人でなしが、人でなしであろうとする、そんな理由。
なかなかの大所帯だった。
大人五人に高校生が二人。
計七人の集団が向かった先は、厳かな雰囲気を持った日本家屋の邸宅。
由井家と書かれた表札に、俺はまさかと目を見張る。となりに立つ里奈さんも俺ほどではないけれど、「見たことあるような?」程度の反応を示していた。
その建物の雰囲気には似つかわしくないインターホンを兄が押すと、スピーカーから声が返ってきた。
『はい。どちら様でしょうか?』
壮年の女性であろう声に、兄は聞き覚えがあるらしく、
「どうもお世話になってます、山野一樹です」
改まるわけでもなく、軽い調子でそう言うと、「まあ、一樹さん? 少々お待ちくださいね」と女性は慌てたように通話を切った。
「一樹君、ここは?」
説明の一切を省いてここまで連れてこられた俺たちを代表して、御牧が兄にそう尋ねた。
とはいえ俺と里奈さんにはなんとなく、ここが誰の家なのかの察しはついた。
里奈さんの方を見ると、「そうだよね?」と答え合わせを求める視線を送られて、俺は首を縦に振る。
桜の森高校元生徒会長由井幹晴のご自宅ではなかろうか?
そうあたりをつけていた俺と里奈さんの予想通り、この家自体はその由井家で間違いないらしい。
「細かい話は中でしましょう。ここでなら、裏の話も憚られないので」
そういうとタイミングよく扉が開く。
中からは先程の声の主であろう女性が顔を出した。
2、3言兄と言葉を交わすと、俺たちは女性に招き入れられたのだった。
テスト勉強、全然終わってないんだけどなぁ……。
:*:*:*:
織田信長は死ねない。
話はそこから始まった。
第六天魔王を名乗り、自らをそうであると評した男は、誰よりも持った才覚と振りかざした豪剣によって日本を治めんとした。
しかし、彼の元には日本などでは測れない、興味の限りを尽くすべしとする関心があった。
それが、「世界」。
見るものには価値なしとさえ映るそれが、信長にとっては天下などでは代えにならないほどにそそられた。
だからこの男は、立ち上がってしまった。
座していれば日本を治め、世界をまたにかけることさえできていたかも知れなかったのに、その程度では収まりがつかなかった。
立ち上がり、『世界統一』を志してしまった。
誰にいうこともできずに、1人奔走する中で信長は思う。
『命一つでは、足りない』
ことを成し、打って出ようとする矢先、半ば眠るようなそんな頭で彼は思う。
当然の感覚だった。
日本統一にかけた時間、世界統一にかける時間、思い浮かべば当たり前に思うその感情。
神はそれを見逃さなかった。
願いを、渇望を。
聞き届けた。
しかしあり得なかった。
本能寺で焼けた男が、生きているのは世界として間違いだった。
だから消された。
世の中から、世界から、人の中から。
織田信長は、戦国時代の武将である。
幾千の人の命を焚べて、日本という一つの国を輝かせようとした一人の男。
その存在は異端。
そのあり方は異常。
しかしそのどれもが、彼を表してはいなかった。
彼という人間を、見つめてはいなかった。