四章12〜“物語の主人公”
あれからしばらく会話はなかった。
エイルーナもレイスも何も言わず、ミシェイルも俺を責めることもなかった。
水辺を発見してエイルーナが血を洗い流したいというので、休憩することにした。
エイルーナは無傷だったようで特に治療の必要もなく、ミシェイルとレイスは軽い擦り傷程度。
「ミシェイル様…すいません、俺が足を引っ張って…」
座って一応治療をするミシェイルの手が止まり、俺とレイスを交互に見た後に首を傾げる。
「何を謝っているんだ?」
少しの沈黙の後ミシェイルが問いかけてくる。
レイスとミシェイルの視線を感じる。
「…おれがビビった所為で余計な手間をかけました…、怪我がなかったから良いものの…もし怪我してきたら…」
「その時は私が治すさ」
ミシェイルは間を空けずそう答えた。
当たり前のように。
「ビビってしまったのならそれでいい、調子が悪いならそれでいい、レオは何度も私を助けてくれている!それがたまたま今回私が助ける番だっただけだ」
ミシェイルはレイスの傷に触れて再びマナを送り込む。
擦り傷程度とはいえしっかり治療はした方がいい。
それはこの世界でも変わらない。
「私はレオに比べてまだまだ弱いからな、結局は助けに入って助けられてしまったが、また何があれば迷わず助けに入る、それが仲間だろう?」
ミシェイルは治療する手を止めずただ当たり前なんだと、そう言葉にする。
ビビって萎縮して立ち向かえなかった。
あんなに修行したにもかかわらずそれを無駄にするところだ。
あんな相手ばかりではないだろうが、正直楽勝な敵だろう。
そんな相手にビビって足を引っ張ったのだ。
それも前世の事で…。
そんな俺を助けてくれた。
助けるのは当たり前だと、仲間だと…。
嬉しかった。
仲間という響きが心地良かった。
「ありがとう…ございます…」
「俺はちょっとホッとしたよ?」
少し感動する俺にレイスが続けてくる。
「ルーナちゃんもそうだけどさ、俺にとってレオもおんなじような存在だったんだよねぇ」
エイルーナと俺が同じ?
正直よくわからなかった。
エイルーナは俺より実戦経験も少ない。
訓練などとは違い負けたら終わりの戦いなんて今回の旅が初めてのはずだ。
そんな中でビビるどころか自分から臆する事なく斬り込んでいった。
対して俺は数年前にゴブリンやジュラテッカと戦って死線を抜けたつもりになって、いざ久しぶりに実戦となれば覚悟も足りず、ビビって足を引っ張ってしまう始末。
「レオは自分より強い相手に向かっていって、子供なのにミシェイルちゃんを守って蜥蜴倒したりさ…物語の主人公ってこんな感じかなって…思ってたんだよ」
え?
多分俺は今変な顔をしている。
嬉しさと驚きが混ざってるけど、根本の少し拗ねてる病んだ自分がちょっと自己主張してきているから…。
「そんなレオもビビって足竦んだりするんだって…なんか親近感湧く感じ?」
「…ぅ…悪かったな…」
何だかんだ嫌味を言われてる気がする。
しかしレイスは嬉しそうに笑っていた。
「いいや、それでいいと思うよ…?」
よく分からない。
レイスが何が言いたいのか…。
なんとなくだが、ミシェイルはレイスの言葉の意味がわかっている気がする…、本当になんとなくだけど。
物語の主人公…そんな風に感じてくれていたのは嬉しいし少し恥ずかしい。
でもそんなことはないのだ。
あの頃だってそうだ。
ゴブリンと戦う時なんて、レイスが援護してくれないとダメだったと思う。
クリスが助けに来てくれないとそもそも俺もレイスも、あの地下で死んでいたに違いない。
ジュラテッカやあの森を抜ける時だってそうだ。
アルフリードの援護が無いと走り抜ける事は出来なかった。
ミシェイルが治療していなければ間違い無く死んでいた。
クリスがいなきゃそもそも全滅していただろう。
常にみんなが未熟な俺を助けてくれている。
俺は1人では大したことを成し遂げるのどころか、まともな事も1人でこなせていない。
領地の経営だってメイリーンやリドルフに押し付けて、レイスの伝手を頼りに旅をする。
本当に大したことをしていないな…。
主人公にはなれないだろう。
主人公ってのはもっとカッコよくて勇気があって、強く優しいやつだ。
俺はそんな奴じゃない。
あ…。
「でもその理屈だとエイルーナは英雄か?」
俺はふとそう思ってレイスに問いかける。
レイスは俺が思っていたよりヘタレだから、親近感湧いたと、つまりは自分に近い存在だと思ったという事だ。
エイルーナと俺が勇気に溢れた強い戦士、まるで物語の主人公。
俺は違った。
しかしエイルーナはどうだ?
あの状況に臆する事なく立ち向かい、当たり前のように結果を出す。
勇気に溢れて強さを見せる。
何気に優しいし、見た目なんて絵になるレベルだ。
「ルーナちゃんはねぇ…、普通に才能の塊だよね」
「そうだな、だからなんだよ」
そんな事はみんな知ってる。
見れば出来るんだ奴は…それこそなんでも。
勿論筋力や体格の問題で再現できなかったり、クオリティを落としたりとする事はあるが、見たまんまそれに近い事は出来てしまう。
見たものを認識する目に、それを理解する頭。
何よりそれを再現するために体を操るセンス。
俺の知る世界では、主人公が持っててもおかしくない能力だ。
特に魔法があるとはいえ、その魔法がまだまだ発展途上であるこの世界で、剣や槍といった武器を使った戦闘が主流。
そんなに中でエイルーナの能力は素晴らしい能力だ。
「うまく言葉に出来ないからこの話は忘れて!」
「ええっ!」
思わず声をあげたのは俺ではなくミシェイルだった。
遠目にエイルーナが帰ってきているのが見えてくる。
なんかしっくりこない。
レイスのせいでモヤモヤする。
ミシェイルも多分同じ気持ちだ。
レイスはニヤニヤしてるが…。
「なんの話をしてたんですか?」
帰ってきたエイルーナがそう質問を投げる。
「レオとミシェイルちゃんがね、俺の美しさが羨ましいって言うんだよぉ、まぁ本当だし仕方ないんだけどねぇ」
少し引くような顔をする。
その冷たい表情は誰に向けてなのか…。
でもこんな話をして、弱みを少し吐き出した事で気持ちが軽くなった。




