表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/42

2022年2月19日

 女の子たち、土曜日だから早めに来るかなとは思っていたが、13時過ぎに三人仲良く傘差してやって来た。雨は降り続いている。さてどうしたものか?今日も俺の車の中を憩いの場にすることは間違いない。雨で外に居続けることはできないから後部座席のマットは濡れる。お菓子を持って来てる筈だから、かすが散らばるだろう。だが、あいつらかわいいから排斥する気は全く起きない。そんな些細なことが気になるのなら、嫁と二人、雨でも下関に息子のバスに乗りに行けば、女の子たち、勝手に餌をやって勝手に帰るだろう。しかし、俺はどこにも行かず車の中で時間を費やしている。はっきりいってあいつらを待っている。

 きよのちゃん、「猫じい、バック車の中に置いてていい?」

「ああ置いとけや」と俺。


 玄関には庇がある。鍵を開けて玄関の中を使えるようにした。車の部品が詰まってはいるが、小学生に見られても別にまずいものはない。

 あいちゃん、「後でまたトライアルに連れて行ってぇ」

「何買うんか?」と俺。

「アンバーの餌」

「この前99円の激安猫缶買っとったん無くなったんか?」

「うん」

「猫じい、だんごこっちに来る?」と心配顔で訊くきよのちゃんに、「大丈夫や。雨降りに何度か玄関先でやったことあるし。なんなら俺が誘導して来てやるよ」

 あいちゃん、今日も紙製の升に入った豆持って来て食べている。

「あいちゃんめっちゃ豆が好きなんやな。節分の豆まだ家に残っとん?」

「これはドンキで買ったん。5円だよ」

 かなえちゃん、「安い!」

「俺にもくれや」とあいちゃんから一粒貰って口に放り込む。

「おう豆結構美味い」

 あいちゃん、「あっ豆落ちたぁ」

「勿体ない俺が食ってやる」と、あいちゃんが拾った豆も口に放り込む。

 あいちゃん、「今日の給食美味しかったよ」

「お前ら給食に出てくるパンって食パン?コッペパン?」

 かなえちゃん、「コッペパンもあるし食パンだったら二枚だよ」

「俺らのときは小学校がコッペパン一つで、中学になったら二つ貰えるって楽しみにしとったら大きさが小学校の半分やったって落ちや」

「お前らの家で作るカレーって辛口中辛甘口?」

 あいちゃん、「うちは中辛」

 きよのちゃん、「うちは辛口」

「俺の作るカレーは辛口なんやけど嫁がニンジン嫌いで入れられんのよね」と俺。

 かなえちゃん、「えっ!猫じいが作ってるの」

「あっちゃぁ~、バレてもうたか。晩飯のほとんどは俺の担当なんじゃ。やけん俺独自の中華鍋も持っとるけんね」


 最初に寄って来てくれたのはきよのちゃんお気に入りの茶トラのだんご。きよのちゃん、雨に濡れただんごの背を撫でていたが、「猫じい何か拭くものな~い?」と訊くから、車のワックスを拭き取っていた雑巾を持ってきて、「さてだんごのワックス掛けや」と戯れ言を叩くと、「もうだんごは車じゃないの!」

 玄関の板敷に座って、だんごの鼻先に猫缶の餌を近付けてそこに上がるように誘導している。かなえちゃんと俺は玄関の外に立って、俺が持って来てやったダイソーで買った300円の白い椅子に座ったあいちゃんは、玄関内のタイル張りの床から、羨ましそうにだんごに餌をやるきよのちゃんを見守る。


