009 スキルチェック
宿探しは、直ぐに終わった。
ジローが、先程見つけたトワイライトから動こうとしなかったからだ。
子どもかよ、と思ったが、まぁ安い宿を探して彷徨うよりも、落ち着いてこの世界を考察した方が、少なくとも今日はいいだろうと思ったから、結局宿はトワイライトにした。
チェックインは簡単だった。
冒険者ギルドカードを見せれば一発だった。
風呂もあるということだったので、連泊にした。
部屋に入ると、早速、ジローに隠蔽のやり方を説明した。
そして、空間魔法、土魔法のことも話した。
流石に宿屋の部屋では、試せないので、明日、ダンジョン方面に向かいつつ、スキルを試そうという話になった。
代わりに空間魔法を検証することにした。
「ジロー、オメェ、アイテム袋持っているよな。それは空間魔法とは違うのか?」
「はぃ、リュージさんが言う通り、空間魔法だと思います。空間魔法を袋に付与しているんだと思われます。
空間魔法の最たるは、アイテムボックスです。マジック袋のように、自分自身の近くに空間を作り出し、その中にものを入れることができる素敵魔法です。俗に言う[勇者]は必ず持っているとされます。」
「ほぉ、そうか。アイテムボックスかぁ、アイテムボックス出ろ! オープン アイテムボックスー! アイテムボックス カモン!」
「 出ねーぞ?ジロー、どうするんだ?」
「リュージさん、よくわかりませんが、とりあえず、リュージさんの横の黒い線、見て頂けませんか?」
「ん?んんん?なんじゃこらー。空間に黒い線? こっちのは少し開いてるな?」
「リュージさん、中は見えますか?噛みつきませんか?」
「んー、見たところ、黒いだけだな。何か入れてみるか。 ジロー、何かあるか?」
「では、このアンダーウェアを。」
とジローは異世界の服屋で買ったばかりの未使用アンダーウェアをリュージに渡す。
「未使用とはいえ、男から下着を渡されるのはいい気しないな。」
リュージは呟きながら、ジローから渡されたアンダーウェアを黒い空間にいれる。
その瞬間、黒い空間は明るくなる。
発光はしていない。
ただ単に、中が覗けるようになっただけだ。
中を覗き込むと、[パンツ]が浮いていた。
「ジロー、見てみろ。パンツが浮いてるぞ。おもしれー!!」
「リュージさん、これ、マジック袋と同じです。ちょっと手入れていいですか?」
ジローは手を入れてみる。
取り出せた。
「リュージさん、アイテムボックスです。マジック袋と同じ機能を持ってます。 素晴らしいです。流石、リュージさんです。アイテムボックス持ちはかなり有益です。」
「うむ。 この開いているアイテムボックスはわかったが、他の線状になっているのは、開かないのかな? 同じアイテムボックス? 開け?」
リュージが軽く思ったら、他の線状になっているモノが黒い空間状になった。
「うぉー、リュージさん、アイテムボックスが3つ。普通は1つですよ。 3つとか聞いたことありませんぜ。マジ スゲーす。流石リュージさん、ハンパねぇっす。」
「とりあえず、黒いのも何だから、靴下とか、Tシャツとか、入れとくか。明るくなるしな。」
リュージはジローから、靴下やTシャツを受け取り、アイテムボックスに入れる。
「そういや、これ、仕舞うにはどーしたらいいんだろうな? 閉まれ!! シャッゼム!!」
リュージが軽く
『閉まったいいな』
と思いながら言うと、全部のアイテムボックスが閉まり、今まで空間に浮いていたモノが、消えた。
「おー、消えたな。アイテムボックスオープン!!!」
リュージが言うと再び、リュージの横に先程のアイテムボックスの空間が出現した。
覗き込むとパンツが浮いていた。
「どーやら、開いた状態のものを意識したら、開いた状態で出てくるようだ。」
「アイテムボックス、アイテムボックス」
更に2つ出てきた。
今度は開いている状態のものと閉まっている状態のものを意識した。
アイテムボックスは開いているものと閉まっているものか出てきた。
「シャッゼム」
「よし。じゃ、今度は念じるだけで。」
と言ってリュージは心だけで、
『アイテムボックス、アイテムボックス、アイテム』
と念じてみる。
3つの開いた状態のアイテムボックスが出現した。
「どーやら、念じるだけで、出せるようだ。」
「しかし、位置が問題だな。最初は横に出てきたから、見えんかったし、物が入れにくかった。位置が移動できないかな?」
