二章1〜“孫には甘いお爺ちゃん”
ガタガタと揺れる馬車。
御者台で馬を操るのはメガネが似合うオシャレ紳士のリドルフさん!
執事の礼服のまま優雅に手綱で馬を操る姿は風格すら感じる。
中には4人の老若男女のアストラル家の皆様。
1人はドレイクお爺ちゃん…ってよりお祖父様って感じの厳つい目つきに腰に帯剣している姿は、歴戦の強者ってのが一目で分かる前任の剣聖。
少なくともこの人がいる限り、チンピラ達が身包み全て置いていきな!なんて絡まれる事すら起きないだろう。
なんなら睨むだけでチンピラ達は無償で護衛してくれるに違いあるまい。
その隣に座るのはその妻ミトレアお婆ちゃん。
こっちはお祖母様ってよりは確実にお婆ちゃん。
祖父ドレイクがいる空間では殆ど空気となるのが特徴。
ドレイクがイライラするとさらに気配まで消えてしまう少し無責任な人、自分の夫を制御して欲しいと思うが、無理だろうな…なんで結婚したんだろ……。
ただ孫大好きお婆ちゃんは俺の事になると、気配が消えずに少し自己主張する。
自己主張したところでドレイクの意見は変わらない…つまりは乗りこなせないので結果としては大差ない。
とりあえずドンマイと言いたい。
そんなニコニコお婆ちゃんの向かい、視線の先にポツリと座るのは赤いペンキのような髪の毛をした少年俺。
見た目は子供、中身は大人な名探偵……をよく知る世界出身……異世界からの来訪者。
ちなみに来訪しても帰還する術もつもりもないのだけれど…アヤは元気かな?
領地の外に行くときは剣聖の一族の家紋の入った上着を着る。
家紋の刺繍なんてものを見ると貴族なんだなと再確認。
ちなみに家紋は剣に龍が巻き付くような中二病御用達のマークだ。
俺的には家紋は少し恥ずかしい……。
俺の隣には剣を携えた俺と同じ赤い髪の美しい女性。
クリス・アストラルが座っている。
彼女の剣は代々剣聖に引き継がれている剣、家紋の入った鞘も柄もさらには刃も純白の美しい剣を帯剣している。
そんな彼女はどこか緊張の面持ちだ。
複雑なようなのでミリターナを含めて誰にも確認が取れていないが、恐らくクリスはアストラル家の血を継いでいないのに剣聖になったのだろう。
俺の父がアストラル家だが、剣聖を継ぐほど力がなく、他家の有望な剣士であるクリスを妻として迎えた。
あくまで俺の予想だがこんな感じではないかと思う。
しかし、父は既に死んでいるのか行方不明かわからないが、お陰でクリスは少し肩身の狭い思いをしている。
父か……あまりいい気がしない単語だ。
まぁそんな和気藹々としない馬車の中どこへ向かうのかと言いますと王都へ行くらしい。
なんでも王は病気で長くない。
なので王位継承権争いの真っ只中らしく、継承権があるのは3人。
長男“グレイズ・バルメリア”
次男“アズール・バルメリア”
長女“ファリム・バルメリア”
そしてドレイクは国王“ジンバ・バルメリア”に仕えた剣士である。
そんな中で有力な家は一度王都へ集まれと王家の印の入った書状が届いた。
剣聖の家系となれば有力な家筆頭だろう。
ゴタゴタに巻き込まれる可能性はあるが、王印がある以上行かないわけにはいかない。
という流れでアストラル家のプチ旅行、目的はバルメリア王国の王都ゼレーネ観光?の旅の巻となっている。
ドレイクお祖父様は乗り気ではないのか、いつも通りなのか分からないが、彼のいるところ気まずい空気が蔓延する、正直この息の詰まりそうな空気感は苦手である。
妻は空気を読んで空気となり、お祖父様が苦手な我が母は、珍しくお淑やかに座っている。
こういう時馬車に子供ははしゃいだりするのかもしれないが俺は中身は成人、空気を読むのもお手の物。
とはいえ初めて乗る馬車に心踊ったものだったが、乗ればこんなものかと直ぐに興味を失った。
大人たちからすれば直ぐに飽きた子供かも知れない。
勿論屋敷の外へ出かけた事はあるが馬車は初めてである。
クリスやミトレアは俺がはしゃぐ様を楽しみにしてたのかも知れないが、俺からすると本当にこんなものか、なのだ。
思っていたより乗り心地が悪いという印象。
車に比べてしまう元現代人なので仕方あるまい。
願わくば揺らして欲しい。
そんな感じの車内である。
孫大好きなお婆ちゃんも、どこか抜けている気がする母親も、ドレイクお祖父様の前では静かだ。
そのドレイクお祖父様と来たら目を閉じて瞑想と来た。
俺も空気を読んで景色を眺めるしかあるまい…。
こうして領外へと出ると、我がアストラル家の屋敷は随分と田舎だったという事が分かった。
屋敷の周りは自然いっぱいで、畑などの農園が広がる緑の町。
前世アスファルトの森である都会の街に住んでいた俺には少し珍しい景色だった。
山や森や川といった緑に囲まれる生活というのは想像していたよりも快適だった。
風は爽やかで空気は美味い、やはり都会の空気はよろしくないですねぇ。
前世のガスや電気といったエネルギーは、この世界ではマナ…つまり魔力で補う。
マナ結晶という石に宿る魔力をエネルギーにして、部屋を明るくしたり、暖めたりと用途は様々で多様化されている。
なんでもエネルギーという便利なものだ。
一応風車など風力発電されてるようだし、水道などもあるので全てを魔力で補っているわけではないようだが…やはり異世界とは発見の連続である。
森を通過して街道に入る。
一つ目の関所を抜ける頃には太陽が沈み始めていた。
「ドレイク様、如何致しましょう?」
御者台のリドルフが中のドレイクに確認を取っている。
野宿か宿とかって事か?
それとも夜道を進むかとか?
まだお目にかかれていないが、魔物なるものがこの世界にはいるらしい。
マナがあって野生の獣がいるならそれは魔物と呼ばれるだろう。
ファンタジー世界だからな!
まぁ、最強ママンと最強じいじがいるこの馬車を襲う方を同情するけどね。
そんな事を思っているとドレイクはさりげなく俺に視線を向けていた。
鋭い眼光だった。
蛇に睨まれた蛙の様な気分になる。
あれっ?俺なんかしたかな?怒られるの?ねェ?
しかし直ぐ視線を外した、人知れずホッとする。
「もう少しでペルロの町だろう、そこで宿を取る」
「……畏まりました」
ドレイクの言葉にその隣に座るミトレアが、少し微笑んだ気がした。
その視線にドレイクは知らぬ存ぜぬとまた瞑想している。
クリスもどこか嬉しそうに微笑んだ。
俺だけが少し頭が追いついていないが、馬車内の空気が少し軽くなった気がした。
よくわからないが、重い空気なんかよりずっといい。




