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人間に出来ることの総容量。



 聞いた話によると、人の我慢の総量というのは各人によって違いはあれど決まっているらしい。

 人間生きていれば誰しもある一定の負荷を感じながら生きていることだろう。

 そのストレスと言い換えることのできる自身にのしかかる圧力に対する抵抗力の、いわば耐久値が、人によって決まっているのはなんというか、聞くまでもなく当然のことのように感じてしまう。

 誰しも、何にしても、堪えるというのは辛いことなのだから。

 しかして、その我慢の総量、耐久値は人によって違うのだから、誰よりも強固な人間、何に対してもストレスを感じていないかのように振る舞えてしまえる人間というのもいるのではないだろうかと、そんなことを思った。

 ゲームにしても現実にしても、HPや身体的持久力というものを常人ではあり得ない次元まで高めている人は数得てみるとなかなか多い。

 ゲームのHPの絶対値を上げるのは戦ったときに敵に勝つためだし、身体的な持久力を鍛えると言えば代表例としてはマラソンやらの陸上競技がわかりやすい。

 HPをあり得なくらい高めたやつは、あり得ない数の敵と戦ってもHPバーに移る減少量は数ドットで、躍起になってHPを高めていないやつに比べて信じられない耐久力を得ることが可能だろうし、マラソン選手と一緒に走って、ついて行ける一般人がどれほどいるのかは考えても一握りであることはわかる。

 まあ、耐久値という考えで行くのなら、ゲームで例えるなら防御力のほうが良かったかもしれないけれど、しかしそれだと少し意味合いが変わってしまう。

 この場合の耐久値というのは、減るものなのだ。

 そして、負荷というのはジリジリと人を焼き焦がすやけど状態のようなものだ。

 もちろん幸福的な時間の訪れが、一時のストレス緩和につながることはあるだろうけれど、それでも人は常に抱えたその重石と一緒に生きている。

 それは、時間的なものであったり、対人的なものであったり、自身の内に秘めたものであったりと複雑様々で一様にまとめることはできないものだが、それでもいやしくもまとめた言葉が「ストレス」なのだ。

 逃げても追ってきて、かなぐり捨ててもそこにいて、なにがあってもついて回るその影を、捨ててしまうことが出来る人間は人ではない。

 人間は、生まれて育って、生きてしまえば抱えるのだ、重荷を。

 だから俺は────

 いや、こんな妄想に落ちなどない。

 ただ文庫本が読み終わって暇だった人間の脳みそが生み出した暇つぶしなのだから。



 *:*:*:*



 お昼ご飯を食べながら、テストが終わった後の話なんかをしていたら実は定期テストが終わってもテストがあるらしいと言うことを知った。

 WAE

 俺が小学校の最後の年に受けた世界一斉学力試験が俺の通う学校では必修の試験なのだということだった。

「その試験なら俺受けたことあるな」

 そうはいったものの、俺は自分があのときどんな内容の試験をどういう感じに解いたのかも、自分が何点取ったのかも何位だったのかもよく覚えていない。

 兄が二桁台をとって恐ろしいほど褒めそやされていたのを思えば、俺は下から数えた方が早い順位だったのだろう。

 受験したのは小学生の頃で、テスト内容は年齢で変わらないのだから、まあ当然と言えば当然の結果だろう。

 今回は、もう少し高い点数がとれれば良いな。

 そんななことを思いながらも、俺の手には自習室のすぐ近くに置いてあった著者がフランス人の小説の日本語版が開かれていた。

 そこそこ古いものらしく、かなり黄ばんでしまっているが内容はかなり面白くて読み進めていると時間が簡単に過ぎて行ってしまう。

 お昼を食べて戻ってきてから既に1時間半。

 2時半を過ぎるくらいに差し掛かってきていた。

 歴史から数学へと教科を変えた里奈さんは、質問の頻度が少し増えたが、変わらず集中して問題を解いている。

 桜の森高校は、授業が特殊なのに反して公立でもあるため国の定めたやり方も踏襲しなければならず、テストが旧来的なものであるのだが、こうして暗記や繰り返してやり方を覚えるという根気の強さの必要な勉強というものも、俺のように勉強が出来ない人間からすると特別な気がしてくる。

 忘れてしまわないように勉強し、出てきた問題に併せて頭を切り替える。

 それはかなりのストレスとなるだろう。

 一度解いたことがあるのに忘れてしまっていればなおのこと。

 勉強や試験というものは、自身の脳みそがどうすれば効率よく活動できるのかを自身で覚えるための訓練なのだろう。

 しかし、その訓練で結果を出さなければならない。

 俺にはとてもそのストレスに耐えられる自身はなかった。


 里奈さんが椅子から立ち上がると、「ちょっとごめんなさい」といって扉を開けてでていった。

 俺は本から顔を上げてコクリと頷くとまた本に視線を戻した。

 スマートホンのバイブレーションが作動していたから、誰かから電話がかかってきたのだろう。

 そういえば、と。

 俺もそこそこお金が貯まっているはずなので、スマートホンの一つや二つ買えるのではないだろうか?

 いま兄から請け負っている仕事も時間経過で完了する。そうすれば後払い金は俺の手元に入ってくるし、それを使えば利用料金なんかも払えてしまうのではなかろうか?

 契約には親の許諾が必要なんだったか?

 まあ、明日にでも由利亜先輩とケータイショップに行ってみよう。

 通帳の金額見るついでだ。

 そんな風に明日に思いを馳せていると、時間の経過で違和感が湧く。

 里奈さん遅いな……。

 電話を持って出て行ってから15分が経過した。

 まあ、話の内容によっては時間のかかることもあるだろう。

 そんな風に自分で納得して、さらに15分。

 カバンがあることを確認して、椅子を立った。

 トイレに行きたいのと、少し様子を見に行くためだ。

 たしか通話出来るスペースがどこかにあったはずだと自習室から足を踏み出した。




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