騒々しい生活。
「先輩、あれだけ来ないって言ってて結局来てることに対して何か言い訳とかないんですか?」
「そうやってすぐいっちゃん先輩にいじめてもらおうとするゆゑちゃんの悪いところを直さない部分、私に対して言い訳ある?」
「お前らうるさい」
俺の一言で黙るような奴らでないことはわかっているけれど、言わずにはいられなかった。
「太一君が珍しく丁寧語じゃない」
「太一くん、私にもタメ口でいいんだよ?」
「先輩方、ちょっと静かにしててもらっていいですか?」
俺の一言で黙るような人たちではないことはわかっているけれど、言わずにはいられなかった……。
「中学では後輩に、高校では先輩に翻弄されてんほんと面白いわ」
爆笑する川上のことは無視して、俺はため息をつく。
見られたくない黒歴史と、触れられたくない現在がごちゃ混ぜになっている現状を憂う。
二度と会わないために地元を離れた結果、半年後にアメリカであっている。
混乱を通り越して冷静さがある。
「で、俺はここでなにすればいいんだよ」
まともに話してもろくな会話にならないことは分かりきっている。
ならば、さっさと要件を聞いてしまおう。
要件さえ聞いてしまえれば、帰ろうがどうしようがこちらの自由だ。
「なにもそんなに焦らなくてもいいだろ。とりあえず一週間はこっちの生活に慣れるために使ってくれ。来週の今日、この時間に今回の要件を話すよ」
「そんなに悠長でいいのかよ」
焦ってないことを匂わせるための婉曲的な聞き方。
が、ミスっていて、
「この間までくる気なかった人の言い分じゃないよね」
「半年ガン無視だったのもんね」
うるさい、とは言えない内容にむすっと押し黙る。
「太一くん、私お腹減ってきた」
そうして、この場を終わらせるための言葉を放ったのは、珍しくも由利亜先輩だった。
「え、あ、はい」
驚きを隠さずに生返事して、えっとと思案。
「なあ、この辺に飯屋なんかあるのか?」
俺の問いかけに川上は縦にうなづく。
「まあ移動は車だけどな。歩きやらチャリンコで移動できるような距離には家しかないから気をつけつけろ」
規模が違うなあと感心し、
「わかった。じゃあとりあえず二、三日は大人しくすることにするよ」
「はいはい」
川上は手を上げて見送りとして、部屋の奥に消えていった。
「先輩ご飯行くなら私もついてっていい?」
すると、横からするっと机の下に潜り込んで俺の顔を覗き込むように、碧波が猫撫で声で聞いてくる。
なんだこいつ、そう思った心のまま、
「お前はその辺に草でも食ってろ」
そう答えていた。
もはや脊髄反射の解答だったのだが、由利亜先輩が隣の席から怖い顔で俺を睨んでいた。
「太一くん」
謝ってしっかり返事をしろ。
口から発されていない声が耳に届く。
「いやでもあいつは……」
ああいう扱いを喜ぶやつなので、という言葉は由利亜先輩のジト目に耐えられなかった俺の口からは発せられなかった。
「悪い。でもついてくんな」
俺の言葉で一番驚いたのは、多分聞いていた埜菊だっただろうが、一番反応がデカかったのは碧波で。
「私、先輩に殴られた時でさえ謝られた記憶がないのに……。すごい……。先輩を、先輩を調教できる人がいたなんて……!!」
「調教はされてねえよ」
「でもここにきたのもこの人に頼まれたからなんですよね?」
「それはまあ、そうだけど」
「ここに来ることわかってて、あれだけ拒否ってたのにわざわざ」
「いや、だからまあ、そうだけど」
「やっぱ、めっちゃ躾けられて痛たたたたたたたた!!!!!!!!!!」
俺に頭を握られる碧波の顔は、めっちゃ笑ってるように見えて気持ち悪いから二、三秒で手を放す。
「太一くん、暴力はだめ」
由利亜先輩が俺を睨む。
うっ、と言い訳もできない俺に、「ああいや、あれはいいんです」と救いの手が差し伸べられた。
「ゆゑちゃんは変態なので、先輩にああやっていじめらるのが好きなんです。頭を握られるのとか、むしろスキンシップだと思ってるくらいです」
と思ったら救いとかじゃなくて普通にそれいっちゃうんだな内容だった。
「由利亜さんも先輩と、したいでしょ?」
「私は人の見てるところではしない」
「人の見てないところでもしないでください」




