3度目の光景
「——よって、エレノア・フォン・アルヴェリアとの婚約の破棄、及び——斬首の刑とする。」
言葉が落ちた瞬間、会場の空気が変わった。
ざわめきが広がる。
光だけがやけに鮮やかで、現実味が薄い。
(……また)
息を吐く。
胸の奥は、ひどく静かだった。
「君は彼女に対し、数々の嫌がらせを行った」
視線が流れる。
私ではなく、その先へ。
淡い色の髪の少女。
守られるように立っている。
(違う)
思うだけで、声にはならない。
「やはりあの令嬢は…」
「前から気に入らなかったのよ」
重なる声。
でも、それすら遠い。
分かっている。これは、決まっている。
「弁明はあるか?」
視線を落とす。
「……ございません」
ざわめきが揺れる。
これで終わる。
そのはずだった。
目を伏せたまま、息を整える。
視線を落としかけて——視界の端で、わずかに何かが動いた。
見ていない。見るつもりもなかった。
それでも、ほんの一瞬だけ——形が残る。
笑み。
……いや。
「一回目」は、怯えていた。
「二回目」は、泣いていた。
——なら、今のは何?
喉の奥が、ひどく乾く。
顔を上げる。
彼女はもう、いつもの表情に戻っている。
不安そうで、か弱い顔。
(見間違い)
そう思ったのに、消えない。
その唇が、かすかに動く。
音は聞こえない。
それでも——
「これで、いい」
そう言ったように見えた。
(……なに、それ)
言葉にできないまま、世界が歪む。
音が遠のく。光が滲む。足元が抜ける。
(……来る)
分かってしまう。
(また——)
白。
「お嬢様、お目覚めですか?」
声で意識が戻る。
見慣れた天井。見慣れた部屋。
息を吸う。ゆっくりと吐く。
(……戻った)
体を起こす。
指先が、わずかに震えている。
鏡を見る。
そこにいるのは——見慣れた顔。
悪役令嬢。
記憶が重なる。
一回目。何も知らず、終わった。
二回目。変えようとして、間違えた。
そして——
(……三回目)
目を閉じる。
二回目は、逃げた。
譲った。関わらなかった。
それで、変わらなかった。
(なら)
目を開ける。
(今度は、違う)
逃げない。
——自分を、消さない。
ゆっくりと息を吐く。
脳裏に焼き付いている。
あの一瞬。
(……今のは)
答えは出ない。
それでも、消えない。
「……考えすぎ」
静かな部屋。
それでも——何かが、確かに動き出していた。
三度目が、始まる。




