魔法の練習をしよう
仲良くなるには、まずは形から。
一般的に、晴れて相棒となった精霊に、石使いは愛称をつけて親睦を深めるらしいのだが、今回私はフライングで候補者3人にそれぞれ愛称をつけてみた。
理由? そんなの、呼びづらいからに決まってるよ。
既に一人、愛情が暴走している子もいるし。彼女の気をそらすためにも、何か特別なことをしなきゃ。
暴走精霊緑ちゃんには、リーフという愛称をつけてみた。緑=葉っぱみたいな?
まあ、単純なネーミングですね。
アクアマリンちゃんは、ナミ(波)。
スギライトちゃんは、コスモ。
そこの人、私のネーミングセンスについてとやかく言わないように!
いいじゃないか、本人たちはメチャメチャ喜んでるんだから。
愛称は、できるだけそれぞれの石の種別名から離れたものに決めた。似てる言葉を誤認識して反応されたら目も当てられない。そんな馬鹿なと思われるかもしれないが、この世界で規格外の私は、何でも用心しておくに越したことはないという考えだ。
愛称をもらって気がそれ、大分興奮が収まったところでリーフに話を聞いた。
彼女は、100年くらい昔にこの世を去ったエッジストーンの石使いの護り石を務めていた石で、前回の主の職種は宮廷魔法使いだそうだ。問題の紫ヤロウ発言についてだが、彼女は昔アメちゃんと一つの宿り石を巡って争ったことがあるんだそうな。同郷の二人は、一緒に宿り石を得ようと仲良くしていたらしいのだが、最後の最後にアメちゃんに出し抜かれて、狙いの石に宿れなかったと。
それ以来、ずっとリーフはアメちゃんのことを目の敵にしていて、今回も自分より先に私に加護を与えていたのを見つけて、ついついエキサイトしてしまったようだ。
って、そのきっかけ話いつの出来事なの? 500年ほど昔?
もうそろそろ、水に流してあげてもいいんじゃないでショウカ…
思わず遠い目になってしまったが、3人の中でリーフが一番経験も力もあるのは間違いなかった。
ナミとコスモはお兄様の護り石の選定のときにエッジストーンにやってきた、比較的若い精霊だったこともあり、3人集まると自然とリーフがリーダーシップをとっている。
夕食のときに養母様に選定の調子を聞かれたので、それぞれの精霊について感じたことをそのまま報告すると、養母様は少し考えて新しい提案を打ち出した。
「明日から、魔法の練習をしてみましょう、すみれ。ちょっとデータを取ってみたいから。」
養母様、ご自分の願望だだ漏れですよ。
まあ、私も魔法には興味アリアリだったので、別に不満はないですけど。
翌日、私の魔法の先生として屋敷へ呼び出されたのは、私の一番上のお兄様だった。
オリバー・エッジストーン
現役の宮廷魔法使い様だそうだ。
さすがに現役の宮廷魔法使い様はお忙しいということで、ご出勤前の早朝にお時間とっていただきました。
朝食前の1時間が、私の魔法練習の時間デス。
突然のお願いだったにも関わらず、早朝に颯爽と現れたお兄様は、銀髪がお似合いのうっとりするくらいのイケメン様だった。何だろう、お兄様の周りに爽やかな風が吹いてる気がする。そして、とってもいい匂いがしますー。
誰似? もしかして、養父様って若い頃は痩せててめちゃめちゃイケメンだったんだろうか。
肩口に留まっているのは、ロイヤルブルーの髪が美しい、これまた美人さんな精霊だ。私を見てもぴょんぴょん飛び跳ねたりせず、上品で静かな笑みを浮かべている。
これはもしかして、宿り石は世界5大宝石といわれるあの宝石かな。どことなく、その所作にも気品を感じるよ。
魔法の練習と聞かされていたので、私はてっきり「初級魔法は、こうやって使うんだよー」的なレクチャーをしていただけるものだと思っていたのだが、そこはエッジストーン流。チュートリアルも斜め上からアプローチするみたいだ。
「じゃあ、とりあえず脱いで。」
挨拶もそこそこにお兄様が真顔で私に言い放ち、思わず身構えて一歩後ずさる。
助けを求めるように養母様を見ると、養母様はニッコリ笑った。
「魔法を使うときに起こる、すみれの体の反応を見たいだけよ? 大丈夫、オリバーはアーサーと違って幼女に執着したりしないから。」
おっしゃる意味は分かるんですけど、何かもういろいろと…。
とりあえず恐るべし、エッジストーン。
結局泣きついて、上半身肌着姿になることで許してもらった。
今まで私は石使いというものを漠然と、精霊と一緒に魔法を使う人だと理解していた。
イメージで言うと、相棒となる精霊に「炎魔法使ってー」「OK!」ドーンみたいな感じ? あくまでも、魔法を使うのは精霊で、人は精霊にお願いするだけなのだろうと。
ところが詳しく話を聞いてみると、それは全くの勘違いらしい。
確かに石使いが魔法を使うときに、魔力の部分を担当するのは精霊だ。だが魔法が出力されるのは精霊からではなかった。精霊の魔力は石使いに供給され、実際に魔法を出力するのは石使い当人だという。
つまり、精霊は魔力カートリッジの役割を果たしていて、石使いはカートリッジから魔力を取り込んで魔法を発射する発射装置になるということだ。
何でそんな回りくどいことをするのか、って思うよね。
精霊様が魔法をドーンでいいじゃないかと。
それについてのお兄様の説明は、こうだ。
例えば、体の小さな精霊が発する魔法を小さな強い光だとする。強くても小さな光では、当然部屋全体は照らすことができない。そこで、石使いの登場だ。石使いは人の体という大きな照射口を使って、強い光を効率的に拡散させ部屋全体を照らすことができる。
うーん、分かったような、分からないような?
