プロローグ
―――『魔女』とは、生まれ落ちた瞬間にただ一つの研究する事象を魔術とし、それを生涯をかけて探求し、発展させる者たちのことである―――
そんな魔女たちが住んでいるのが、魔女の森。
その森に住む魔女は、初代族長の『臓器』の魔術により、魔術を探求することで起こる満足感を種とし、子どもとして次の世代へと知識や経験を受け継ぐという器官を備わっている。
なので、この森には男はいない。
女しか生まれてこない種族なのである。
そんな森に、ある子どもが生まれてきた。
それは、『生命』を研究対象とする子ども、名をリナという。
魔女は生まれた瞬間、血液を採取する。
血を取られた魔女の子どもは生命の危機と判断し、無意識的に魔術が発動する。
起こりうる魔術の可能性は、草、木、虫、魚、石、火薬、宝石、絵、剣、古代文字など。
作用した魔術の内容によって、本人以外に研究内容を知れるようになる唯一の方法だ。
◇◆◇◆
「この子の血はどんな効果を及ぼすのか。母親は優秀だったが、先程この子が生まれて、死が確認された。魔女の森の発展に貢献できるような魔術であってほしいのだがね。」
生まれたばかりのリナの前で魔女は、そのようなことを言った。
「族長、この子がどんな魔術であれ、母もいないのですし、私がこの子の代母になればいいんですね?」
「そうだな、だからお前たち一族と盟約を結んでいる。私たちは基本的に研究のことしか、頭にない。それが私たち魔女というもの。それは自分の子であってもだ。だからこそ代母をつけこの森のために成長を促す。その子が行った実験なども私に報告を欠かさないよう頼んだよ?」
「はい、かしこまりました。」
「では、早速この子の魔術を見に行こうか。」
「私もですか?」
「興味がないのならいいが、一応見ておきたまえよ。」
そう言いながら、部屋をあとにした。
少し大きなコンテナのような建物に入る。
そこには生まれたばかりの赤ちゃんが待っていた。
周りを囲むように、植物、水槽に入っている魚、本、星のカケラと呼ばれる石、自然界に存在するありとあらゆるものがおいてあった。それに加え、古代文字や魔道具と呼ばれる魔力で動く機械など多種多様なものが置いてあった・
「族長ここは?」
「この子の魔術で反応するものを見るんだ。そうすれば本人以外にもどんな研究内容なのか想定が着く。あとは、」
そう言いながらナイフを取り出し、私の腕をナイフで切った。
「い゙ッッ」
いたがる私には興味を示さず、そのまま赤ちゃんの方に歩みを進める。
なんでこんなことにと思う。
お父様に何を言っても一族の義務、王命だから、としか言わない。
代母になるために、この森に来た。
魔女と言っても、ただの人間と変わらない、そう思っていた。
でも違った。この人たちは、冷たいんだ|。一族の希望になりうるかもしれない赤ん坊にすら、これだ。
思えば、母親が死んだ、そう告げるとき、この魔女は、顔色一つも変えなかった。
ただ淡々と、その起きたことを口にしただけ。
―――『せめて、この子だけでも、人間らしく、他のことに興味を持ってもらえるようにしよう。』そう誓った瞬間だった。
「では、血を採集しよう。」
始まる、そう思った瞬間には、もうそれは、起きていた。
「私の腕が、周りの植物も?」
急に痛みが引いたと思ったら、まるで細胞が活性化したかのように、傷を埋めていった。
植物は、葉や茎が伸び、全体的に急に成長した。
水槽の中の魚も、元気がなかったのが嘘のように、スイスイ泳いでいる。
すごいと思ったと同時に、怖いとも思ってしまった。
「これほどのちからがあるなんて、」
口からこぼれ出た言葉、その瞬間しまったと思った。
王国にこんな言葉がある。
『魔女には疑問を話すな。聞かずに見送れ。』
時々、森を出てくる魔女がいる。
研究の成果を王城に提供しにくる日。
『これはどういう仕組みなのだ?』
そうやって王様が、口にしたとき、一日中自分が研究していたことを嬉々として解説を続ける魔女の姿を見てそんな言葉ができた。
それが、何も話さない。というよりこちらを見ていない。
興味が他に移っている。
「素晴らしい、これなら、本当に素晴らしいぞ。ははは、本当に素晴らしい。」
族長が、飛びっきりの笑顔で笑っている。
なぜこれほど興味を持つのか、そんな疑問は周りを見ればすぐに解決した。
周りにあった全ての生命活動をしているものに効果を及ぼしている。
私という、人という存在にも、多分おそらく魔女である族長にもである。
「半分だ。」
「え?」
私は、いきなりつぶやいた言葉の意味がわからず、聞き返した。
「魔女の幼児が生命の危機に瀕したとき、発動する魔術の大きさ。それはわかりやすく言うと、その魔女が成人し、ある程度研究に性を出し、発動する魔術の半分の大きさということだ。ただの目安だがな。」
そんなこともわからないのかと言うような目で私を見る。
私はそんなことよりも驚いている事がある。
この魔女は、これよりもすごい景色を実現可能なのか、そう思うと私の役割のでかさがようやくわかり始めてきた。結婚して、20年子どもも立派に貴族として、家を継ぎ、余生を過ごすだけだと思っていた私にこの仕打ちは少しだけ酷ではありませんか?神様。
『王命』その意味が重くのしかかる。
この魔女を人類に敵対しないように教育しなければならないのだろう。
人間社会に益となるようにもしなければならない。
興奮している族長をおいて、大きなコンテナから外に出た。
コンテナの外の木が枯れかけていたのに少しだけ、元気になっているのを見て、その子の人生に最も大きく影響を与える母という役目に、改めて重圧を感じていた。
それでも、私のところに来たなら私の子だ。
そういう運命だったのだろう。
親ならば少なからず何かを教育するのは当たり前のことだ。
同族の魔女が、興味すら持たないのなら、私が愛を持って接してあげよう。
少なくとも、いろいろなものに興味を持ってほしいと思う。
それが王命でもあり、代母である私のわがままだ。
少しだけ後ろを振り向き、コンテナをしばらく見つめた。