 居間のガムテープを貼り捲った汚い襖が開いて、「あらみんな来てたんやね」と嫁。

 三人、「はいお邪魔してます」

 俺は、「お前ら急に丁寧語になって気持ち悪ぃわ」

 きよのちゃん、「あっだんご!」

 だんごが飽きたのか、玄関から出て行った。

「ちょっと待っとけ。俺が食いしん坊だんご誘導して来てやる」と、ポリバケツからカリカリ餌を取り出して、紙皿に入れて鼻先に近付け、玄関まで上手く誘導してやった。

 お気に入りのステファニーが寄って来ず退屈そうなあいちゃんに、「ステファニーは空き家(俺の家の玄関前)に居るぞ。茶々(もう一匹の茶トラ)と一緒に」

 きよのちゃん、「不倫茶々は嫌い!」

 あいちゃん、「どこに?」

 俺はあいちゃんと一緒に小雨の中、玄関の外に出て、空き家の軒下を指して、「ほらあそこに居るやん」

 あいちゃん、「ほんと。でも茶々が邪魔」と追い立てたが、ステファニーもどこか行ってしまった。手持ち無沙汰のあいちゃん、板敷のきよのちゃんの横に座る、「もうマリア(あいちゃんのこと)そこはダメ!」

 あいちゃん、「狭いけん?」

 きよのちゃん、「違う。だんごが上がって来ない。ステ(ステファニー)が来たらうちに代わってあいちゃんここに座らせるから」


 猫が寄って来ないので、三人霧雨の中、駐車場に出た。きよのちゃん、「今日はダメ。猫が寄って来ない」と、俺の想定通り、三人車に乗り込んだ。かなえちゃん、昨日のように閉め出されることなく助手席に乗り込んだようだ。

 遅れて乗り込んだ俺の目に、どたばたと暴れる後部座席のあいちゃんと助手席のかなえちゃん。『俺の車はこいつらの遊び場か』と、心の中で呟く振りをして、実際は嬉しい俺だ。

 あいちゃんがかなえちゃんの背負い式のバックを奪っている。かねえちゃん、後部座席に向かって助手席に膝立ちになって、「もうあいちゃん返して」

「嫌だよう」とあいちゃん。


 俺が午前中寛いでいたとき、助手席のシートを若干倒していたので、あいちゃん、窮屈に感じたんだろう、「かねえちゃんシート元に戻して」

 もたもたしているかなえちゃんに、「早くして」

「やったらバック返してくれるぅ?」

 見かねた俺が、「お前らトライアルに行くんやろ。仲良うせんと連れて行かんぞ」

「じゃぁ一旦返しとくね」とあいちゃん。

 かなえちゃん、取り戻したバックをしっかり胸に抱いてほっとしている。

 車を出すに当たって、こいつらが玄関横に置いていた傘を、トランクの荷物を台所に下ろして、載せた。雨水が垂れるのは嫌だが、トライアルで別れることがあれば必要だろうから。

 あいちゃんときよのちゃんに沈黙という言葉は存在しない。二人と離れた席にいるかなえちゃんだけに当てはまる言葉だ。

 トライアルの駐車場に入ろうとする俺のハスラー、あいちゃん、「もう着いたの」とがっかりしている。1キロもないほんのちょっとの距離でもこいつらにはりっぱなドライブだ。ほんとこの年頃って友達とさえ居れば何でも楽しめるんだなと、改めて自分の小学校時代を振り返る。

「傘いるか?」という俺の問に、あいちゃん、「いらな〜い」

 ということはまた車に戻って来るということか。

 俺はわざとらしく、「帰っとってええか?」

「猫じいちゃんと待っとってよ。帰ったら大声で泣くよ」と俺を脅す。

「分かったちゃ。ばってここから俺の家まで10分掛からんのやが」

「それでもダメ。寝ててもいいよ」って、そんなに時間掛かるんかいな?


 俺の右隣はジムニーだ。買い物を終えた若い女性が乗り込もうとしている。ちょうど帰って来て後部座席に乗り込んだきよのちゃん、目敏く、「猫じい、女子大生?に鼻の下伸ばしとったんやない?」

「あほか!ジジイの俺にそんな活力もうないわ」

 きよのちゃん、「明後日はまた学校〜、嫌だな〜」

「ほいでも水曜日は何とかの誕生日で休みやなかったか?」

 あいちゃん、「水曜日より火曜日の方がよかったわ〜。時間割がかなりエグい。もう天皇さん火曜日に生まれてくれればよかったのにぃ」

 って、「曜日は一年ごとにずれていくぞ」と俺。

「来年は木曜日だよ」とかなえちゃん。さすが学級一の成績!


