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26話 欲望という糸は絡む。


 何気無く、見上げた頭上。其処に有る筈の天井は想像しているよりも高く、遠くに感じる。

 【空間把握】によると約5mという事。しかし、実際には数字以上に感じてしまう。

 天井から視線を下げ、左右へと向ける。其処には約20m×15mの広さの空間が有る。

 天井を含めれば、子供の自分には広大と思える。まあ、大人でも広いと感じるでしょうけど。

 ──とは言うものの、ただ広い空間ではなくて。扉や窓も有る立派な部屋(・・)です。


 部屋の中には作者が誰かは判りませんが、立派な額縁に収められた縦1m・横10mは有る風景画が壁に美術館のメインフロアに展示されている様に。その存在を主張しています。抽象的な作品ではないだけでも有難い気がします。

 そんな壁は勿論、床や天井、扉や窓までが緻密な細工が施されて装飾されています。

 ですが、豪華では有っても決して成金的な印象は受けない上品さと其処に宿る歴史を想起させる深みを持っています。

 まあ、一言で言えば「センスが良い」に為るので結局は印象と価値観は人各々でしょうね。


 そんな部屋に置かれた高級品で、オーダーメイド間違い無しの大きなソファーに座っています。

 この世界でも家具等のオーダーメイドが有る事はフェリシアさんから聞いてはいましたけど。実際に現物を見るのは初めてです。──あ、でも、彼処で使用していたベッド等も多分、全てオーダーメイドでしょうから。そういう意味では初めてではないのかもしれませんけどね。


 つまり、現在、自分が居る部屋は最高級ホテルの一番宿泊費の高い部屋か、或いは超大富豪の豪邸を思わせる豪華絢爛な造りで最高級の家具や調度品の数々に囲まれている、という訳です。

 前世も含め、本来であれば自分には縁遠い場所。正直、頬っぺたを抓って現実か否かを確かめたい。そんな衝動に駆られる状況だったりします。



「──それにしても~、シー君ってば本当に色々と引っ張る(・・・・)よね~」


「ぅぅっ……済みません……」


「引っ張っているのか、引っ張られているのか

それは定かじゃないでしょうけどね」


「こら、二人共、そういう事言わないの」


「……シギル、悪くない」



 然り気無いユーネさんとリゼッタさんの一言()にて傷付いた心をアエラさんとメルザさんに抱き付いて速効で治癒します。傷は浅い内に、です。


 まあ、それは兎も角として。

 アイナさんを狙っていた男達を倒し、後は彼女を家に送り届け、冒険者ギルドに報告をして終わり。──となる筈がアイナさんの一言で事態は急展開。アイナさんの家まで送って来て──滞在中です。


 尚、件の男達は全員ギルドに連行され、投獄中。後々情報は貰えるでしょうが……期待薄です。

 所詮、御金で雇われただけの連中。黒幕にしたら捨て駒でしょうからね。大した情報は無い筈なので今は「出て来たらラッキー」と思う程度です。


 ──と、軽い現実逃避として回想していた所で、扉がノックされ、アエラさんの返事を待ってから、ゆっくりと開かれた扉。

 それに合わせて此方等も立ち上がります。ずっと座って待っているというのは無礼な行為ですから。勿論、立てない理由や体調等は論外ですけど。


 扉を開けて入室して来た侍女二人が頭を下げて、そのままで姿勢を固めた所に一人の着飾った女性が更に侍女二人を従えて入室。まあ、言うまでも無くアイナさんなんですが。



「皆様、御待たせ致しました

改めまして、私はアーティルーイナ・リヴァード、当リヴァード家の現当主です

危ない所を助けて頂き、有難う御座いました」



 そう言って頭を下げるアイナさんと侍女さん達。此方等はアエラさんが代表して返事をして、着席。侍女さん達は御茶や御菓子を置いたら退室します。ええ、明らかに大事な話(・・・・)の展開ですね。

