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四章11〜“重なる影”

 野党のアニキと呼ばれるリーダーらしき男が、剣を片手に振り上げて斬りかかってくる。

 乱雑なその動きは大振りで、鈍く隙だらけだ。

 ただ雑に踏み込んで力任せに振り下ろす。

 見れば薄汚れたズボンに、ボロボロの革のベスト。

 なんかベタなモブキャラだ。

 体格だけはしっかりしてるが、やはり腹は中年らしくポッコリしている。


 頭にはいくつかイメージが浮かぶ。

 まずはこの攻撃に潜り込んで、足を使って脇まで入り込んでから斬る。


 受け止めるように見せて受け流して、体勢を崩してから一撃。


 一歩下がって躱せば追撃が間違いなく続くだろう。

 そこを剣を被せるように速さで仕留める。



 いくつかパターンもあるし、回避行動と反撃方法を組み合わせを変えるだけでもさらに増える。

 魔法を組み合わせてもいい。

 イメージがあれば後は当てはめるように……あれ?

 理由がわからないが体が重い……。

 剣を振り下ろしてくる野党の男の姿が何かと被る。

 この乱暴な姿が、雑な動きが…。

 まるで体に針金を巻き付けられていると錯覚する程に体が引っかかる。


「ぐっ!」


 違和感があって動きにくく、重くさえ感じる腕をなんとかあげて、剣を横に寝かせて相手の一撃を受け止める。

 金属同士がぶつかり合う鈍くも甲高い音が響く。


「オラオラどうしたガキィ!」


 そのまま男は連続で剣を振り上げては振り下ろしてを繰り返す。

 ぶつかり合う剣と剣の金属音。

 時折火花も散っている。

 予想通りこの攻撃は重い。

 力任せに、体重任せに振り下ろしている。

 お陰でこんなに力が伝わってないにも関わらず、剣に威力がある。


 だが簡単だ。

 予備動作もわかりやすいし、足取りも重い。

 動きも単調だから、呼吸を合わせて横を抜けるように踏み込んで一閃すればいい。

 しかし足は俺の命令を拒んで動かない。

 男の足が動くのがわかった、その動きは踏み込みではない。


 予想通り男はそのまま蹴りを放つ。

 俺は躱す事が出来ずに、何とか腕で防ごうとするが、そのまま吹っ飛ばされる。

 咄嗟に受け身を取ろうとしたが体の反応が鈍い。

 受け身は取れたが、体勢が不安定だ。


 なんだ俺は…。

 どうしたって言うんだ。

 緊張してるのか?


 実戦は初めてじゃないだろう…。

 コイツはゴブリンより強いかも知れないが、ジュラテッカの足元にも及ばないはずだ。

 あそこで暴れてるエイルーナの方が圧倒的に強い。


 確かに少し舐めてたかも知れないが…、それでもこんな苦戦する様な相手じゃないはずだ。

 しかし男はそのまま背後から走って距離を詰めてくる。


 振り返れば男が剣を振り上げているのがわかる。

 避けなければ…、最悪防がないと……、どうやって?


 体に巻き付いた針金がさらに増えた様に錯覚する。


 俺を守る様に男の剣を受け止めたのはミシェイルだった。

 レイスはエイルーナを、ミシェイルは俺に加勢に入ったのか?

