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テスト勉強とは無縁の男。



 ====


(太一くんと、二人きり……。)

 心の中で、いや、口も少し動く程度にそう呟く。

 私こと三好里奈は、公立図書館の自習室で気になる男の子とそんな状況にある。

 学校でも似たような状況になることはあった。部室とか、教室とか、他にも何回か……。

 でも、告白した男の子と学校以外の場所で二人きりになるというのは生まれてからあまり経験がないかも知れない。

 ……どうしよう……お腹とかなったら、どうしよう……。

 開いた教科書と問題集のテスト範囲を睨み付けながら、しかし私の頭のなかは、隣で本を読みふける信じられない程難しいテストを私たちと同じ日に受けるはずの男の子のことでいっぱいだった。

 

 ……あ、横顔も格好良い。

 綾音、毎日これが見れるのか……いいなぁ……。



 ====



 文庫本のページが半分に差し掛かろうと言う頃、自習室にはいってから小一時間ほど経って顔をあげる。

 里奈さんはどうも集中しきれないようで、ちらちらと俺の方に視線を向けていたが反応すると余計意識してしまうかも知れないと思いあえて気付かないふりを続けていた。10分ほどで問題を解き始めたので安心していたが、ここに来てなにやら行き詰まったようだった。

 手に持ったシャーペンがカツカツとノートをつつく音がループし、俺は里奈さんの集中の邪魔にならない程度の動きで問題をのぞき見る。

 見ていたのは日本史の内容で豊臣幕府に関する項目だった。

 俺は、「なんだ歴史か」と文庫本に視線を戻した。

 歴史科目は基本暗記でごまかせる。

 考え方など無用。教科書の内容を覚えていれば、間違えようがない。

 そう思っているから。

 しかし、里奈さんはその内容をページをいったりきたりしながら読み返していた。

 何度も何度もそうすることで覚えているのかとも思ったが、どうやらそうではないようだった。

「どうかした?」

 俺は堪えきれず声をかけてしまった。

 すると、ハッとしたように里奈さんが俺を見る。

「何か分からないことがあった?」

「あ、う、うん。でも、分からないっていうか、どうして? っていう、なんていうか理由がよく分からないところがあって」

 ふむ、わからないから説明のしようもなく、歯切れがわるい。

「なんの理由?」

 どうして、つまりWhy?ということだろう。必然聞き方も何のとなる。

「これ、この二代目将軍秀次が殺された理由」

「え、あ、豊臣秀次?」

 俺は素でビックリしてしまう。

 まさか通説止まりの解釈しかない部分に切り込んでくるとは。

 いやまあ、気にはなるよね、年老いた秀吉がどうして一度は推薦した自身の後継であるところの甥っ子を殺したのか。

「そう。なんで秀吉さんは親族のはずの秀次さんをその、処刑しちゃったのかなって」

 流石にこれに明確に答えるのは俺には無理だ。

 だから、通説で満足してもらおう。

「一説には、年老いてから出来た息子を溺愛していて秀次が邪魔になったからとか、その関係で、秀次が秀頼の暗殺を企てていたからとか、まあそんな感じの話が一般的だよね」

「でも、おじと甥だよ? 秀頼さんと秀次さんはいとこ同士……。暗殺しようとしたなんて、本当にあるの?」

「時代的には、むしろよくあったかも知れないね。戦国の世とか言われる殺し合いが何でもない風にあって、殺した相手の頭を持って帰って手柄にするような時代だからねぇ」

「……そう考えると、ありそうだけど……」

 里奈さんは、んー……、と納得は行かないまでも「そうかぁ、血が繋がってても……」ぶつぶつと問題集のページを次へ送った。



 一度集中すれば持続する。

 前に一緒に勉強したときも、そんな感じだった。

 そもそも一応特進クラスにいるのだから、里奈さんの学力が低いわけはないのだ。

 ないのだが、事実は、一般クラスに順位を抜かれる程度には悪い。

 頭が悪いと言うことではなく、テストの点数が悪い。

 飲み込みは良いし、教えられたことはすぐに覚える。一度やったらそれなりに、二度やったら十分にできるようになるのに、なぜ授業を聞いていてできる様にならないのか。

 俺はほとんど授業を聞いていないので、教師の教え方云々は言えないけれど、三好さんの授業を聞く態度には何かしらの問題があるのかもしれない。

 とはいえ、こうして俺が教えるまでもなく問題を解いては答え合わせをし、淡々と勉学にいそしむ姿を見ていれば、次のテストの点数には期待が持てそうだった。

 横目に見ていた視線を文庫に戻し、俺は自分の推理の答え合わせを始めた。



 ===


 す、凄い見られてる……?

 なにっ……?! 何かついてる??

 ふぇぇぇん!!!!

 全然集中できない!!

 どうしよう……!!!!

 ん、? あ、本にもどった?

 …………ふぅ……。

 もう心臓がもたないよぅ……。

 あ、これこの間書いた落書き、我ながら良い出来だね。

 じゃなくてっ!!

 勉強!!

 たいち君に見てもらってるのに悪い点なんて取ったらもう会ってもらえなくなっちゃうよ!!!

 とにかく1600年代の歴史端から問題解いてこっ!



 ===





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