 尚、アイナさんがリヴァード家の関係者である事自体はリヴァード家の屋敷に来た時点で確定です。その為、多少は心構えが出来ていましたよ。

 ただ、流石に現当主だとは思いませんでしたので其処は普通に驚いています。出さないだけで。



「それで、アーティルーイナ様、御話しとは?」


「皆様、どうぞ私の事はアイナと御呼び下さい

それから話し方も普段通りで御願いします」


「いえ、それは流石に……」


「御友達ですもの、ね?、シギル君」


「え~と……そうですね、アイナさん」



 小さく小首を傾げながら笑顔で言うアイナさん。上品ながらも頑固さを感じ取り、押し負けました。そんな俺の白旗にアエラさん達は溜め息を吐いた。察しが良くて助かります。そして御免なさい。

 だから、リゼッタさんが出されたティーカップを手に取る事で「ほら、切り替えるわよ」と促して、アエラさん達も気にしない様にします。

 本当に重ね重ね済みません、有難う御座います。


 此方等の様子を見極め、アイナさんは話を再会。明るい笑顔から真面目な面持ちへと変わる。

 それに合わせて此方等も自然と背筋を伸ばす。



「既に御察しの事だとは思いますが、あの男性達の狙いは私で間違い有りません

ですが、命を狙われていた訳では有りません」


「……と言うと、身代金の類いが狙いですか?」



 少し考えて訊くアエラさんの言葉にアイナさんは静かに首を横に振った。

 それは勿体振った訳ではなく、単純に平然と否定出来無かったから、間を置く為。

 その証拠にアイナさんの表情は曇っています。



「いいえ……寧ろ、その方が良い位です」


「………………“御家騒動”ですか?」


「────っ!?」



 つい、思った事を口にしてしまってから、後悔。思わず「遣らかしたーっ!」と頭を抱えたくなる。もう遅いんですけどね。


 自分の発言に驚くアイナさん。リゼッタさんから向けられた視線は「貴男は~……」と睨まれている無言のプレッシャーが有りますから見られません。まあ、アイナさんに見られていますからしません。これ以上、ややこしくしたくは有りませんので。


 ただ、口にした以上は自分の考えだけは訊かれる前に話しておく事にします。



「リーヴァインには初めて来ましたから、街の事やリヴァード家の事は詳しくは有りません

ですが、街の人々やアイナさんと話した感じからは現時点でリーヴァイン自体が何かしら大きな問題を抱えている、といった印象は窺えませんでした

そして、殺害や身代金目当ての誘拐ではないなら、一番高い可能性は御家騒動、と思いました

もし、リーヴァインに問題が有るのなら街の人々もアイナさんも放置してはいません

それだけ、この街が大好きで、誇りに思っている

そう感じられましたからね」


「~~~っ……その……ぁ、有難う御座います」



 ──と、アイナさんが顔を赤くして俯いた瞬間に両脇に座るアエラさんとリゼッタさんから肘打ち。小突く程度ですけど。

 其処に込められた軽い叱責と嫉妬を感じない程、鈍くは有りませんので。一言余計だったと気付き、アイナさんの反応にも納得しました。

 うん、受け取り様に因っては「貴女の事ですから判りますよ」とも思えますからね。


 アイナさんが胸に左手を当てて深呼吸しますが、自分もアエラさん達も何も言いません。これ以上に話を脱線させたり、複雑にしない為に。

 アイナさんが落ち着いた所で話は本来の流れに。いやもう、重ね重ね済みませんでした。



「御恥ずかしい御話ですが、シギル君の言う通り、この件は我がリヴァード家の御家騒動です」


「ですが、それで貴女を狙うのは安易なのでは?