 家に着いたら一旦車から降りて再び餌やり。小雨が止むことはない。ステファニー、ランサーエボリューションの下に居る。

 勝手口の庇、台風で飛んでしまって一部分しか残ってなく、ポリバケツと、壊れてだんごの寛ぎ場になっているレジャーチェアの辺りしかカバーしていない。この二つを除けて人が雨宿りできるスペースを作ってやったが、猫が来なければ使いようがない。ステファニー、ランサーエボリューションの下から出て来ようとしない。

 あいちゃんとかなえちゃん、小雨の中、出ていって、ステファニーを餌で釣って車の下から出そうとする。俺がステファニーのしっぽを掴んで引き摺りだそうとしたが、今度はハスラーの下に入った。

 かなえちゃん、「もう猫じい乱暴!ステファニーがかわいそう」

 あいちゃん、「もううちの服びしょびしょやがぁ」

 かなえちゃんが傘を差したいというから荷席から出してやる。再びランサーエボリューションの下に入ったステファニーに、傘を差して、出て来て餌を食べるとき濡れないようにしてやる二人。

 だんごは俺の家の斜め前の婆さんの敷地に戻っている。きよのちゃんはだんごを追ってその敷地に。

『あっちゃ〜!傘の骨がエボリューションに当たりよるわ。まぁかわいいあいつらのしよること。付いても磨き剤で消える傷であることを祈るわ』と俺。


 戻ってきたきよのちゃん、「ダメ。たんご檻(シャッターが閉まった俺の家の二軒先の豪邸のこと。俺の家の斜め前の婆さんの姉さん?)の中に入ったぁ。ステも居たよ」

 となると、三人のこれから先の時間の潰し方はハスラーの中でのばか騒ぎ。あいちゃんときよのちゃんは後部座席。助手席にかなえちゃん。運転席には俺。

 あいちゃん、濡れた黒い上着を運転席と助手席の背凭れに掛けて乾かしているため、前と後ろが隔絶された空間のようになっている。後部座席の二人はあいちゃんのアイバットミニでゲームに興じだす。かねえちゃんは蚊帳の外で手持ち無沙汰。雨で曇った助手席の窓ガラスを指でなぞって暇潰し。

 あいちゃん、「かなえちゃんキモい!猫じいの車に字ぃ描いて遊んでるぅ」と弄る。


 あいちゃんのアイパットの中には三人のこれまでの思い出の写真、動画がぎゅっと詰まっている。何度か見せて貰ったが、その中には勿論、かなえちゃんの写真も動画もあるわけで、それを本人の前で俺に公開するとなると、めっちゃ恥ずかしがる。

「猫じい見てぇ」「猫じい見ちゃだめぇ」で三人のバトルが始まった。車壊れんかいなと心配するほどの暴れ方だ。その内、あいちゃんが俺の眼前に差し出したアイパット、ゴツンと思いっきり俺の唇に当たった。上の前歯の補修した部分が若干欠けて上唇の内側を切った。血は出ていない。

 三人びっくりして口々に、「猫じいご免。大丈夫?」

 あいちゃん、「もうかなえちゃん猫じいに土下座して謝って」と結構強い口調。

 俺は、「大したこたぁねぇ。気にすんなや。それよりかなえちゃん、俺に写真や動画見られたって恥ずかしいこと全然ねぇぞ。俺はお前らにバレンタインの友チョコもらった友達やろうもん」

 あいちゃん、「そうよかなえちゃん。うちら友達同士なんやけん恥ずかしいことなんて少しもないよ」

「確かにそうだね」とかなえちゃん。


 そうこうしている間に17時45分。門限が迫る。

「猫じい降りる」とかなえちゃん。一人で住宅街の路地に消えて行く。きよのちゃん、追い掛けて行って、「猫じい連れ帰って来た」と得意顔。

 帰るときは仲良く三人、「猫じいまたねぇ」

「ああ」

 俺は三人の姿が見えなくなった後で後部座席の室内清掃。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