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誰もが犯し、誰もが重ねる。


 紛い物にしか見えない本物と、信じられない真実を知っている。

 ありえない、現実も。

 目に見えないものが真実で、目に見えるものが偽物なんてことも世の中にはあるのだということを、俺は知っている。

 だから今回も。

 由利亜先輩の呪いも、俺には解決するなんて不可能だ、ということも俺は知っていた。

 


*;*;*



「それで、どうだったかな」

 毎度恒例の、鷲崎邸。

 ではなく。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます。ていうか由利亜先輩も座ってください。あなたの話なんですから」

「えー、なんかそうやって改られると、なんかさあ」

「いやわかりますけど、わかるけど座って」

 嫌そうな顔を隠す気もないままに、由利亜先輩はお盆をおく事なく椅子に浅く座る。

 その様子を大人たちが冷めた目で見るという恐ろしい構図だった。

 俺に声をかけてきていたおじいさんの言葉を無視する形になってしまったが、俺が意図して無視したわけではないのでそこは許してほしい。

「太一、由利亜ちゃんの呪いは解けそうか?」

 そして、ここでも司会は山野一樹が務めるようだった。

 ここ。

 そう、2LDKのボロアパートこと、我が家。

 それでなくても二人暮らし程度の広さしかないのに、大人が五人も集まって、子供を取り囲めば狭い以外の言葉は出ない。

「それは、無理、かな」

 俺はあっけらかんと兄の質問に答えた。

 呪いは解けない。

 そもそも呪われていない。

 残念無念。

 そういうことで。

「ならばやはり、病気ということだな。そして君には何もできない。では、由利亜は我々と共にアメリカに行くということでいいな」

 おじいさんは相変わらずの強行姿勢で、俺を睨み、他の大人はそれに異を唱える気はないらしかった。

 というか、唱える異を持ち合わせていないのだろう。

 それはそうだ。

 ぶっちゃけ俺も、アメリカに行って治療という点についてはあまり否定的ではない。

 だが、もっと感覚的に、感情的に、俺は異を唱えずにはいられなかった。

「だからアメリカなんて行かないってば。何回言えばわかるのかな」

「わがまま言うな! 全部お前のためにやってるんだぞ!」

「おじいちゃんが私のために? これまで何かしてくれた? お父さんが大変な時おじいちゃん何してた? お父さんのお金で海外旅行してたよね? 私が一人で友達の家を転々としてた時、おじいちゃん何してた? カジノで遊んでお父さんのお金を頼ってたよね? それで突然現れたと思ったら私のため? 何それ?」

 感情的になる自分を押し込もうとして作ってしまった間を、由利亜先輩の淡々とした、それでいて毒のこもった言葉が部屋を満たす。

 俺はおじいさんからの激昂に身構えた。

『なんだその態度、お前の考えなど関係ない、これまでの俺がどうだったかなど今は問題ではない』

 そんな言葉が由利亜先輩へぶつけられると思っていた。

 しかし、おじいさんは大きく目を見張り、唇を振るわせるだけで何も言わなかった。

 その様子はなんというか、本当に努力してきた人間が、目前で成果を掻っ攫われた絶望のような、そんな姿を幻視してしまうものだった。

「はあ……。人の家で、孫と喧嘩とかしないでください。大人気ない」

「なに?」

 力なく呟かれたそれは、しかし言葉ほどの意味を持ってはいない。

「由利亜先輩も、自分の祖父に対してその態度はないんじゃないですか?」

 突然俺からそんなことを言われ、驚いたように、

「で、でも……!」

 と声を上げる。

 それを俺は由利亜先輩の頬をむにょっとすることで制し、

「由利亜先輩にかけられている呪いは解けない、と言いましたが、皆さんのかかっている呪いと、由利亜先輩がかけている呪いの解き方はわかりました。だからまあ、今回はそれで手打ちにしてもらいたいんです」

 お願いします。

 そんな感じで、今回の一件を俺は見つめる。

 人は呪われ、人を呪う。

 捻れた関係は、絡まって。

 あやとりのように簡単には解れてくれない。

 それを理解できているつもりで。

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