仮に現当主の貴女を廃したとしても、その裏事情を民が知れば大きな反発を招く気がしますが……」


「……狙いは当主の座ではなく、貴女の伴侶の座、という事では有りませんか?」


「あ~、成る程ね~、リゼッタちゃん冴えてる~」



 ぽむっ、という効果音が聞こえそうな感じで手を叩いてリゼッタさんの言葉に納得するユーネさん。それには同意しますが……空気を読みましょうよ。リゼッタさんから「貴女()少し黙っていなさい!」というプレッシャーを感じませんか?。

 ユーネさんもリゼッタさんの隣に座ってるのに。何故平気なんですか?。凍えそうですよ。

 まあ、アイナさんに気付かれてはいませんから、リゼッタさんも何も言いませんけどね。


 そのアイナさんはリゼッタさんの言葉に瞑目し、大きな溜め息を吐いています。

 個人的な印象ですけど。そんな事で悩まされる。その事実が嫌なんでしょうね。そういう立場に身を置いた事が有りませんから判りませんが。面倒臭い事であるは判りますし、溜め息を吐きたくなるのも判らない訳では有りません。



「……本当に御恥ずかしい事ですが、その通りです

このリーヴァインを治めるリヴァード家には此処、中央の本家と東西両端に分家が存在します

東分家“エスタード”、西分家“ウェステッド”の独立した姓を持っています

その為、リヴァード家の分家という認識は初めての方々には直ぐには判らない事だと思います」


「成る程……確かに、そうですね」


「その両分家が私を拐い、婚約させようとしているというのが、事の大まかな意図です

ただ、あの男性達が何方等の手の者なのか、或いは両家の手の者が混雑していた可能性も有ります

正直な話、その辺りは把握出来てはいません」


「……それで、御一人で誘って(・・・)みたと?」



 リゼッタさんの言葉に、アイナさんは困った様に苦笑を浮かべるだけで否定はしなかった。

 多分、リゼッタさんだけではないでしょう。その様子に「とんだ御転婆だわ」と思ったのは。

 それと、自分だけは何故彼女にフェリシアさんの姿が重なったのか、納得しました。ええ、その辺が似ているからですね。──と言うか、この世界では良家の娘さんに行動力は標準装備なんでしょうか。二人しか知りませんが、そう思ってしまいます。


 それは兎も角として、ちょっとした疑問が。

 此処は訊かないよりは訊いて置いた方が良いので躊躇わずに質問します。



「あの、詳しくは知りませんが……

どうしてアイナさんを殺害しないんですか?

単純に本家の実権を握るなら、アイナさんが未婚の内に亡き者にした方が楽な気がするんですけど」


「ああ、そう言えば貴男は知らないのよね」


「それは“貴族法”に伴って出来無いのよ」



 アエラさんに続き、リゼッタさんが簡単に説明。勿論、その貴族法に関しては名前しか知りません。だって、貴族じゃ有りませんし、面倒臭いので。

 そんな俺の心の声を知らず、アイナ先生が丁寧に説明して下さいます。



「貴族法により、当主になった際に万が一の場合に備えた後継者を指名する決まりが有ります

私の場合、父が亡くなり私の兄が当主になった際に指名されていましたので……

三ヶ月前、兄夫婦が亡くなった事で当主に……

此処までは判りますか?」


「はい、大丈夫です」


「後継者の指名制度は混乱を避ける為の物です

ただ、指名対象は新当主の子供か同腹の兄弟姉妹に限定されています

ですから、私が亡くなった場合にはリヴァード家の爵位と統治権は一旦王国の預かりとなり、その後、新たな領主が選定される事に為ります

これは貴男が懸念した様な家督争いによる一族間の殺し合い等を避ける為の制度という訳です」


「それでは、アイナさんが亡くなった場合、残った二つの分家というのは……」


「新しい領主はリヴァード家やリーヴァインに全く無関係な候補者達から王家によって選出される、と貴族法により定められています

その為、新体制には邪魔なので今の立場を失います

絶対では有りませんが……余計な火種を抱える様な真似は普通はしないでしょうから

ですから、私を殺害する事は出来無い訳です」


「そうなんですね」



 家督の継承問題というのは王公貴族制度を用いる以上は必ず発生する面倒な案件でしょうからね。

 それに上手く対処している遣り方だと言えます。勿論、それだけでは第三者が利を求めて暗殺をする可能性が有りますから他にも色々有るのでしょう。今は関係無いというだけでね。



「御兄さんは御結婚されていたんですよね?

