真実への最短距離を行く。
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「世界の真理」と言う言葉を耳にしたことのある人は少なくないだろう。
テレビや小説、漫画なんかで時折キャッチコピーにされることのある言葉で、そのフィクションの世界において核心に迫る事を総称して使われる言葉。
平凡に生きていて出会うことはまずない言葉ではあるが、人間生きていれば何があるかは分からないものだ。
単純な日常を生きているだけのサラリーマンがある日突然家出娘を拾ってしまい同居することになったり、見たこともない喋る動物に依頼されて魔法少女になってみたり、ありきたりに生きていたら実は選ばれし戦士だったり。
つまりはそういうことだ。
いや、現実問題、俺には家出少女と同居するサラリーマンの知り合いはいないし、魔法少女になって魂を汚しながら戦う女の子の知り合いもいなければ、日曜朝に戦うヒーローの知り合いもいないのだけれど、そんなことは一切関係なく、まあ、生きてればそういうこともあるかも知れないよねと、そう言う話がしたいのだ。
そう。
平凡でありきたりな人生を送っていた俺みたいな人間でも、生きていれば、戦国の世で最も名を馳せた人物に会いにいかなければならないときが来るように。
人にはそれぞれ劇的な出来事が生涯にわたって十は起きることだろう。
それは普通で、別に問う別なことなど何もない。
俺はたまたまそれが高校一年というこの時分に重なっているだけで、この先は平凡に生きていけることを確約されていっていると言うことになるのではなかろうか。
数の制限があるかどうかは分からないけれど、俺の人生のイベントはきっとかなりの消化率のはずだ。
でなければおかしい。
きっとこの辺が堪え時なのだと思う。
堪え時というか、改めて気合いを入れ直すとき。
目指すのは学校、探し人は同級生の女の子。
話し相手は、織田信長。
会えたなら聞いてみたいものだ。
『どうして、本能寺の変で焼かれたんですか
?』
そう、本人に。
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ミナちゃんとの歓談を交えながら、弓削さんからの説明を聞く間、俺の中に確か似合った違和感は一つの答えを見つけていた。
何のことはない。
一週間前の誘拐騒動の際は荒れ狂うほどに里奈さんを心配していたのに、今回はこんな感じでゆったりと会話なんかをしているのである。
いくら二回目とはいえ、いや、二回目だからと言って人間ここまで冷静でいられるものだろうか?
何か理由がある。
そう考えるのが普通だろう。
理由。
理由?
里奈さんが誘拐されて、弓削さんが動揺しない理由。
分かるはずもなかった。
他人の考えなど。
だから仕方なく。
「弓削さん、一つ聞いて良い?」
織田信長の諸説色々ななにかを説明してくれている弓削さんの言葉を切り、俺はまずそう訊ねる。
「ん? なに、かな?」
少し引けた感じに首を傾げて、それでも赦しを出してくれたので俺は疑問を口にした。
「弓削さんさ、里奈さんの誘拐された理由、知ってる?」
弓削さんの目は右に泳ぎ、上に滑って左を見た。
「あー、えー……とね……」
その仕草は、もはや肯定以外を示していなかった。
「お姉ちゃん、里奈ちゃんがなんで誘拐されるって分かっててうちに連れてこなかったの?」
「それはちがうよミナちゃん。今日里奈さんは俺と図書館で勉強してた。だから綾音さんは責められるべきじゃない」
弓削さん、じゃ、まとまりが悪くなるから名前で呼んでみたのだが、どうもしっくりこないので元に戻そう。
「そ、そっか」
俺の弓削さんをかばう言葉に納得してくれたミナちゃんは、ごめんねと弓削さんに謝った。
弓削さんは顔を少し赤くしながらも「う、ううん! ミナの言うとおりだよ!!?」と支離滅裂などういたしましてを繰り出していた。
「ともかく。責任はないけれど、それでも俺に一言くらい言ってくれててもよかったんじゃないかなっていう文句は言わせて貰うよ」
かばってその口で、俺は言う。
弓削さんはその言葉にハッとして見せて、
「私の口からは言えなかった。私は知っているだけ。それ以上は求められなければ為せない。そういう風に生きてるの、知ってるでしょ?」
そうして今度は俺がハッとさせられる番だった。
目の前に座るこの女の子が、どう言う生き方をしているのかを俺は知っていたはずだったから。
神を堕ろすことで知り得た知識は、人の認識を超える。だから脳で処理できない。
それはただ求めたものにのみ伝えられ、伝える側には負担だけが残る。
彼女の占いもその一部で、求めたものしか伝えられないのだ。
一回目の誘拐から、知っていた。
だけれど知っているだけ。見たことがあるだけ。夢のようなもので、改めてみたときにはデジャブ程度の認識でしかなくなるだけ。
だから彼女は驚かない。
二回目の誘拐を。
だが、俺の求めた情報の幅が広かったことで織田信長の存命という不可思議が開示されてしまった。
そして、学校にいるという情報も。
多分弓削さんもうすうす気付いている。
織田信長の目的地。
学校にある最も奇妙なスポット。
俺はあそこのことを全く良く理解していないけれど、兄も斉藤さんも、弓削さんさえ一度は訪れたあの場所。
あの『秘密基地』。
神に呪われた少女の掘った聖域。
多分何かの価値のある場所となっているのだろう。
でなければおかしいのだ。
ただ掘っただけで、掘り進めただけで土はあんな形にはならない。
勝手に納得していたけれど、木など持ち込んでいないのに、あんな設備になっている場所がおかしくないはずはないのだ。