027 初級ダンジョン攻略 7
結局、その日はほぼ丸1日、ジローと鬼人族4人の回復日にすることにした。
ジローは3時間以上、寝ていた。
鬼人族の4人は疲労困憊していたので、食事をした後風呂に入って落ち着いたのかベッドに横になると、あっと言う間に寝入っていた様だった。
不眠不休で戦っていたらしいから、仕方ないことだろう。
寧ろ、ここ25階層まで、ギルド情報がないままに戦ってここまでこれたのは、大したもんだと言えるだろう。
リュージは仕方ないので、空間魔法の実験を行う。
まず、エアーサーチだ。
昨日、リュージはエアーブリッジを作った際に、そのブリッジの先端部分に何か当たった感覚があった。
当たったのはモンスターだったが、手の平で触った感覚と同じ様な感覚だった。
それ程、鮮明な感覚だったのだが、当たったのが一部だったために、「大きい」といった中途半端な情報を得たに過ぎなかった。
エアーブリッジは無色透明ではない。
無色透明にもできるが、それだと、どこかのアトラクションのようになってしまうため、黒い色を意識している。
そもそもエアーブリッジはアイテムボックスの応用なので、何も入れてない状況で広ければ黒なのだが、これはあくまでリュージの意識が、入っていないなら黒だろうと思っていたためで、そうでなければ無色透明化も可能なのである。
そんなわけで、エアーブリッジと要領は同じで、無色透明。
エアーブリッジより広く扇型、薄く広く、人を載せなくていいので、薄い紙のように。
リュージはエアーサーチのイメージを重ねていく。
『エアーサーチ!』
リュージはイメージしたエアーサーチを発動する。
すると、リュージを中心として、ものすごい勢いで、エアーサーチの薄い膜が広がっていく。
ぐんぐん広がっていく。
途中、モンスターがいた。
モンスターは無視して更に広がる。
やがて、リュージの意識にダンジョンの壁に当たっているという情報がもたらされる。
『大型魔獣は24匹か。意外に多かったな。』
リュージはどうやらここ25階層全体のエアーサーチができたようだ。
『だいたい25階層は60キロメートル四方といったところか。』
元の世界で平地で人が歩く場合、普通の人で1時間4キロメートルぐらいだとされる。
1キロメートル15分計算だ。
60キロメートルを端から端まで普通の人が歩けば、15時間かかる計算になる。
ダンジョンの端から端までを歩くことはまずない。
上の階層から下の階層への出入り口への移動がほとんどであるためだ。
ただし、上の階層から下の階層までの出入り口が遠く設置されている場合もある。
また、真っ直ぐではないため、途中障害物もあり、大きく迂回をすることがほとんどである。
このことは、今まで、湿地での沼や池、森での山や谷で経験済みである。
リュージは[エアーサーチ]でここ25階層のフラットな全体像か掴めた。
今度は違ったイメージで、[エアーサーチ]を広げようと考える。
今までは薄い紙のイメージを広げていた。
これはエアーブリッジのイメージの延長線にあったため、そうしただけだった。
サーチの機能はエアーブリッジの際はその先端にあった。
これだけをこの25階層全体に対して広げようと思っている。
リュージはイメージをする。
まずは水面に石を落とした際のように、水面に波が辺り全体に広がるイメージから始める。
まだ、フラットだが、サーチの機能だけ、飛ばせるイメージができた。
今度は、音楽室でシンバルを叩くイメージ。
自分を中心に音が広がっていくイメージ。
少しずつ、適正な感覚が出来上がっていく。
建物と建物の間で、手を叩くイメージ。
手を叩くとその瞬間、反射された音が返ってくる。
手を叩く、音がすぐさま返ってくる。
『うむ、このイメージだな。やってみるか。』
『エアーサーチ』
リュージはエアーサーチをさっきイメージした通りに広げる。
25階層全体にエアーサーチがドーム状に広がる。
サーチ範囲を25階層全体にしたので、ダンジョンの壁に当たった情報ももたらされる。
リュージはその情報を元に脳内マップを作り上げる。
『大型魔獣は全体で68匹か。山や谷にもまだまだ、いたな。まあ、全て退治したわけでもなかったし、洞窟や谷に隠れていたりしていたら、わからないしな。寝ていた間にリポップしていたら、それは仕方がない。』
リュージは[エアーサーチ]のもたらした情報に満足した。
しばらくすると、リュージはまた違った空間魔法の検証をしようとする。
