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変われる人間の、強さ。


 長い階段を降り、道にでる。

 車通りのそこそこの道で、さっきまでの異空間を完全に脱して由利亜先輩の肩の力が抜けていくのがなんとなくわかった。。

「ねえ、太一くん」

「なんですか、由利亜先輩」

 進む方向を見ながら、由利亜先輩に応える。

 こちらを見ながら器用に歩く由利亜先輩。人と歩くのに慣れている人のスキルは俺には皆無だった。

「私って、変なのかな?」

 明るく何事もないかのように、サラッとした問いかけ。

 まあこんな風に色々連れ回されれば普通に不安になって、そう思うのは必然だった。

 昨日の検査も特に異常はなく、今日も今日とて異常なしの診断結果をばっちりいただいてしまった。

 俺としては、「変」な方がありがたかったのだが。

「さっきの話、聞いてましたか? 全くもって何もなし。変なことなんて1ミリもないです」

 俺はただ事実を告げる。

 だが、由利亜先輩にはお気に召さなかったようで。

「それは、体に異常がないとかそういうことでしょ? もっとこう……わかるでしょ?」

「んー? 変なところかぁ、俺の通帳が鞄に入ってるところとか?」

 さっと鞄の蓋に手を置き、

「渡さないよ」

「いや、まあいいですけどね」

 困ってないし。母親に「由利亜ちゃんに送ってるんだから、あんたはお兄ちゃんからもらってるでしょ」とか言われてるし。

 めっちゃくちゃだなうち。

「ちょっと貰いすぎな気がするけどね……」

「三人の食費が月3万ですもんね、なかなかできないレベルの節約ですよ」

「ありがとうって言っといてね」

「今度電話がかかってきたら言っときます」

「自分からかけなよ」

 ツッコミはしれっと聞き流し、曲がり角を曲がる。

 大通りに出ると歩いている人が少し増えた。

「あ、もう一個、由利亜先輩の変なところありますよ」

「何?」

 俺は勿体ぶることもなく、

「高二には見えない容姿、です」

「むー……やっぱり変かな」

 由利亜先輩も特別凹むでもなく俺の言葉を受け入れて、腕を組む。

 組んだ腕に潰される胸もまた、ある意味変だった。

「はい。でも大丈夫です。それはただの個性ですから」

「個性?」

 首を傾げる由利亜先輩に、俺はうなづく。

 誰だって、多少どこかしら変なのだ。

 特別変に見えない人が、変じゃないわけじゃない。

 変に見えないってことがそもそも変な状況というのもあるのだ。

 その「変」は、人それぞれの個性なのだ。

 見てわかる個性に固執して、勝手に特殊性を植え付けて推し量る行為が、偏見や色眼鏡なんて言われたりする。

 その人の個性を異常なものであるかのように錯覚して、人は遠ざけるのだ。

 自分とは違うと。

 そうでないことを願ってのさまざまな検査だったわけだけれど。

「そうです。由利亜先輩は何も変じゃない。どこもおかしくない。いつも可愛い俺の先輩です」

 家族の誰からも理解されない、そんなのあんまりだろう。

 俺だけでも、なんて烏滸がましいことは言わない。この人には多くの味方がいる。

 だから、俺はただいるだけでいいのだ。必要なものを提供する人として、そこにいる。

 俺の覚悟のこもった言葉を受けて、由利亜先輩は、

「おだてたって太一くんが約束破って先輩ってつけてることを許したりはしないから」

 全力のじと目だった。

「呼び捨ては厳しいです!!!」

「もう、ヘタレ」

 ついっと目尻が上がり、口角も同時に上を向く。

 尖った唇も可愛いちっこい先輩は、いつものように笑って。

「今日の夕飯何食べたい?」

 俺はその優しさに、いつもいつも甘えてしまう。

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