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とほほと口からこぼれるかも?



「ところでこれ、買ってきたやつ?」

 あらかたの片付けを終えると、由利亜先輩が机の上にあった俺の買ってきたコンビニの袋に目をつけた。

 あ、まずい。

 別に何か悪いことをしたわけではないが、何故かそう思った。

「あ、はい。冷蔵庫に何もなかったから買い物に行こうってなるのなんとなく嫌で、確認しないで買って帰って来ちゃって」

「そうなんだ。まあ今日は何も作ってなかったし、正解だね」

 にこっと笑う由利亜先輩。

 よかった、背筋に走ったおぞけは気のせいのようだ。

「サラダパスタとプリン、って、なんかOL見たいなチョイスだね」

「せめて女子っぽいっていいませんか、年齢が高すぎませんか」

 いや思ってたけど。

「太一くん今日はさっぱりなものが食べたい気分だった?」

「それを買ってるときは、そういう気分だったんですけど、今はちょっとお腹減ってきたので少しがっつりしたものが食べたくなってきてます」

 詰め将棋のように、質問に間違えないように答える俺。

 先輩は「太一君、ご機嫌の取り方がうまくなってる」と顔で驚きを露わにし、同級生二人は、「新婚夫婦か同棲カップルみたいだね」などと囁きあっている。聞こえてるぞ。

「いまね、お肉が食べたいねって話になって」

 俺の思考と真逆をいってる……。

「唐揚げを作ろうと思って」

 すると、椅子に座っている二人から声が上がる。

「作り方教わりたいです!」

「わたしも、鷲崎先輩の料理の腕を拝見させていただきたいです!」

 三人目は、

「おー、なんかやる気だねぇ」

 完全に食う専門に回る気満々の人だった。

「いいじゃないですか、三人でお料理教室みたいで」

 仲良くなれてるみたいで良かった。

 ぶっちゃけ、来週テストなのにこんなことしてて大丈夫なのか疑問だが、俺より真面目で成績優秀な人たちだ、きっと大丈夫なんだろう。一人を除いては。

 よし、じゃあやろっか。

 そういうと由利亜先輩がキッチンに立つ。その後ろにメモ帳を携えて里奈さんと弓削さんの二人が並ぶ。

「よろしくおねがいします」

 二人のその声を聞いて由利亜先輩は材料を取りだし始めた。




「ちょいと太一君」

 ダイニングで三人の姿をほほえましく眺めている俺に、先輩が声をかけてきた。

 ひょいひょいと手でこまねいてくる先輩に恐る恐る耳を寄せる。

「大丈夫なの、なんかすごい修羅場な匂いがするんだけど?」

 小声で囁く先輩に、今度は俺が囁き返す。

「俺に聞かないでくださいよ、なんで俺んちに女の子が四人もいるんです?」

「二人は君が招き入れた居候で、もう二人は君にそそのかされた可哀想な子?」

「失敬な。俺は紳士な男の子ですよ」

「ただの事実じゃん」

 俺と先輩が言い合っていると、料理に集中していたはずの三人がこちらを見ていた。

「ちょっと、顔、ちかくない?」

 包丁を手に持って由利亜先輩が近付いてきて、俺と先輩の顔の隙間にスッと差し込む。

 二人して身動きは一切取れず、固まった表情筋が恐怖を露わにする。

「長谷川さん、ずっと入院してて勉強ついてこれてるの? テスト勉強、しなくて大丈夫?」

 包丁を逆手に持ち替えると、そのまま机にドスっと突き立てる。

「あ……うん、そうだね……ちょっと向こうの部屋で勉強してこようかな!!」

 言うと一秒の世界のなかで先輩は自室へと逃げ込んでいった。

「太一くん」

 包丁を抜き取り、再び持ち直すと、その幼い相貌に満面の笑みを浮かべた。

「は……はい……」

 カクカクと音を立てながら、俺は姿勢を正す。

 そんな俺の姿を同級生女子二人は下卑たものを見るような目で見ていた。

 許してください。

「これ、開けて」

 スッと差し出されたものにびくっと体が跳ねる。

「こッ…!? び、瓶……?」

 殺されるかと思った俺の想像は外れ、由利亜先輩は包丁を持つ手とは逆の手に持っていたらしい瓶のジャムを差し出した。

「固まっちゃって開かなくて」

 俺はそれを受け取り、力を入れて蓋を捻る。

 開かない。

 確かに、ちょっと、いやかなりかたい。

 もう一度無理矢理力を加えると、ぽんッという小さな音ともに蓋が開いた。

「はい、あきました」

「ありがとう! これでチャラね!」

 …………。

 どうやら俺は、この美少女に着々と主導権、というか人権を握りしめられていっているようだった。

 同級生女子二人は、やはり下卑たものを見る目をしていた。



 もう許して……。



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