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すっかり馴染みの答え合わせ。


 お金は、データにすると足がつくようになる。

 銀行に預ける。

 株式にする。

 クレジットでの買い物や、IC系マネーでの支払い。

 普通に生きるだけで、お金で足跡を辿ることができる世の中だ。

 俺はそれを良いことだと思っている。

 深い理由はない。

 足跡が残ることが良いということではなく、足がつかなく無くなることが。

 わかりやすく明確に、単純で簡単になることは良いことだと。

 足がつくということは、極論、不正がなくなるのだ。


 データにない現金というものは、割と簡単に手に入るようで俺の手元にはそんなわけのわからん金が集まってくる。

 今こうして手に持ってみて、ずっしりとした重みを感じる茶封筒に目を落としつつ、

「いや、なにこれ」

 当たり前にこんなセリフしか出てこないわけで。

「今回の報酬、らしい。俺にも100万送られてきた」

「こんなもん雑にポストに入れるか、ふつう?」

「万に一つも盗まれることはないだろ」

「盗まれたところで困りゃしないから別にそれは良いんだけども」

 そんなことよりも、だ。

 俺には確かに銀行口座がある。

 キャッシュカードも通帳も、由利亜先輩に預けていることから俺はここ最近、正確には約2、3ヶ月口座残高を見ていないけれど、確かにある。

 だが兄からの報酬も、今回の報酬も、明らかに振り込めない金額だった。

 ていうか、こんな金額一度に振り込んだら銀行の人になんて思われるかわかったもんじゃない。

 そんなこんなで、親に送り飛ばそうと思っていたそのお金も、先輩たちの部屋の箪笥の引き出し一つを頂いてぶちこんで放置している。

「で、これ、里奈さん宛のもの俺のところに来たんだけどさ、これって渡して良いもんなのかな?」

「まあ高校生の女の子が突然家にその額の封筒持ってきたら、親は心配するだろうな」

「だよなぁ……」

 どうしよ、これ。

 でもこれはある意味御牧さんのファインプレーなのかもしれない。いや、一応の配慮か?

 すっと自分のと里奈さんの封筒の中身を確認する。

 里奈さんの方には束が3つ、俺の方には7つだった。

「まあ、これは多分手切金の意味合いもあるからな」

「手切金?」

「あぁ、お前御牧がどういうことしてるのか知らないのか」

 どういうことをしてるかなんて知るわけがない。元は鷲崎正造だとかなのってあらわれたのだから。

「お前、正造さんの顔見たことあっただろ」

 その通りだった。

 だが、認めたら負けだと思った。

「人は変わるだろ」

「50超えてから変わり出したらヤバそうだけどな」

 確かに。

「とは言えまさかあの2人まで駆り出されてるとは思わなかったけどね」

 あの2人。

 鷲崎美紀と御牧正吾さんのことだろうか。

「珍しいの?」

「大抵あの2人は別働隊なんだよ、だから向こう側には詳しくない」

「それはなんとなくわかったけど、じゃあなんでわざわざ」

「お前が由利亜ちゃんを連れてくる可能性を考慮したんだろ、それと、お前と面識のある人間という枠で正吾さんが駆り出された」

「んー、まあ、そういうことでいいか」

 どうも釈然としないが、終わったことを掘り返しても切りがない。

「で、この金、どうするのが正解だと思う?」

「今まで通りでいいと思うよ? 箪笥に入れて、少しずつ使う。あんまり露骨に使うとマネーロンダリング疑われるから気をつけなよ」

「高校生はそんなこと気にしない……」

「金ってのは責任が伴うんだよ」

「無責任に足のつかない形で口封じの金を送りつけてきて、責任……?」

「そういうのは、礼儀がなってないっていうんだよ」

「変わらんと思うけどね」

 他人事のようにいう兄に事実を突きつける。

「まあいいや」

 苦い顔をする兄を横目に、俺は見舞いを済ませようと動いた。

「斎藤さんの容体は?」

 首だけ動かして、ベッドに横になる斎藤さんを見やる。

 その温和な相貌を穏やかで、何事もなく寝れていることがわかる。

「まだもう少し安静かな。1人で飯も食えるようになったけど、昼でも大体こうやって寝てるからな」

 その女性を見つめる兄の目もまた穏やかなものだった。

「来月には沖縄に発つ。それまでにお前がやってくれた仕事の処理を終わらせるから暇な時にまたここに遊びにきてくれ、1、2週間はみてくれよ?

「そっか。わかった」

 わからないことの方が多い、そう思いながら立ち上がった。

 二十代前半の兄は二十代後半の女性を娶り人生をリタイアする。

 それがどれくらい世間的に異常なことかは理解できた。

「がんばれよ、太一」

「不吉すぎる……」

 あしたにでも、厄介ごとがきそうな気配を感じる言葉を受けて、俺は病室を後にした。

 カバンには合わせて10個。

 もはや若干異常に重い。

 白い廊下とは未だ、お別れできないでいる。



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