御子さんは居らっしゃらなかったんですか?」


「……いいえ、もう直ぐ1歳になる一人娘が居ます

ただ、5歳に為っていない子供には家督の継承権が発生しないものと定められていますので……」


「それでは、その娘は──アイナさんの姪に当たる彼女は貴族籍から外れる、という訳ですか……」


「あ、いえ、それは少し違います

本来、継承権の優先順位は直系直子が上に為ります

ですから、あの娘が10歳で洗礼を受けた後なら、本人に継承する意志が有れば、私が家督を譲る──返還する為の手続きをすれば、問題無く家督を移譲出来る様に為っています

現代では滅多に有りませんが、曾ては戦時中という状況も有り、急死する事も珍しく有りません

その為、残された子供が不遇な目に遇わない様にと定められた規定が他にも有りますから」


「無用な怨恨で御家騒動を起こさせない為ですね」


「そうなりますね」



 当たり前の様に意図を理解しアイナさんに返す。その直後に見えない様にリゼッタさんに突っ突かれ気が緩んでしまっている事に気付く。

 普段、アエラさん達が相手なら構いませんけど、自分の詳しい事情を知らないアイナさんに対しては本当は気を付けるべき所なんですよね。

 ただ、こうして既に厄介事に関わっている以上、下手に隠す方が後々ややこしく為ります。だから、リゼッタさんも反対はしません。「油断しない」と注意してくれているだけですから。



「アイナさんとしては、どう考えているんです?」


「私としては彼女が洗礼を終えれば当主の座を譲り必要なら家族として支えたいと思っています

……ただ、それまで私自身が折れずに済むのかが、目下の一番の課題です」


「失礼ですが、アイナ様御自身に婚約者は?」


「いいえ、居ません

普通であれば、16歳の貴族の娘が婚約者も居ないというのは滅多に無い事なのですが、父が亡くなり家を継いだ兄が「御前は好きな男と一緒になれ」と縁談は断ってくれていましたので……」


「良い御兄さんだね~」


「はい、優しくて聡明で、ちょっと子供っぽい所も有りましたが……頼もしい自慢の兄でした」



 アイナさんがブラコンという訳では有りませんが亡くなった御兄さんの印象は良いですね。

 ただ、思わず「御兄さんは御家の為に?」と少々無粋な質問をしてしまいそうに為りました。

 フェリシアさんから政略結婚が普通に有る事や、王公貴族の跡継ぎという身分の人達は、そういった価値観が出来ている事は聞いていますけど。

 それはそれ、これはこれ、ですしね。

 立場上の責任・義務と、恋愛は別物ですから。

 アイナさんの御兄さんに奥さん以外に想う女性(ひと)が居たとしても不思議では有りません。

 勿論、結婚した奥さんの事は愛していてもです。フェリシアさんは、そうでしたからね。


 それは兎も角として。気になる事が。訊かないで話が進むよりは先に知って置きたいので。



「……あの、素朴な疑問なんですけど……

もし仮にですがアイナさんが分家の何方等かの方と結婚をされたとして、どう遣って実権を握るつもりなんでしょうか?

少なくとも、アイナさんが当主である以上、結局は旦那さんになる方は伴侶ですよね?

