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魔術爆弾

「くっっ!!」


 レイズは反撃を諦め咄嗟に右腕を盾にした。衝突により握っていた二本の暗器はどこかに失せ、後方に突き飛ばされると鉄板の床を跳ねるようにして転がる。


 背中から伝わる衝撃が呼吸をつまらせ声も出せないまま片目を無理矢理こじ開ける。そこには右腕の甲に牙を埋め込んだベアウルフの蒼い眼玉が揺れていた。まるで笑っているかの様に目元には皺が寄り口元は裂けて見える。そして遅れてきた激痛。皮膚を裂き、肉を空け、骨を貫いた、腕が内側から浸食されているような、気が飛びそうになるほどの痛みがレイズの全身を駈けめぐる。


 「この……小犬がああぁぁ!!!」


 汗が滴り落ちる中で歯を食いしばり、吼えるようにして言い放ったレイズは覆いかぶさったベアウルフの腹に膝蹴りを叩き込む。が、仰け反りはしたものの一向に腕に喰い込ませた牙を抜く素振りを見せない。


狼は一度捕らえた獲物は放さない。二百キロ以上の圧力があるとされている強剛な顎はたとえ己が死んでも開くつもりはないのだろう。


 死んでも開かない――か。ならば――。


 痛みで震える全身を力で押さえ付け、揺れる蒼い眼の前で呟いた。


 「遠慮なく殺らせてもらう……!」


 左腕をベアウルフの後頭部に這わせ、牙が喰い込んだ右腕をさらに奥へ押し込んだ。そんな事をすれば当然牙はより深く喰い込まれるがお構いなしとばかりに力を込めて押し込む。

 頭部を腕の中で固定する為だ。そして、腕の中で暴れるベアウルフを無理矢理締め付け、上半身を両腕ごと放るようにして勢いよくひねった。二度、三度と繰り返した時、レイズの腕の中から音が響いた。


 「ボキ」


 堅牢な何かがへし折れた音。それはベアウルフの頸椎から鳴った音だった。


 狼などのイヌ科の首は一見太く見えるが実際は柔らかい脂肪で覆われているだけの急所であり、それなりの力と技術があればダメージを与えるのもそう難しい話ではない。人の首を折る事に比べれば容易なことである。

 腕の中の獣は身体を痙攣させ口元からは泡を吹き出している。


 もう間も無く絶命するだろう――、そう思った瞬間、瀕死のベアウルフはなんと再び眼に野性を取り戻した。牙をより深く食い込ませ、最後の意地だと言わんばかりに苦痛に耐えるレイズを睨み付けた。


 「この程度の最後じゃ不満か? なら、もっと派手に終わらせてやる……!」


 睨み返すと後ろで占めていた左腕を開放しベアウルフの鼻先を狙って下方向から拳を突き上げた。怯み、微かに顎から力が抜けたところで一気に牙の食い込んだ左腕を引き抜くとベアウルフの唾液とレイズの血液を垂らしながら牙が抜ける。と同時にレイズが低い体勢からの回し蹴りを一閃、脇腹へ叩き込み宙に放られたベアウルフはそのままとある機械に激突した。


白毛の巨体が括り付けられた魔術爆弾を覆うようにして横たわり、その薄目で開かれた眼には一人の執行官が大量の血を流すその手の中にスイッチのような物を握り満足げに微笑む姿だった。


「これなら文句もないだろ。さぁ、もうお休みの時間だよ」


察したのか、眼を見開いたベアウルフの先でカチッ、と小さな音が鳴り、どこからともなく顕現した赤い魔法陣の檻に当の機械ごと閉じ込められ、次の瞬間檻の中で内部爆発が起こった。


それは火薬を使った爆発とは似ても付かない、まるで周りの大気がその場所だけを圧迫し、押し潰したような爆発。重い鉄の壁を巨大なハンマーで叩いているような重低音が連続して響いた。


 そして轟音と共に赤い魔術の檻が消えた時、バラバラの鉄屑の中には圧死して小さくなった狼の死骸が虚しく転がっているのだった。

 


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