[エアースキャホルド]である。
言うならば、空中に浮いている足場である。
しばらく使ったが、足場としてその上を走るなら、消したり出したりする[エアースキャホルド]は[エアーブリッジ]に劣るのである。
しかし、リュージにはある考えがあった。
それはなにかと言うと、[エアースキャホルド]も元々はアイテムボックスである。
アイテムボックスの入り口を大きく開けた状態で、中に何も入れない設定にしたもの。
それが[エアースキャホルド]と言う名前で定着しただけだ。
アイテムボックスなので、移動できるのである。
しかも、かなりの速さで。
リュージは[エアースキャホルド]をまず、作る。
無色透明だとわかりにくいので、いつものように、半透明で、若干視認しにくい黒色設定だ。
その上に乗る。
そしてゆっくりと動かす。
動いた。
『ヤッベェー、超楽しいー。』
リュージは空中をゆっくり行き来する。
上下左右、斜め、上昇下降、まさに自由自在である。
リュージは[エアースキャホルド]に立っていたが、速度を上げると体がブレるため、胡座をかいて座る。
エアースキャホルドの速度を上げる。
『おぉー、ヤッベェ、マジ最高ーーー!』
リュージは空中を飛ぶ。
黒色の半透明のプレートに乗って飛び回る。
『絵面が良くないな。うむ。黒色ではなくて、白でいくか。自然に見えるようにいっそ、水蒸気の塊のようにするか。雲のイメージ難しいな。綿菓子は簡単なんだが…。筋斗雲は漫画みたいな感じだしなぁ。 』
結局、リュージは下は雲のイメージ、足場は綿菓子のようなイメージで作ってみた。
『フラット過ぎるな。速度を上げると落ちそうだ。うむ。ドーナツ状にして、下を塞ぐイメージ? いや、違うな。 あれだ! 空気を入れて夏場に小さい子供が入って遊ぶ、子供用プール、そんな型の雲状のスキャホルド、これでいってみよう。』
リュージは空中を飛びながら、スキャホルドをつくり変える。
だいぶ、安定してきたので、速度を上げる。
時速60キロメートルぐらい?
速度メーターはないため、感覚でしかない。
リュージはバイクに乗っていたため、速度の感覚には鋭い。
理論的には時速60キロメートルなら1時間あれば、ここ25階層の端から端までいけるな。
ジローは速度を上げる。
目から涙が出てきた。
『目がイッテェー、速度出し過ぎだな。この形状が良くないか。なら、前面に風防を作るか。』
といって、リュージは[エアースキャホルド]の前面に風防を作った。
『個人的には風を切っている方が、好きなんだがなぁ。今度道具屋でメガネを探してみるか。』
リュージは[エアースキャホルド]をいろいろな形状にして、検証してみる。
一旦、地上に、降りて[エアースキャホルド]を消す。
そして、リュージが最も試してみたかった形状を試してみることにした。
バイク形態である。
リュージのバイク好きはヤバイぐらいである。
パーツの1つ1つを絵で描くことができるぐらいである。
リュージはエアースキャホルドを細かくイメージする。
バイクの細部まで。
いろいろなバイクを乗ったが、最後にリュージが最も好きになった大型バイクをイメージする。
自分自身で修理もして、パーツも一つ一つ組み上げたバイクだ。
ネジの1本1本も思い出せる。
フレームから始まり、エンジン部分、足回り、電気系統、タイヤ、座席シート、タンク、排気系、マフラー、順々にイメージする。
イメージがある程度固まったところで固定。
「エアーバイクー!」
リュージはあまりの集中のあまり、思わず叫ぶ。
ちょっとだけ恥ずかしかった。
[エアースキャホルド]をあえて[エアーバイク]と言ってしまったが、そう言ってしまうほど、これまでの[エアースキャホルド]とは全く別物だった。
色は形を重要視したため、真っ黒。
形は全くバイク。
元の世界でリュージが乗っていたバイクそのものである。
リュージだからこそ、再現できたと言って良いだろう。
リュージは感動のあまり、涙が出てきた。
リュージの愛車は再現された。
リュージは愛車に跨り、走らせる。
走らせる。
飛び回る。
空中を疾走する。
やがて、ダンジョンの壁に到着する。
壁を右手に見つつ、ダンジョンの外周を回る。
やがて、リュージは気づく。
『エンジン音ない。地面からの振動もない。ガスの匂いもしない。チリチリとエンジンが焼けた熱さもない。まぁ、風を切るこの感じは気に入った。悪くない。』
リュージは愛車を途中で止めて、じっと眺める。
