一章7〜“勝利条件”
戦う前にイメージしていた。
イメージトレーニングは大切だ、イメージがある事とないことでは反応が大きく異なってくる。
経験のない俺には必要な準備だ?
速さも力もおそらく負けている。
技術はわからないが負けている前提の方がいいだろう。
つまりは相手の方が上だ。
さらに言えばこんな女の子に迷い無く打撃を与えるほど俺はまだ剣士として精神的に成熟していない。
今回の個人的“勝利条件”
1.この模擬戦に勝利する。
詳しく言うなら戦闘不能に持ち込むか降参させるかだ。
だが剣士としての模擬戦である以上剣が飛ばされれば敗北だろう。
でもそんな英雄みたいな事は難易度が高い気がする。
木剣を使うが真剣としてイメージして方がいいだろう。
つまり首元で止めたりしても勝ちと認めてもらえそうだ。
こちらを目標にしよう。
2.怪我をさせない。
相手は女の子だ、しかもこんな小さい…俺が言うのも変だけど中身は成人だからこんな少女に怪我なんて考えられない。
ミリターナの魔法で治るとか言われても万が一とかあるかもしれない!
もし負ける事になってもこれは死守項目だ。
3.怪我をしない。
当然だ、痛いのは誰だって嫌だしな。
最低でも2と3は死守……2だけは死守しよう。
そして俺が勝つ方法だが、相手の方が基本スペックが高いのなら…。
昔から格上に勝つのは乱戦や奇襲だ。
だが審判がいる模擬戦で奇襲は無理だ。
となると乱戦か…。
なら意表をつくしか無い。
しかも怪我をさせない…。
あれ?なんか無茶なことしようとしてる?
そんな事は無いはずだ。
イメージは固まった。
俺は腹を括った。
初太刀に集中だ。
――――――――――――――――――――――――
「では…はじめっ!」
「はぁぁぁぁぁ‼︎」
クリスの合図に合わせて素早く動いて距離を詰めてくるエイルーナ。
彼女の動きは速く鋭い。
反応出来ないことはないが、対抗は愚か対応すら何度も出来ないだろう。
守るか?否、引く足より追う足の方ただでさえ早い、そもそもスピードは負けているんだ、確実に追いつかれる。
なら攻めるしかない!
エイルーナの動きより数歩遅れて俺の足も前へ進める。
しかし彼女は俺の前進など気にしない。
そのまま足を進め勢いを保ったまま剣を振り下ろす。
エイルーナ自身も戦闘経験など無いからだろうか、そんなに攻撃に多彩さなどないと踏んでいたが、イメージ通りだった。
俺の賭けとも言える勝負はここからだ。
彼女の振り上げた剣の軌道を予測する。
自分は腕を上げて剣を横薙ぎにして振り下ろされる剣を止めるように力を込める。
思惑通りに俺の頭より少し上で木剣同士が音を立ててぶつかり合う。
思っていたよりその衝撃は重く、俺の手にビリビリと電気が伝わってくる。
衝撃に負けて落とさないようにしっかりと力を込めて握る。
第一関門は突破した!ここからが勝負だ。
エイルーナは剣が止められた事を少し驚いたのだろうか、一瞬勢いが止まった。
そこを見逃さずに腕で剣を持ち上げるように力を込めながらさらに前進する。
「らぁぁぁぁぁぁ」
エイルーナは腕を上げられながら数歩押し込まれるように足を引く。
重心が後ろに寄ったのだ。
俺はそのまま体をぶつけて体当たりする。
「いっっ……!」
エイルーナはそのままバランスを崩して尻餅をつくが、力一杯押し込んだ俺もそのまま前のめりに乗りかかる形になり、エイルーナは倒れた。
俺は片膝を立ててエイルーナを跨ぐように腰を落としながら木剣を顔の横に突き立てていた。
「そこまで!」
エイルーナの顔が固まっている。
正直この上なく上手くいったと思う。
最後の体勢はたまたまカッコよく決まりすぎた気がするが…。
自己採点では満点をあげてもいいだろう!
俺は立ち上がるって手を差し伸べる。
こんな時になんと言えばいいのだろうか?全然わからない。
「えっと…大丈夫?」
黙っているわけにはいかないと絞り出した言葉、我ながら引き出しの少なさというか使えなさにビックリである。
エイルーナの目をには、みるみるうちに涙が溜まってきた。
あ、ヤバイ………そう直感した。
エイルーナは跳ねるように立ち上がってバタバタ走り去って行った。
ミリターナがクリスに目配せしてからエイルーナを追いかけて行った。
「よく勝てたね、ルーナの方が勝っちゃうかなって思ってたんだけど…」
エイルーナとミリターナを見送り、そのまま俺に歩み寄りながらそんなことを口にする。
「普通に打ち合ったら負けると思ったので、剣じゃない方法を使いました…やっぱりダメですかね?」
正直考えなかった訳ではない。
あくまで実戦ありきの模擬戦ではあるが、模擬戦であり修行なのである。
剣だけの技術を見るということが本来の目的なら、結果としては間違いとなるのだ。
「うーん…複雑な事もあるけど、レオのした事は間違いじゃないよ?実戦じゃそれくらい当たり前だからね」
複雑か、まぁそうだろう。
俺が逆の立場でもそう思うし…。
「そうですか…ごめんなさい…」
「ううん、私もダメなんて言ってないからね!ルーナにも良い薬になったと思うし」
良い薬か、まぁ俺から見てもエイルーナは自信に溢れてるのがわかった。
多分油断もあっただろう。
ゲームのように能力値のパラメータにすれば、俺はエイルーナにボロ負けだったのだ。
油断が無ければきっとぼろ雑巾のようになって今頃その辺を転がっていたにいたに違いない。
次以降が怖い……。
「とりあえず勝利おめでとう!このままだと次回はボコボコにされそうだけどね」
クリスは俺の心を読むようにイタズラっぽい笑顔で俺の頭を撫でた。
無邪気で裏表が無い子供染みた笑顔。
その笑顔に俺は釘付けになった。
俺の異世界の初恋かも知れない。
え、ただのマザコン?男の子はみんなマザコンなのさ!




