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才ありし者の国。



「一つ一つの出来事の積み重ねが、その人を作っていく。それが経験で、人間にはその経験でしか得られないものがある」

 それが何かわかるかな?

 問われて考えて、

「わかりません」

 経験からしか得られないもの。

 俺にはとんとわからない。

「そうだろう。君のような人間に、経験など無価値だ」

 先までの自身の言葉を全否定して言う。

「見ればわかる。聞けばわかる。そんな人間に知らねばならないことなどない。聞けば、君は英語の勉強というものを学校の授業程度にしかしていないそうだね」

「まあ、そうですね」

「それがどうだ、私と話す今の君に言語の不理解など微塵も感じない。そちらの少女たちは聞き取ることはできていても、君のように私とコミュニケーションを取ると言うことが簡単にできると言うことはなさそうだ」

「それは多分、中学の時にネイティブの教師と話す習慣が会ったからですよ」

「ほう? その教師と話すまでは英語に難儀したと?」

「それはもちろん。なにしろ日本語もおぼつかない現代っ子ですから」

 ふっと鼻で笑い、俺の言い分は信用に値しないときって捨てる。

「君らほどではないけれど、私にも見ればわかるものがある。それはその人物がどれほどのものかと言うことだ」

「どれほどのものか?ですか?」

「そうだ。私にはわかるんだよ。君が世界を作る側の人間であることも、君が世界に選ばれた人間であることも、ね」

 意味がわからないと首を傾げても、言い淀むことなく話は続く。

「どれほどの人間が願っても叶わぬそれを、君はその屍に気づくこともなく成し遂げる。ああ知っている。君らはこぞってこう言うのだ。『誰にでもできたことだ』と」

 言い終えて、一息にコーヒーを煽る。

「とにかく、ようこそ我が街へ。ここは才能の活きる街。天才を殺さないために生まれた場所だ」

 黒い肌を覆う白衣を棚引かせて、彼は言う。

「さあ、やらかそう」



:*:*:*:



 空港を出てすぐ荒野に迷い込んだ俺たちだったが、川島に連絡すると十数分で迎えがきた。

 とんでもない爆音を轟かせてやってきた車に乗っている人を見て、俺は驚きを通り越して少し笑ってしまった。

「おや? お久しぶりですね。なんて、さあ乗った乗った」

 それはいつぞやのタクシーのおじさんだった。

 個人タクシーの社長さんなんだろう。

 きっとそうに違いない。

 俺はもうなにも気にすることなく、

「よろしくお願いします!!」

 全力の挨拶をぶちかました。

「太一君うるさいよ、こっちはちょっとだるいんだよ」

「時差ぼけですね、完全に」

「あれだけ寝といて時差ぼけもなにもあるの?」

 ワーワー言いつつ乗り込むと、車はまた爆音を轟かせて走り出した。

 あおい顔しながら揺られる先輩を眺めていると、なんだかこっちまで具合が悪くなるなあと思いながら数十分。「へいおまち」と停車した車から飛び出すと先輩はトイレに向かって走り出していた。

「トイレどこ!!!!!!」

「英語で聞かないとじゃないですか?」

「太一君!! 通訳!!!!」

 慌てて追いかける俺と、

「ここで待ってるね〜」

 車から降りないでくつろぐ由利亜先輩。

 到着早々めちゃくちゃだ……!!!



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