とリュージが思った途端に、アイテムボックスが動き出した。
アイテムボックス3つそれぞれが、リュージがなんとなく、この位置に来てくれないかなぁ?と思う位置に動く。
「マジか!!動くぞ。かなり自由自在に。しかも結構高速だ。おー、靴が入れれたわ。動かして、入れることもできるんやな。便利かもしれない。投げてゴミ箱から外れたティッシュも拾えるな。」
「流石、リュージさん、マジすげぇーす。もう、自在に使いこなしていますね。ティッシュはともかく、ダンジョンでドロップしたアイテムを拾い集めるのは意外に大変なので、役立つと思います。」
「あと、自分の靴は返して下さい。出歩けなくなりますから。」
ジローはベットの上にいたため、靴を脱いでいた。
ジローの履いていた靴は、見た目はゴツい革靴だが、実はつま先や踵を鋼鉄で補強してある安全靴だ。
土木作業員必須のアイテムだ。
ヤンキーもよく履いている。
喧嘩の際に蹴りが強化されるからだ。
「ほれ、靴だ。おぉ、取り出すのは手でやるのな。」
そう言って、リュージはジローの安全靴をジローに放り投げる。
「アイテムボックスの使い方はだいたいわかった。ダンジョンのドロップ品も拾い集めれそうだ。ジローが言っていたように、入り口を伸ばすこともできるのはわかった。今、やってみたが、結構細長く伸ばせるようだ。俺のトンファーも普通に入った。」
リュージはベルトに差していた武器屋で買ったトンファーをアイテムボックスに入れた。
そして、その同じアイテムボックスに入っていたアンダーウェアをパンツが入っていたアイテムボックスに移す。
武器アイテムボックス、アンダーウェアアイテムボックスと整理した形だ。
なんとなく、武器とパンツは一緒に入れたくない。
中身が何もなくなったアイテムボックスは、黒い空間になった。
閉じてみた。
開いてみた。
閉じてみた。
閉じたら1本の線になる。
その線を伸ばしてみる。
めっちゃ伸びた。
『孫悟空の如意棒みたいだな。あれは全く質量保存の法則を無視した武器だったから、全くの想像の産物と言われていたが、こっちはあり得るのか。』
2メートルぐらいに伸ばして動かしてみる。
「ジロー、触ってみてくれ。」
「えー、やですよ。なんか悪い予感がします。」
「ムー、仕方ないな。」
リュージはアイテムボックスの閉じた状態の2メートルぐらいの線を身近に寄せる。
触ってみる。
刃物ではないが、1センチぐらいの厚みがあり、叩かれれば相当痛いだろう。
しかも、触った感じ、かなり丈夫そうだ。
「これ、叩かれたら、相当ダメージありそうだぞ。ジロー、ちょっと叩かれてみないか?」
「無理っす。リュージさんの攻撃は例えチョップでも、悶絶モノです。 そんな得体のしれないもので、叩かれたら、多分死んでしまいます。」
「うむむ。まぁ、仕方ない。ダンジョンで、試してみるか。」
リュージはとりあえず、アイテムボックスの黒い線のダメージがどれくらいあるのかは保留した。
シャッゼム。
あとは、エロイムの街を適当にまわって、情報収集つつ、冒険者ギルドで、クエスト受けるか。
エロイムの街の情報
ダンジョンの情報
エロイムの街の周りの情報
エロイム以外の街の情報
この世界全体の情報
「ジロー、この優先順位で、情報収集していこうと思うが、どうだ?」
「いいと思います。『ダンジョン情報はサイムのダンジョンは初級』と武器屋が言っていたので、冒険者ギルドに聞けば、あると思います。」
「だいたい、冒険者ギルドは初心者にはなるべく死んでもらいたくないから、その辺の情報は開示されていると思います。」
「ただ、よくあるパターンとしては、あまり目立つことをすると、ギルドマスターとかが出てきて、それをやっつけたりしたら、ギルドランクを2から3、特別に上げてやろうとか言われて、面倒くさいことになるのです。」
「いや、それはそれで、俺としちゃ大好物だけどな。この異世界なら、多少無茶しても、強者の理論で、警察に引っ張られたり、留置所に入れられることもなさそうだし。」
「リュージさん、それはあまいですぜ。異世界ラノベでも、地域自衛隊や警備隊が出てきやすぜ。王政なら近衛隊や騎士団てのが出てきやす。レベル上げて無双できるぐらいになるまでは、安心できやせん。」
「うむ。ジローの言う通りだな。しばらくは自重しよう。」
「どちらにしても、まずは情報収集だな。ジロー、出かけるぞ。やっぱり冒険者ギルド、最優先だ。」
2人は宿を後にした。