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始動?

 選挙活動というのはどうも声が通る人間が有利なように思う。

 この場合の声の通るというのは、一種「名声」というのが正しそうだ。

 名前が知られている人が選挙戦に出れば、否が応にもその人の話題が上がる。

 小選挙区の選挙では、その人がその選挙区でどれだけ名前が売れたかが勝負の決め手になると言っていいだろう。

 だから、元から名前の知れている、つまり、名声のある人間がとても有利なのだ。

 名声のある人間の選挙活動には目が行き、そうでない者の選挙活動には関心が向かない。それは世の摂理で、人間の心理だ。

 何を言っているかではなく、誰が言っているかなのだ。

 そして、誰かが何かを言った時、聞いた人間がいるのなら、その人の数だけ言った人間には責任がのしかかる。その責任を果たしてこそ、選ばれし者としての役割と言えるだろう。

 まあ、俺が直面している選挙は、そんな大それたものではない。

 ただの学校の生徒会の選挙。

 生徒会長選挙だ。

 学生会長とか、総長とか、学寮とか、実は立場で呼び方が変わるみたいなのだが、あんまり友達のいない俺としては、誰がどんな呼び方をしているのかというのにはあまり知識がなく、結局中学生の時の名残のある生徒会長という呼び方を採用しているのだった。

 そして、そんな友達の少ない人間にはあまり関係のなさそうな生徒会長選挙の話をなぜ俺がするのかと言えば、関係がないこともないからだったりする。

「山野君。お願い、わたしと一緒に選挙に出てくれないかな!」

 そうお願いされたのは、家の玄関でだった。

 俺のではない。

 弓削さんの、だ。

 ユウちゃんの作ってくれた新作レシピのフルーツたっぷりのパイに感涙を流し、弓削さんにドン引きされた少し後。

 ミナちゃんが「お兄さんに会いたいって人が来てるけど」と、俺を呼びに来たのだった。

 応じて立ち上がり、弓削さんの方を見ると、

「来たかぁ……」

 唸るように言うと、バツが悪そうにこちらを見て、「ごめん」と「どんまい」と「あとは知らん」が混じった顔をしながら重そうに腰をあげた。

「断ったの。断ったんだけど……」

 苦々しい言い訳は言葉にならず。

 なんだろう、ちょっと怖いな?

 そんなふうに思いながらも玄関まで来ると、学校の制服を着た男女が立っていた。

「たしか、大豆島さん」

 顔を見て、学祭の時のことを思い出した。

「覚えててくれた」

 ふん、と笑うと、隣の赤みがかった髪の男子を示して。

「それとこっちが明星みょうじょうあかつき。それと絢音と里奈。このメンバーに、山野君にも加わってほしいんだ。どうかな?」

 紹介に押されて明星君は頭を下げた。

 ふむと、再度弓削さんをチラリ。

 弓削さんはどうやらこの二人とはうまくコミュニケーションが取れないらしく俯いていた。メンバー、メンバーね?

「えっと、なんの?」

 なんとなくわかってはいたが、あえてはっきりとさせておく必要を感じてそう問うた。

 そして、

「山野君、お願い。わたしと一緒に選挙に出てくれないかな!」

 この言葉に繋がった。



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