「まあ、今は魔法が使われるときの流れだけ分かっていればいいよ。」と、お兄様は素敵スマイルで笑った。
練習は、まず私の体に魔力を通すことから始まった。
お兄様の指示で、お兄様の護り石候補だったナミが少しだけ私の体に魔力を通す。ほんの少し胸の辺りがほっこりと暖かくなった気がした。
「気分が悪くなったら言ってね。」
養母様が心配そうに私の顔を覗き込んでいるが、特に不調らしい不調は感じられない。
「少しずつ、量を増やして。」という指示にナミが更に魔力を注ぐと、ほっこりした熱は全身に広がって、やがて体中がポカポカしてきた。
「暖かくなってきた?」
お兄様の問いかけに小さくうなづくと、魔力の供給をいったん止めて、お兄様と養母様は二人で照射装置としての私の体のデータを取り始めた。
お兄様の精霊が魔力を供給して、お兄様が私の中に流れる魔力の流れを可視化する。まるで放射線技師のようだよ、お兄様。
ナミが今回私に注いだのは、比較的扱いが楽な水属性の魔力だそうだ。私の体にかぶさるように展開されている、水色の魔力が満ちた私の体のビジョンを二人にチェックしてもらったところ、魔力の流れに滞りなし、魔力漏れなし。照射装置としての私の体に特に問題はなさそうだった。
体に装填された魔力は、放っておけば自然に抜けてしまうらしいのだが、せっかくだから何か使ってみたいよね、魔法。
協議の結果、初心者向けの水魔法を使ってみることになった。
クロエが用意してくれた空の銀製の水差しに水を満たしてみる。
水差しの底から水が湧き出る様子をイメージしながら、魔力を体の中から水差しに向けて押し出せ、って口で言うのは簡単だけど、いきなりそんなこと言われても、ねぇ?
自分の体から魔力を押し出すというのがよく分からなくて最初のうちは四苦八苦したが、最終的に指鉄砲をつくってそこから打ち出すと意識することで成功した。
ただし、水はゆったりと水差しに満ちるのではなく、渦を巻いて水差しからあふれ出るくらい勢いよく湧き出てしまったが…
いきなり水が満たされた水差しは、注がれた水の勢いに押されてテーブルの上でがたがたと音を立てて揺れている。見ていて非常に、危なっかしい。
指鉄砲から「打ち出す」というのが駄目だったのかな、そこは今後の検討課題だね。
イメージしていた結果と違う出来ばえに、がっくりと肩を落とすと
「力の調節はゆっくり覚えていけばいいよ。」とお兄様が慰めてくれた。
初めての魔法は、こうしてしょっぱい結果ながらも成功したわけだが、私の体にはまだ熱が残っている。
もう少し何か出来そうな気がするんだけどなぁ。
私の物足りない気持ちは、そのまま顔に出ていたのだろう。
「もう少し時間もあるし、すみれ、ちょっと実験してみない?」と、養母様が意味ありげに私に微笑みかけた。
その笑顔、何だか、悪い顔になってますよ、養母様。
何か企んでるんじゃないですか…?
オリバーの護り石は、サファイヤのイメージです。
すみれの持っていた石使いのイメージって、○ケモンマスターみたいな感じですかね。