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五章16〜“エイルーナの選択”

 〜エイルーナ視点〜



「レオッ!」


 1番最初に気付いたレイスの声が響いた。

 そこには青い髪の少年がレオリスの後頭部を叩いて意識を奪っていた。


 油断した……。

 街中で…それもこんなに堂々と襲撃があるとは思わなかった!


 すぐさま腰の剣を抜き放ち、一歩で敵との距離を詰めた。

 自分で言うのもなんだが、流れとしては無駄のない…今の私には最速の対応だったに違いない。


「怖い怖い……、良い女だと思ってたがこんなやり手だとはな」


 正直対応されるとは思っていなかった。

 私はすでに魔装を纏う事ができる。

 みんなにはまだ言っていないが…義兄さんは多分知っている。

 私は自分の全速力で、全力で踏み込み…剣を振るった。

 だがこの男は振り向き様に私の剣を持つ手首を掴んで止めて、同時に密着するように踏み込んできた。


「はぁぁっ!」


 ミシェイルが買ったばかりの剣を引き抜いて走って間合いを詰めてくる。


「っっ!下がって!」


 咄嗟にそんな声が出た。

 密着した時に息が掛かるような距離に顔が近づいて来た。

 よく私に向けられる下卑た目ではなく、私を見透かすような冷たい目…!

 こいつはヤバイ……そう私の本能が警報を鳴らした。


 青髪の男は、掴んだままの私の腕を振り回すようにして投げ飛ばした。

 私は体勢を崩しながらも着地をしてすぐに戻ろうと目を向けた。


 ミシェイルの剣は躱されて、そのまま手刀で意識を奪っていた。

 同時にレイスの放った弓を躱し、一瞬で間合いを詰めて、腹に一撃…レイスは崩れるように倒れこんだ。


 マズイ…このままじゃ…マズイ…!!


「ふぅ〜…」


 深く息を吐いて呼吸を整える。

 落ち着け…焦る必要はない。

 コイツを仕留めれば全員無事で旅を再開できる。

 何も…問題ない!

 相手を見据える。

 背格好からして歳は近いかもしれないが、あんな動きをする相手だ、歳なんて意味がない。

 この間合いなら一瞬かもしれないが、反応出来るはず。

 反応?私が後手に…違う、落ち着け動揺してちゃいけない…。


 私は腕を上げて上段に構えて、余裕そうな相手の顔を見据える。

 腹の底からマナが全身に広がる様にイメージする。

 マナの鎧…というよりは肌に沿う様に…皮のように。

 そして足の裏で地面をしっかり確認する。

 大丈夫。


「はぁぁっ!」


 マナを放出するように強く地面を蹴る。

 限界まで加速する肉体を魔装で補助して負荷を抑え込む。

 その勢いを殺さないまま剣を…。


 一瞬男の姿がブレた様に見えた。

 次の瞬間には向こうも前に踏み込んできて、私の腹に肘をぶつけてきていた。

 衝撃が内臓に伝わり、激痛と共に視界を歪ませる…だが、止まる気はなかった。


「はっ!?」


 そのまま剣を振り下ろす。

 肩口から入った剣は斜めに男の身体を通って鮮血を撒き散らす。

 だが男の攻撃のせいで剣に体重が乗り切っていなかった!

 深く相手を傷付けるに至っていない!

 でも浅い傷ではないはず……。

 追撃を加えようともう一度懐に踏み込んで、腰から両断しようと両手で剣を振り抜く。


「ぐっ…!!」

「そう睨むなよ、可愛い顔が台無しだ」


 男は私の手を先程のように掴んで剣を止めていた。

 軽口で返してくる男、腕の抵抗を許されないのでそのまま蹴りを放つが意に返していない。


「…えっ……」


 傷口が徐々に塞がっていくのが視界に入ってくる。

 人間業ではない。

 この時私は少し動揺を表に出してしまった。

 その隙に、男は掌底を使って顎を…脳を揺らすように攻撃を繰り出してきた。

 動揺した事で隙を作ってしまった私は反応出来ず、強い衝撃と共に視界が歪み、意識を刈り取られてしまった。


「……いな」


 何かを言っている……。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 此処は何処だろうか?大きな音が聞こえたけど…。

 レオリスは?ミシェイルは?レイスは?無事だろうか?