 少なくともミシェイルは俺の前に立って盾で剣を横から殴るようにして、男の剣の軌道を逸らさせる。

 さらに細剣…レイピアで突きを放つ。


 しかし踏み込みが甘く、一歩の大きさの差で剣は頰を掠める程度で、男が軽く後ろに跳ねて距離を取った。


「ミシェイル…様…」

「レオ!大丈夫か?」


 ミシェイルは俺の前に立ち、振り向かずに声を掛けてくる。


「次はお嬢ちゃんが相手かぁ?よく見れば可愛いじゃねぇの!俺もまだガキの味は知らないからなぁ……ヘヘッ一足先に俺が大人の男を教えてやろうじゃないの!」


 男が頬を歪めて醜悪めいた表情で舌舐めずりしている。


「何が言いたいか知らんが、簡単に行くと思うな」


 ミシェイルはそう言い放つと駆け出す様に距離を詰めていく。

 決して大振りはせず、大きな隙も作り出さない。

 細かで軽やかなステップに、レイピアと盾を駆使した突き主体の攻撃。


 しかし間合いという差が大きく影響を与える。

 ミシェイルの間合いに踏み込むより先に大振りな剣が到達する。

 盾で受け止めるものの、体格差や筋力差の影響でそのまま横に飛ばされる。


「ちゃんと楽しんだ後は、売り飛ばしてやるからなぁ」


 吹っ飛んだミシェイルを追いかけて、ミシェイルの剣を蹴り飛ばす。

 そのまま首を掴んで持ち上げる。


「ッグッ!!離せ!!」

「はっはっはっは!」


 ミシェイルは盾で殴ろうと腕を伸ばしたり、蹴りを仕掛けたりするが大したダメージになってない。

 踏み込みもないミシェイルの蹴りでは余り意味を持たないのだろう。

 男は醜悪な笑みを浮かべている。

 奥には2人同時に相手するエイルーナと、もう1人と対峙するレイスが見える。

 何を期待しているんだ俺は。

 一番余裕なのは間違いなく俺だろう!


 先程の男が襲い掛かってから姿が脳裏をよぎる。

 再び体は重く鈍く感じる。


「なんで…俺は…」


 同時にまた別の記憶が脳裏をよぎった。

 それは前世の記憶だった。

 自分を殺した義父の姿。

 もしかしたらどこかコイツに被せていたのかもしれない。

 正直あんな奴の顔もなにもかも覚えてないが…。

 だからこそ記憶を重ねて体が萎縮したのか…。

 背格好は似てる気がするし…でもそんなの今は関係ないだろ。

 苦しむミシェイルの姿に再び前世の記憶が蘇る。

 それは先程の恐怖の記憶で体が硬直したのとは別の、薄れていない記憶の一つだった?


「なんだよ、動けるじゃんかよ」


 妹の姿とミシェイルを重ねてしまった。

 元々よく似ていた。

 重ねるのは容易だし、いつも無意識に重ねてしまっていた。

 体に巻き付いた針金は溶けて消えた。

 乗っかっていた重りと共に…。

 同時に怒りが込み上げてくる。


 覚悟が足りてなかった自分に。

 ミシェイルを危険に晒している自分に。

 自分の愚かさに、甘さに、腹が立つ。

 そしてあの男にも…。

 もう、大丈夫…!


 剣を握って姿勢を低く走り出す。

 真っ直ぐにミシェイルを掴む男との距離を詰める。


 男は気付いて、ミシェイルを掴む腕とは逆の手で剣を振るう。


「ボンバーアームズ!」


 魔法を唱える。

 さらにマナを込めると剣にも紋様が現れる。

 同時に赤いマナがら光を放つ。


 男が振り払ってきた剣に滑らせる様に剣をぶつけて軌道を逸らす。

 同時に赤いマナは男の剣に乗り移る。

 それを数回繰り返す。

 大振りなのでタイミングはわかる。


「ちぃっ!」


 なかなか仕留めきれないことにイライラしたのか、ミシェイルを乱暴に投げ捨てた。


「ゲホッゲホッ…レオっ!」


 すぐに転がる様に受け身を取ったミシェイルを確認すればタイミングを合わせて剣を潜り抜ける。

 剣を左手に持ち替えて飛び込みながら宙で体を捻り、右腕を翳す。


「弾けろ!インパクトォッ!」


 掌から衝撃が広がる。

 その衝撃に触れた男の剣が爆炎を吹き出して爆発した。


 男は爆煙の中を転がって飛び出してくる。

 剣を持っていた腕は吹き飛んで、右半身を激しく火傷しているのがわかる。


「うがっ…がっ、た、たすけてくりぇ…わ、わるかっだがら」


 剣を持って歩み寄る俺を恐怖に支配された目で俺を見ている男。

 俺は何も答えない。

 真っ直ぐ男を睨みつけながら近づいていく。

 男は助けを求めようと周りを見る。

 エイルーナが2人を仕留め終わっており、その近くにはレイスに矢を射られて、腹に突き刺さる矢を掴んで、座り込んだまま苦しんでいる男が映る。


 返り血で真っ赤に染まるエイルーナは、男の恐怖に拍車をかけた。


「た、たのむぅ…ころ、こ、ころさないでくれ」


 男は小便を漏らして、涙と鼻水で顔を汚しながら命乞いをする。

 俺が足を止めたことで男は安堵の顔を浮かべる。

 すぐに強く踏み込んで剣を前に突き出した。

 男の目の前で剣は静止する。


 男は目を見開き固まるが、すぐに泡を吹いて気を失った。


 もう1人の男は悲鳴をあげながら腹を押さえてふらふらとした足取りで走り去って行った。


 とりあえず勝ったと言っても…いいよな?



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