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出会ったその子の名前と、あり得ない急展開と。

「先輩ってあの有名な山野太一先輩だったんですね〜」

「よくあんなに怒られて平然としている上に昼飯をそうも豪快にカッ食らえるな」

 昼食。

 通常、この給食の時間は教室で揃って食べるのだが、今日に限っては事情が違った。

 体育倉庫をブッ壊した犯人を連れてきたら、数学の教諭につかまり明日の宿題の制作を手伝わされるはめになってしまい、生徒指導にこっ酷く叱られていたこのアホと一緒に、生徒指導室で過ぎ去ったお昼ご飯を食べることになってしまったのだ。

「何をしててもお腹は減りますんですよ」

 言いながらもガツガツと食べる。

 いや、給食だから大した量はないし、なんだったら目の前のあほの子が食べるご飯の量は俺の半分くらいのものなのだが、なぜかすごく多く見えるしなぜかがっついて食べているように見えるのだ。

 絵面の問題かもしれない。

 あと人間性。

 とはいえ、食べ終えたさらにはクズの一つもなく、綺麗に食べきられていた。

「舐めたみたいに綺麗だな」

「ふっふっうっ…」

 がっついてるみたいな変な食べ方をしたせいで、胃に空気が溜まったのだろう。

 ゲップを我慢し吐き気を催す、やはりあほな子はあほだった。

「先輩……私は女の子なので、ゲップはしません」

「いや、ゲップに男女差とかないから。子供の頃は何か食べたり飲んだりするたびに親に背中叩かれてゲップさせられてるから」

「具体的かつ想像できる描写までありがとうございます。でも女の子はゲップしません」

「女の子にもゲップする権利くらいあげてくれ、お前の一言で全女子にゲップをしてはいけない状態を敷いてしまっているんだ」

「ゲップゲップうるさいですよ先パ痛い痛い痛い!!!」

 言い切る前にアイアンクローをお見舞いし、お見舞いして、お見舞いしまくった結果、

「ケプっ」

 そんな可愛らしいゲップがでた。

「もう! 変態!! 私の初ゲップが山野先輩とだなんて信じられません!! 自慢しちゃいますよ!!」

「喜んでんじゃねーか気持ち悪いな!!」

 ヒートアップする会話、そこに扉が開く音が響く。

「仲良さそうだな、お二人」

 生徒指導の教諭は俺たち二人を見回していう。

「心外です。私はこんな常識のなってない人と仲良くなったりしま───」

 アホは、バッ、と俺の方を警戒し、イスを少し引いて俺から遠ざかると、

「───なったりしませんよ!! こんな人と仲良くなんてあり得ませ痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」

 やられたがっているんじゃないかとさえ思って、わざわざ距離を詰めてかける力を倍にしてみた。すると「だいだいだいだいだいだいだいだい!!!!!!!!!」と痛いが言えなくなった。

 パッと放して解放すると、孫悟空が三蔵法師につけられた輪っかを取ろうとするかのようにアホが手を細かみに当てていた。

「ぐぅぅぅ……まさか有名人がこんな暴力野郎だったなんて……」

「いや、俺は別に有名人ではないけどな? 有名なのは俺の兄の方だ」

 うずくまったアホは、俺の話は聞かず自分の世界に沈んでいく。

「待ってゆゑ、聞いたことがある。男の子は好きな女の子に意地悪する生き物だって……。でもまだ私たちであったばかりなのに……。ううん、でも、気持ちには答えてあげないと」

「おい、あほ、じゃない、名前なんだっけ?」

 その暴走を止めようと話しかけると、暴走が加速した。

「はい! 碧波ゆゑ、1年1組1番です!! ぜひお付き合いさせてください!」

「いや、全然そんな話じゃなかっただろ」

 この一連の状況をただ眺めるだけに徹していた、この生徒指導の教諭。

 もはや草木と変わらない。

 頼むから救ってくれと顔を向けると、姿を消し、もはや見てすらいなかった。

「今日が1日目ですね! 山野先輩!」



 

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