それとも、当主が亡くなると伴侶の方に当主の座が回る様に為っているんですか?」


「当主の伴侶に継承権は発生しません

ですが、私に子供が出来れば次の当主の優先順位は兄の娘から私の子供に切り替わります

私の産む子供が男の子なら兄の娘を妻に迎える形で我が家の一員に出来ますが、そうはしない場合には他家へ嫁がせるしか方法が有りません

その場合、私の結婚相手の実家が最有力になるのは言うまでも有りません

直子ではない以上、貴族の縁結びとしては兄の娘の立場は弱く為りますので……」


「嫁ぎ先が大きく減る訳ですか……」


「ええ……家を、血を、尊ぶのが貴族ですから」



 世知辛いのだけれど、それが現実なんでしょう。

 現当主の直子で、次期当主の兄弟姉妹であれば、二代に渡り両家の繋がりが深くなります。だから、婚姻関係を結ぶ事に利が生じます。

 しかし、現当主の亡くなった兄の娘、というのは見方によれば“余り者”な訳ですから。婚姻の相手としては利が生じ難いと言えます。


 勿論、アイナさんが邪険にしているといった様な訳ではなく。飽く迄も、普通に考えたら、です。



「つまり、結婚すれば子供を周囲から望まれる為、何時までもは誤魔化せない訳ですね?」


「……はい、結婚を公表しない訳にはいきません

公表すれば街の皆さんからは跡継ぎを望まれます

父が、そして兄が亡くなった事で人々が少なからず不安を懐いている事は間違い有りませんから……」


「街の皆さんにとってリーヴァインを治める領主がリヴァード家から別の貴族に代わる事は今までとは街の在り方も変わる可能性を含みますからね……

長い歴史が有るからこそ、街の皆さんは今のまま、リヴァード家が治め続ける事を願うでしょうしね」


「暴政・悪政を働く方が領主に任命される事は無い筈ですが……人は変わりますからね

以前は清廉潔白だった方が、領主に為り勘違いして私腹を肥やす様に為る事も珍しく有りません

そう為れば当然、処断されますが……」


「リーヴァインの街は暫くは荒れるでしょうね

一度、そういった事態が起きると中々、次の領主を決めるのが難しく為りますからね」


「はい、上の方々も責任問題ですから……

どうしても慎重に、そして保身的に為り勝ちです」


「わ~……それを言っちゃうんだ~……」


「事実は事実ですから」



 話に加わったアエラさんに続き、アイナさんから歯に衣着せない率直な批判の言葉が出て息を飲んだ自分達とは違い、素直に感想を言ったユーネさん。貴女の心臓は剛毛で覆われていますよね?。


