え、ここでもここでもパシリですか……?
「すごいね太一くん! ここ本当に街みたい!!」
「一応街ですよ。かなり閉塞的な学園都市ってだけですから」
はしゃぐ由利亜先輩にひかれながらついていく俺に、先輩は肩をすくめて眉をひそめる。
「学園都市って、駅から学校までの範囲が栄えてる的なやつでしょ? そんな規模じゃなくない?」
「まあかなりデカめですが、アメリカンサイズってやつですよ。多分」
「曖昧か」
とはいえ俺もよくわかっていないのだ。
というか、多分あえて誰も俺にはっきりとした説明をしていないのだと思う。
まあ当然だ。
天才の住む街。
アカデミックカントリーなんて、俺とは縁のかけらもない場所なのだから。
部外者に懇切丁寧に説明しても時間の無駄は必至。
兄あたりを連れてくれば話は別だろうが、俺なんかに時間をかけるほどここの人間も暇ではないのだろう。
「て言ってもついた直後はこの街の町長さんがお出迎えしてくれてたじゃん」
「日本からの観光客は珍しいって言ってたから、多分そういうことなんじゃないですかね?」
「観光客来ないでしょ、ここ」
俺の疑問符を先輩は何言ってんの?と切り捨てる。
「まあ、気まぐれかもしれませんし、川上のやることですから」
「君は自分は過小評価なのに他人は過大評価する癖があるよね」
「先輩は絶世の美人だと思ってますよ」
「その流れで言われると過大評価込みってことになっちゃうだろ」
そんなこんな話ながら歩いているのは、この街の中心地。
買い物施設が一挙に集中した場所。
の、スーパーマーケット。
現地についてその日のうちに夕飯の買い出しをする女子高生に連れられて、俺たちは荷物持ちとして招聘されているのだ。
そして、さっきから会話に参加していないロリっこは、自分よりでかいトイレットペーパーを見上げて呆然と立ち尽くしていた。
その光景を先輩はスマホに収めていた。
トイレットペーパーと訣別し、我を取り戻して食材を見繕いだし、メモを見ていた由利亜先輩が、ところで、と思い出したかのように顔を上げた。
かご車押しながら、俺はそれに首を傾げて「?」と応じる。
「太一くんはどうしてアメリカに来ようとおもったの?」
「どうしてって、二人に誘われたからですけど」
「それは表向きでしょ? ここにこうしてきて、したくないことやらされることわかってて、なんで断らなかったんだろうって。連れてきた私が聞くのはお門違いなのかもしれないけど、でももう来ちゃったし、簡単には帰れないからいいかなって」
無責任極まりないが、そこはもう、この二人に絡まれた自分を呪うしかないのだろう。
とは言え、俺がなぜ宮園唯華を起こすための研究に参加させられるかも知れないとわかっていてアメリカにきたのか、という疑問には、とてもシンプルな回答をだすことができる。
それはもう単純で、全くと言っていいほど簡単な。
「だって、別にあいつらの研究所にさえいかなければ、ただのアメリカ旅行ですし」
俺は心のうちを隠すこともなく、何食わぬ顔で言う。
「ゲスが」
「もう少し普通に褒めてください」
「貶してるんだけどね」
先輩の呆れ顔を横目に、
「で、由利亜先輩はなんで、俺をここに連れてきたんですか?」
それこそ、俺の気になっていた疑問。
なぜ先輩たちは、俺にこの研究を手伝わせたいのか。
その理由は聞いておきたかった。
しかし、俺の答えを聞いた瞬間から俺に興味を無くした由利亜先輩は、どうやら俺の質問を聞いていないどころか俺の存在を完全に忘れたらしく。
「うぉ、何これ……でぇっか」
などと独り言を漏らしていた。
「まあこれは太一君が悪い」
「聞かれたことに正直に答えただけなのに」
「言っていいことと言っちゃいけないことがあるってことだよ」
「言わなかったら言わなかったでうるさいくせにね」
「あのこは面倒だよぉ、絶対お勧めしない」
「アドバイス感謝」
俺と先輩のやりとりを横目でジーーーートーーーーっと睨む由利亜先輩。
「…………………………………」
何も言ってこないのが結局一番怖い。
垂れた横髪から透ける眼光が獰猛な猛禽類のそれに酷似していた。
「で、先輩はなんで俺をここに?」
「ここに連れてきたのは私じゃなくてわっしーじゃん。相当買い込む気だよ」
「ああ、はいはい。まあいいですけど」
結局、まともに答えてもらうのは無理っぽいので、俺は大人しく二人の先輩たちのパシリとして働くのだった。
アメリカでもやってること変わんねぇぇぇぇぇぇ………。




