事もあったものの乗り越えることが出来た。さっくんはというものの私が能力の発動時に現れる頭痛の対処法などや悩み事の相談など様々な面でサポートしてくれた。また、英雄育成学校の資料を調べていて気になる点があった。
「無能力者の能力開発コースがあるらしいよ。さっくんも来る?」
「まだ良いかな。個人的には彩葉に頑張ってほしいし。中学卒業したら忙しくなると思うし頑張れよ~?」
「分かった~!」
そして中学卒業後、私は英雄育成学校の時間系コースへ入学した。また、学生寮になったためさっくんとあまり会うことは出来なかったが育成学校3年の時にさっくんに能力の発現が確認されたことにより途中からでも入学できる英雄付属大学育成学校に入学したらしい。
「良かったねさっくん」
そして現在、能力も安定化し発現時に確認される頭痛の症状も無くなり安定した能力維持が可能となった。また、さっくんは現在A部隊神戸駐屯地で活動中である。この能力を活用していくことはあまり機会が無いかもしれないが何か人の役に立つならば持っていても損はない。
次回10月3日投稿予定