 暗い部屋、しかし綺麗とはいかないが適度に手入れがされているのがわかる。

 手足は縄でキツく縛られているし、窓には格子、扉は分厚そう……外は夜…か。

 剣は……ない、当たり前か…。

 私は捕まったのだ。

 となると他のみんなも捕まったと考えるのが自然…。


 とりあえず一通り確認する。

 背中側で縛られた腕も足も縄が解けない。

 魔装を使っても千切れない縄とはどれだけ丈夫なのか…。


 私は魔法を使えない、もしかしたらレオリスやレイスなら対応方法があるかもしれないけど…私には無理か…。


 何か切るのに使えそうなものはないか……。

 部屋を見渡すも驚くほどに何もない。

 これが捕虜を入れる部屋なら私でも何も置かない。

 扉は外から覗けるような小窓が付いている。

 そこに人影…というより気配を感じる。


「目が覚めたようだね〜」


 私を倒した男じゃなさそうだ。

 私が縛られているからか無警戒に扉を開けて部屋に入ってくる。

 下卑た視線で私の身体を舐めるように見てくる…気持ち悪い!

 こんな視線で見られる事は多い…だから慣れたものではあるが、慣れたからと言って気持ち悪くないわけにはいかない。


「やっぱ良い女だなぁ、やっちまいてぇなぁ!」

「おい!やめとけ、ボスが初物を楽しみにしてんだから!手なんか出してみろ?殺されるぞ」

「わかってるよぉ!」


 なるほど、私の貞操も危機ですね。

 話で聞いてもいたし知識もある、だから最悪どうするかとも考えていたけどまだ時間はあるらしい。


 と言っても部屋の外に立ってる男の制止がなければ……入ってきた男は忍耐強くなさそうに見えますが…。


「ボスの後を期待しとくんだな」


 嫌ですけどね。

 現状情報は少ないがなんとかしないといけないのは確か……。

 レオリス達も同じ建物にいる確率も高いはず…。


「…もう1人女が居たよな?」


 中に入ってきていた男が思い出したように外の男に問いかける。


「居たな、可愛い顔しちゃいたが、まだまだガキだぞ?」

「あっちはボスは何も言ってねぇよな?」

「ああ、いいんじゃねぇの?」


 コイツ見境がないのか…、でも放っておけない。

 このままじゃミシェイルが……ミシェイルは多分何も知らないと思う。

 別にレイスだったらどうでもいいことだけど……。


「フフッ…」


 何も考えていない見切り発車……。

 私の小さな声は意外と響いた。

 2人の視線が私に集まっている。


「…いや、まるで猿みたいですね?そんなに欲情して大変じゃないですか?あ、相手がいないから欲情を抑えきれないんですね?可哀想に…」


 私も性の知識が豊富ではない、経験もない。

 ただ母や姉達から教育は受けている。

 男というものがどういうものかも……。


「は?」


 予想通り中にいる男は食い付いてきた。


「大人の女性では相手してもらえないから子供に?それとも大人の女性だと満足させられないから経験のない子供に?どちらにしろ憐れですね」


 男が私の髪の毛を掴んで持ち上げてくる。


「おい!やめろ、そいつはボスの…」

「うるせぇ!!黙ってろ!」


 おそらく体格的にも雰囲気的にもこっちの男は腕は立つが頭が悪く、短絡的な男。

 奥の男はこの男に比べて力不足だが、冷静に考えて行動するタイプ。

 あくまで予想でしかないけれど……。


「身動き出来ない幼気な少女に手をかけますか?」

「はぁ?」

「かはっ!?」


 男は私の腹を躊躇なく膝蹴りを繰り出した。

 体格の差もあり私の体は少し浮き、そのまま地面に倒れこむ。


「お、おい」

「うるせぇ!テメェから殺しちまうぞ?」


 奥から制止する声に怒号で返す。

 私の予想より手を出すのが早かった…、魔装を纏えていればダメージを少しでも軽減出来たかもしれないのに…油断した。


「…お前、自分の立場わかってんだろうなぁ?」


 そうやって私の顔を足で踏みつけてくる。


「……」

「ほら、謝れよ…俺にも立場がある、とりあえず謝りゃ許してやるよ」


 立場?よくわからない。

 それより謝れ?冗談じゃない……。


「…あら、子供に謝らせて優越感に浸りたいんですか?可愛いところあるんですね?」



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