六章3〜“赤瞳の殺気”
俺たちは山を降りて、麓のルートの森林エリア…つまりはストーンタイガーの縄張りに入る前にキャンプをして夜を明かした。
そして朝から森に入る。
本日の天気は良好…、思えば俺は森にいい思い出を持ち合わせていないかもしれない。
先頭にルシエルとエイルーナ、その後ろにレイスとミシェイル、そして最後尾を俺とメリエルという二列で基本的には進む事にした。
先頭は索敵に道案内と忙しいルシエルに、戦闘になった時の為にエイルーナ。
真ん中は比較的戦闘力の低いが、治療魔法と、援護が主体の2人。
最後尾に俺とメリエル。
メリエルは戦えるように見えないが、十分戦えるらしい、そんでもって危機を察知する能力に長けてるから後方からの接近に気付く可能性も高いのだと……。
それはいいとして、前衛の2人の息が合わなさそうなのも気になる。
俺と代わってもいいのだが、魔装が使える2人が前衛の方が咄嗟の防御力が違うと思うのだ。
まぁ最近知らされたエイルーナが魔装が使えるという事実に、俺は俺で少しショックなのだけれど…。
一応朝方とはいえストーンタイガーの縄張りであるからして、比較的全員静かに動いている。
しかしそう上手くはいかない…。
マナの波動を感じた。
この感覚は知っている……覚えがあるのだ。
しかし俺と同じように気付いているのはルシエルとメリエルだけだった。
「伏せろっ!」
俺の声でエイルーナやレイス、ミシェイルが周囲を警戒しながら倒れこむ。
ルシエルやメリエルは方向もわかっているのか、お互い警戒している方向が同じである。
空気を切り裂く音を響かせながら人の頭ぐらいの大きさの岩の弾丸が、こちらに飛んで来ている。
ルシエルが長剣を使って弾き落としている。
「走れっ!」
「こっち!」
ルシエルがそう叫ぶとメリエルがそれに続いて走り始める。
エイルーナがそれに続いて、ルシエルとメリエルの位置が入れ替わった状態で進んでいる。
「お前、マナ感知も出来るのか?」
「え?、よくわかんないけど……多分…」
ルシエルが走りながら俺はそうやって問いかけてくる。
さっきのマナの波動を感じた事だろうか?
詳しくはわからないからやはり後で聞いておこう、それより今の状況の方が知りたいんだけど。
「お前を狙ってる奴がいる」
「えっ?」
どういう事だろうか?
俺を狙ってる?俺単体って事だよな?どこかの目付きの悪い転移して来た男の子みたいに魔物が寄ってくる臭いとか?真面目に嫌なんだけど……。
「お前は殺されかけたとして、それをやった奴の事を忘れるか?」
どういうことか、想像してみよう。
自分を死ぬ寸前まで痛めつけた相手を忘れる?うん、ありえないな。
ずっと覚えてるだろうし、仕返ししてやるって怒りを感じるか、二度と会いたくないと恐怖に震えてビクビクするかのどっちかだ。
急にこんな事を言い出すという事は……。
「あの時の!?」
「お前が気ぃ失った後逃げたんだよ」
俺がルシエルによって戦わされたストーンタイガー、俺の顔だかにおいだかマナだかわからないが記憶していたのだろう。
そして奴からすれば仕返しのチャンスがノコノコと現れたって状況なのだろう。
「そいつが俺達を追ってくるって事か?」
「ストーンタイガーってより、魔物ってのは執念深いからなぁ、追ってくるのはいいが、それで他の魔物や群の仲間が呼び寄せられる可能性もあるってことだ」
再びマナの波動を感じる、幾度も感じた波動だ。
ルシエルに、ではなく俺に飛んで来てるのを感じるがルシエルは動くつもりはないらしい…まぁ別にいいけど。
剣を抜いて岩の弾丸を弾き落とす。
「じゃあすぐに仕留めた方がいいんじゃ…」
「そういう事だ」
そういい捨てると、進行方向とは逆…岩の弾丸が飛んで来た方向に向かって走り去っていく。
最後尾は俺1人って事になるのか…。
まぁルシエルはそれでも大丈夫かというのを遠回しに伝えたかったのか、それとも探っていたのかもしれない。
ストレート言えば早いのにね。
剣を片手に周囲を警戒しながらレイスやミシェイルの背中を追う。
メリエルを先頭に森を走る…樹上に気配を感じる。
視線を向ければ見覚えのある猿型の魔物が俺達を追うように木から木へと飛び移りながら並走していた。
「げっ!ジャルコンガ…」
前を走るレイスが嫌そうなリアクションを出している。
相変わらず森の中は足元が悪い……、飛び出した木の根に引っかかってしまえば間違いなく転んでしまい、そして集団から遅れる、もしくは集団を遅れさせてしまう。
それだけならいいが、樹上の猿が襲いかかって来ないとも限らない。
周囲の警戒も怠るわけにはいかないとくればやはり忙しい…そして魔物に追われながら森を走るこの感じはなんとなく懐かしい。
そして魔物が集まって来てと危険が感じられる、やっぱり遠回りすべきなんじゃないだろうかという今更すぎる後悔も脳裏に浮かぶが、それどころではない。
とりあえず走っているところだが、レイスだけはかなり樹上のジャルコンガを気にしている。
別に止まって対応するのも手かも知れないが……。
そう思っていると、後ろを気にしていたメリエルと目があった。
メリエルからしたら俺とレイスが執拗に樹上を気にしているように見えたのかも知れない。
数秒俺を見つめるように見た後に樹上に視線を移してジャルコンガ達を確認している。
「ルーナ、真っ直ぐ!」
隣を走るエイルーナに一言指示を出すと、1人近くの木に向かって駆け寄っていく。
木を走った勢いのままに垂直に駆け上ると、そのまま木を蹴り、別の木へ飛び移り、そして移った先の木を斜め上に飛び上がるように蹴り別の木へ飛び移る。
それを数回繰り返してジャルコンガ達の目の前に移動する……、エイルーナに指示を出してから動き始めてジャルコンガの目前まで一瞬にして移動してしまった。
俺だけではなく、エイルーナもレイスも、ミシェイルもその動きに目を奪われていた。
メリエルは目前のジャルコンガに何をするわけでもなく殺気のこもった目で睨みつける。
赤い瞳で睨みつけられたジャルコンガ達は蛇に睨まれた蛙のように身動きを取れなくなっていた。
ジャルコンガは知能が高い魔物である。
勝てない戦いは挑まない、格上には尻尾を巻いて逃げる。
自分より弱い相手でもしっかり隙を見つけるまでは容易に襲い掛からないなど、人間に近い思考を持つ。
そのジャルコンガ達が身動きが取れていない。
魔物が恐怖に震えて体の支配権を、その赤い瞳に奪われているのが傍目でもわかるのだ。
メリエルが何かするわけでもなく、ジャルコンガ達は固まり、そしてメリエルはすぐに俺たちの元に降りてくる。
ジャルコンガ達はヘホッヘホッっと鳴き声を上げながら一目散に逃げていった。
「進まないの?」
「いえ、行きましょう」
小首を傾げて不思議そうに問いかけてくるメリエルに先頭のエイルーナがすぐに返事をして、走り始める。
エイルーナからしても、メリエルが戦闘で役立つのか疑問視していたのだろう。
それも問題ないと感じさせる状況だった。
やはり姉弟だと……。




