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人、ヒト、それもひと。



「お二人は山野から中学の頃のこととか聞いたことありますか?」

 川島恭吾はその質問から語り始める。

 しかして、太一が由利亜や真琴に中学の頃のことを話すことはほとんどなかった。

 二人もそれを深く追求することもしなかった。

 太一が自分たちをあのアパートに住まわせてくれたとき、なにを聞くこともなかったように、彼にもなにか話さない事情があるのだろうと思っていたから。

 彼が話してくれればそれでいいし、話してくれないのならばそれもよしと思っていた。

 それでも少しだけ、本当に小さなことだけれど、太一が話したことを記憶力の良い由利亜は忘れてはいなかった。

「そういえば、中学のはじめの方はバスケ部に入ってたって言ってたっけ」

 思い出して口を出た言葉は、はっきりとしておらずうわごとのようですらあったけれど、川島はバスケ部の単語を聞いて少し驚いたような顔をする。

「あいつがバスケ部のことを言ったんですか?」

「え、うん。少しやってたけど勝つためじゃないスタンスが嫌でやめたって言ってたかな……?」

 さらに驚いたようにする川島に、由利亜は首をかしげる。

「ああ、いや、あいつにとってバスケ部時代は黒歴史なんですよ。そこに触れると怒られそうですけど、聞きますか?」

 由利亜と真琴は顔を見合わせて、どちらともなく首を横に振った。

「ううん、いい。そういう話は太一くんから直接聞く」

「そうですか」

 その返答に川島はふっと笑って心の中でなにかをつぶやくように顔を伏せる。

「じゃあ、あいつがこれからまきこまれるであろう事柄の経緯をお話しさせていただきます」

 パフェを食べ終えた真琴が顔を上げ、

「うん。太一君の中学時代の武勇伝、楽しみ」

 では、と、川島は語り始めた。

「中学の頃の山野太一も、今と変わらず困っている人に手を差し伸べるお人好しでした。中学最後の年、あいつは一人の後輩に同様に手を差し伸べました。そして、救った。あいつが校内で迫害される、その結末で」



「未来予知。

 その女の子が困る原因となったのは、そんな人間にはあまりある力を保持していたからでした」




 :*:*:*:




「おい太一」

「なんだよ兄さん」

 俺は、別に会いたくもない肉親にここ一月の間でかなり頻繁に会っていて、正直疲れていた。

「なんでこんなおっかない連中病院に連れてくるんだよ!!」

「いやいや、この人たちは自力でここに来てたからね? むしろ俺が連れてこられてたからね?」

「そんな訳あるか、俺がこの病院にいることを突き止められる人間なんかそういないぞ」

「でも実際俺は行き先について何も言ってないし、なんだったらここまでのこの人たちの順路は兄さんの即席そのものだったよ」

 エレベエーターを降りるなり首根っこをつかんで俺に耳打ちしてきた兄に、ただの事実だけを告げる。

「お話は良いかな、お二人とも」

 そんな兄弟の怪しげなやりとりを見過ごして、待っていた御牧がこちらにやってきた。

「山野一樹君。君にも知りたいことがいくつかあるだろう。しかし今は私たちの質問にきおたえてもらうよ」

 毅然とした大人な態度。

 俺たち二人子供じみたやりとりとは違う、事務的で圧迫的なその存在感に俺も兄も御牧に向き直って意識を変えた。

 スイッチでも入れるかのように、兄の雰囲気が急転するのがわかった。

「俺はもう引退したんですがね。良いでしょう。お話、お聞きしますよ。必要ならば手も貸しましょう」

 そんな返答は明らかに、盗んだものを返してもらいに来た人たちに言う台詞ではなかった。

 俺の横に並んで歩いていて、今は御牧の横でおどおどしている里奈さんが前に出る。

 御牧やその御一行は、刀に用があるだけで盗んだ相手に対して何かを言う権利を持っていない。

 しかし里奈さんには家宝を盗まれたという言い分がある。

「あ、あの。私の家の刀を返してもらえませんか?」

 第一声としてはなかなかに強烈な一言で、きっと窃盗犯に対して直接そういった人間は相違ないのではないかという言葉。

「黒刀・柊、あれは君のひいおじいさんから斉藤唯が譲り受けたものだよ。所有権はこちらにある。持ち出そうと持ち出すまいと、それはこちらの自由なんだ」

「え……?」


 そもそも、刀は強化ガラスの入れ物に鍵をして入れられていて家族の誰も取り出すことが出来なかったのだという。

 それもそのはず。

 20年前に亡くなった里奈さんのひいおじいさんが、同じ道場に通っていた斉藤唯に鍵を譲っていたのだ。

 妖刀など使い道もないのでその鍵を譲り受けたはいいものの、今まで何にも使いはしなかったのだが、一月前、その刀が必要になった。

 

「妖刀とはすなわち目に見えないものを切る刀だ。だから刀身に刃はいらない。柄も鍔も、本当のところ鞘でさえ必要のないものだった。

「あの刀は唯一の目的を持って作られた刀だ。そう、あなたが死ぬための刀。

「しかし、三好家は誤った。

「何をしたかは定かではない、それでも推測は出来る。

「人を斬った。

「より正確に言えば、人の魂を斬った。

「そしてそれが呪いを受ける原因となった。

「もうあの刀では死ねませんよ、織田の人。俺も、この背中に背負った人のものではない力と分かれることは出来ませんでしたから」


「ほう、お前も俺と同じに力を欲したか。この時代に生きてなお手を差し伸べられるとは、お前、俺以上の強欲だな?」

 目的は達せない。

 その説明を聞いた織田信長は笑いながらにそういった。

「まさか。あなた以上の人間は存在しませんよ。人の世を治めるなどと思うあなたほどでは、ね」

「カッ! 良いねぇ、お前ら兄弟はなかなかに楽しいようだ」

 カカカと笑って満足したかと思いきや、俺と兄の二人をギロりと見据える。

「だが、刀は試させてもらう。俺はお前の様に寛容ではないからな、長らえる理由も当にない」

「そうですか、わかりました。では行きましょうか」

 そういった兄の手の中には既に刀が握られていた。

 いつからもっていたのか、俺には見当もつかなかった。


「ねえたいち君……何で私、連れてこられたの……?」

 同級生の女の子が涙目だった。

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