リュージは相当な集中力を使って作ったので、このまま消すのは惜しいと思った。
『イベントリに入れれないかな?』
試しに入れてみる。
入った。
リュージのイベントリには[リュージのエアーバイク]と表示されている。
『おぉー、やった。イベントリ、すごいな。』
リュージは[リュージのバイク]をもう一度出してみる。
先程のバイクはまた、目の前にある。
細部を少し手直しする。
タイヤは動かない。
エンジンも動かない。
しかし、形はリュージの愛車そっくりとなった。
リュージはひとしきり眺めた後、イベントリにしまい込む。
『うん、エアースキャホルド良いわー、イベントリ最高。 空間魔法マジ最強ー』
リュージはタイトルコールを意図したわけではなかったが、心の中でそう思った。
そんな折、リュージのプロテクションに反応があった。
どうやら、セイフティハウスに何かあったようだ。
リュージは子供プール状の[エアースキャホルド]を一瞬で作り出し、慌ててセイフティハウスに向かう。
セイフティハウスでは、中から音がする。
リュージは何事かと思って、中に入る。
「どうしたんだ?」
リュージは小さい方のセイフティハウスに入ると、ジローに向かって聞く。
「あぁ、リュージさん、よかった。無事でしたか。リュージさんのことだから、大丈夫とは思っていましたが、この4人が騒ぎ出しましてね。困っていたんです。」
「あぁ、ジロー、心配かけてすまない。 鬼人族の4人も外に出れなくて不自由かけた。一応、安全性を考えて、プロテクションをかけておいたんだ。ジローに言えば、隙間から出れるんだが、それを言ってなかったな。」
「いいえ、騒いでしまい、こちらも申し訳ありません。リュージ様には大変お世話になりました。おかげ様で、4人ともすっかり元気になりました。快適過ぎて、リラックスし過ぎて、これまでの旅の垢が取れた気がします。」
「リュージさん、この人達は何者ですか?あの後、自分は魔力枯渇して、ベッドに横になった後、覚えていないのですが…。」
「ジロー、まぁ、それは後でな。」
「鬼人族の女4人だ。追っ手に追われて困ってダンジョンに入ってきたらしい。俺たちの方針は鬼人族4人は保護する。追っ手は人間らしいから、ダンジョン内で襲ってきたら排除する。そんな感じだ。」
更にリュージは聞いた。
「俺たちの方針は伝えた。4人はどうする?俺たちはある程度、実力はあるつもりだから、基本的には30階層のボスを倒して地上に戻ろうかと思っている。ただ、それには時間がかかるから、いったん、20階層に戻り、地上に戻る選択肢もある。こっちはルートがわかっている分、安全に地上に帰還できるぞ。因みにさっき、見てきたが、ここ25階層には追っ手はいないようだ。」
「いえ、リュージ様について参ります。これは起きてから、4人で話し合った総意です。満場一致でした。できれば、ダンジョン出た後もご一緒させていただきたく思います。私達4人は剣の腕もたちますし、旅慣れていますので、きっとリュージ様のお役に立てます。家事や炊事、夜のお供でも!」
リーダー格の少女が言った言葉の最後の方は、少し興奮気味だったので、聞き流した。
「まぁ、では、30階層、ダンジョン最深部を目指すということで、良さそうだな。ダンジョン出てからどうするかは、出てから決めたらいい。出会って間もないのに、そうそう信用仕切る必要はない。」
リュージはそう言うと、今後のことを6人全員で、食事をしながら、話し合った。ダンジョン情報も共有した。
26階層から30階層までは砂漠が広がっているらしい。
広さはこの25階層の3倍以上あるとのこと。
下手に迷うと非常に危ない。
冒険者ギルドの初級ダンジョン情報には、大雑把な出入り口の位置情報もあったため、方向さえ間違わなければ、次階へ進めるはずである。
出てくるモンスター情報も共有した。
リュージは情報共有とコミュニケーションをとる意味での情報交換を約半日かけて行った。
結果、リュージ達と鬼人族4人は非常に仲が良くなった。
パーティーを組む場合、こう言った話し合いは、必要不可欠である。
いざ戦闘になった時、どう相手が動くのか、ピンチに陥った時はどうするのか?
装備は?スキルは?
そう言った確認作業をすることにより、最高のパフォーマンスを発揮できるのである。
まぁ実際は、机上でのことなので、明日以降の実戦で、確認は必要だろう。
2人と4人は明日、朝一から出かけることを確認して、それぞれのセイフティハウスに戻り、就寝した。