 ただ、それ以上に断言をしたアイナさんに吃驚。フェリシアさんもですが、意志が強いですよね。

 そして、実直だからこそ街の人々から愛されて、信頼されている訳です。

 「内緒ですけどね」的な苦笑ですらしない所が、男よりも男らしくて、男でも惚れそうです。まあ、普通にアイナさんに見詰められたら惚れますが。


 そんな気配を察したのか、リゼッタさんが小さく態とらしく咳払いして、話を本題へと戻す。



「それで、私達に依頼(・・)したい事とは?」


「簡単に言えば私の護衛を御願いしたいのです」


「護衛、ですか?……しかし、それなら私達の様な冒険者を雇わずともリヴァード家には優秀な騎士(・・)が仕えている筈ですが?」



 そうリゼッタさんが口にする。

 此処での“騎士”は職業(ジョブ)騎士(ナイト)の事ではなくて、王公貴族に仕える騎士の爵位に叙された人達の事。ややこしい話ですが、其処は為れでしょう。


 そんな騎士の人達ですが、当然ながら貴族であるリヴァード家には居る訳です。

 それなのに、態々冒険者を雇う。

 その事をリゼッタさんだけではなく、自分を含めアエラさん達も不思議に思うのは必然です。

 だって、話が複雑化する嫌な予感しかしないので出来れば関係無い理由が欲しいです。



「はい、確かに我が家にも仕える騎士団は居ます

ですが、その護衛の騎士が男性である以上、彼等も私の結婚相手の候補者に含まれる為、下手に頼る事も難しいのです

……いえ、正確には未婚の私が男性を傍に置く事が事実無根な憶測を招く事に繋がる訳です」


「……それを利用して逃げ道を塞ぐ訳ですね」


「ええ……ですから、現状では当てに出来ません」



 つまり、今のアイナさんは立場の割りに孤立無援状態に近い、と。

 けれど、何もしない訳にはいかないから、一人で街に出掛けて両家の動きを誘ってみた、と。

 アイナさんの置かれている状況が判れば、色々と見えて来ますし、納得も出来るんですけど。

 それでも、かなり危ない賭けですよ、それは。

 正直、普通なら遣りません。


 それはリゼッタさん達も同じみたいです。何しろ口元が僅かに引き吊ってますから。

 「これは厄介過ぎるわ……」と頭を抱えたくなる衝動を堪えているのが判ります。



「そんな時、シギル君に、皆様に御逢いしました

私にとっては天佑以外の何物でも有りません」


「…………そう言って頂けるのは光栄な事です

しかし、私達が護衛を引き受けたとしても、結局は根本的な問題は解決しません

それに長く留まる事を私達は望みません

誰かがリーヴァインの出身であれば、或いは家族が居るならば話は違って来ますが……

冒険者が貴族に深く関わる事は御互いに危険です

ですから……そうですね、依頼を引き受けたとして滞在期間は長くても二ヶ月が限界でしょう

その間に何か打てる手が御有りなのでしょうか?」


「現時点で一番確実な方法は私が他の領主の家から婿を迎え入れる事でしょう

ただ、妨害が無い訳では有りませんし、その縁談も私自身が出向いて纏めなくてはいけません」


「その為にも護衛は必要な訳ですね」


「はい、騎士団が活躍すれば彼等への配慮も必要に為ってきますから、動き辛いですから……」


「成る程ね~、足元を見られてる訳だ~痛っ!?」



 皆が思っている事を普通に口にするユーネさんにリゼッタさんも我慢出来ずに頭を叩いた。

 その態度をアイナさんが気にする人ではない事は自分も理解していますが……今ので傾きましたね。此処まで知ってから、見捨てる真似は出来ません。何だかんだで皆さん優しいですしね。

 ほら、アエラさんとリゼッタさんが顔を見合わせ苦笑を浮かべています。

 「仕方無いわよね?」と言う声が聞こえます。


 一つ息を吐いてからリゼッタさんがアイナさんに向き直って話を再開します。



「一応、御引き受けする事を前提で御訊きしますが他に代案の御考えは御有りなのでしょうか?」


「──っ、それは、その……え~と……」


「………………?」



 リゼッタさんの言葉にアイナさんは急に焦る様に落ち着きを無くして顔を赤くしています。

 その上で、チラチラと此方等を見ている訳で。

 小首を傾げていると左右からの視線を感じたのでアエラさん達を見ると苦笑とジト目を頂きました。幾ら貰っても嬉しくは有りません。



「あの……私としては、シギル君さえ良いのなら、御協力(・・・)をして頂ければ、と思っています」


「…………………………え?、それって……あの、

そういう事(・・・・・)ですか?」


「……まあ、そういう事に為るわね」


「…………それ、問題に為らないんですか?」


「一般的には問題ですが、貴族の家等では思う程に珍しい話ではないんですよ

貴族の跡取り息子や婿入りの可能性の有る男子なら洗礼を受けるより先に女性を知る事は多いので

勿論、相手の女性の情報は秘匿されますので個人の特定等は先ず出来ません

ただ、その結果子供が出来る場合も有ります

その子供に継承権は発生しませんし、貴族籍に入る事も有りませんが、御家から厚遇はされます」


「それは判りますが……アイナさんは女性ですよ?

色々と問題が増えませんか?」


「それは恐らく大丈夫でしょうね」


「え?、そうなんですか?」


「女性が当主の場合、自分の御腹から産みますから確実に直子と判ります

極端な話をすれば、男性が当主の場合、正妻の方が産んだ子供が本当に当主の男性との子供なのか

それを確かめる術は有りません

ですが、それを疑い出せば切りが有りませんから、貴族法が制定され、施行されている訳です

女性当主の場合、父親の素性は関係有りません

勿論、はっきりしている方が望ましい訳ですが……

それは絶対に必要な訳では有りませんので」


「…………初めて知りました」


「そういう訳ですので、その際には御願いします」


「え~と…………が、頑張ります」



 久し振りに上手く答えられず、押し切られます。いやまあ、否は有りませんけどね。

 フェリシアさんだけでなく、前例は有ります。

 ──というか、その価値観を聞き女性が積極的な事に対して漸く納得が出来ました。




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