女の子の告白に、そんな返答で許されるなと思うなよ?
振替休日が終わり、今日から学校が再開する。
とはいえ、学校祭の片付けが終わっていないことを校了して、授業自体は明日からの再開である。
学校祭の片付け日ということになる、今日10月15日火曜日。
昨日のじんわりと淀んだ曇り空とは打って変わって、からっとした秋晴れの天気は太陽のおかげでさんさんと煌めいているのに、なぜかどこか切なげな涼しさが空気に紛れていた。
なんで昨日がこれくらい晴れなかったんだよ、なんて文句を言う同級生たちと、クラス内の展示を片付ける現在、時刻は十時前の九時五〇分ほど。
今日、学校から提示されている日程は、クラス内の片付け整頓。机椅子を運び直し、授業の体勢を整える、という時点で白紙となっている。
つまり、片付けが終われば各クラス解散という運びになる。
外で出店をしていたクラスなんかは片付けが手間取っている用だけれど、うちのクラスは展示のみ。模型なんかをどうするかでもめていると、担任がどこどこの資料館にもっていくと言いだし車に積み込むとその問題も解決した。
展示パネルやなんかも片付け終わり、教室内が更地になると教室から人が消え始める。
視聴覚室やら三年に移動した机と椅子を持ちに行くのだろう。
運びまくったのが既に遠い過去になっているのを感じ、時の流れの恐ろしさを思い知る。
ていうか、三日間で色々ありすぎたんだよなぁ……。
運ばなかった机と椅子は二組あり、二人は行かなくて言いということがわかるのだが、気がつくと教室にはだらだらしていた俺の他にもう一人人がいるだけとなっていた。
朝学校に来てから、約二時間近く。
目が合ったり、俺の近くを通っては何かを言いかけてやめたりと、不可解な行動をするその人物は、俺のことを一応友達と思ってくれているはずの三好里奈さんその人。
今も、俺から一番遠い距離の教室の隅の方で、俺のことを見たり見なかったりしてもじもじとしている。
『太一くん!!!! 私はあなたのことが好きです!!!』
脳裏をよぎる、大観衆の中での公開告白。
今日学校に来て見ていた限り、三好さんにかける声を挨拶程度に抑えている人が多い。
普段、俺のことを意図的に見ないようにしているらしいクラスメイトの視線を、今日に限って感じていたのは俺の勘違いではないようで、この状況を作ったのは俺でも三好さんでもない第三者ということになりそうだ。
なぜなら、この残された机の普段からの使用者は俺と三好さんなのだ。
これが置いてあれば、俺と三好さんが机を取りに行く理由はない。
ふたりだけの教室内で、俺は気まずさに堪えながら窓の外を眺めていた。
二人でいるのに話さない状況はなかなか珍しい。
とはいえ、普段話しかけてきてくれる三好さんがあの調子では、こちらから話しかけるのもためらわれるワケで。
結果、いわゆるお見合い状態での硬直。
だって俺から話しかけるのってなんか違くない?
普通に友達だと思ってたら、突然告白されてびっくりしたのもあるけど、いつもむこうから話題振ってくれてたからこっちから行こうにも話すことが思い浮かばないんだよなぁ。
…………俺のコミュ力ないだけ?
違うのは俺のコミュニケーション能力の方か?
いやいや。
こんな風に一人で頭抱えてても何も始まらないか………。
しばらくしないうちに人が戻ってくることだし、折角用意してもらった時間だ。ちゃんと利用させてもらおう。
「はぁ……」
立ち上がり際息を吐くと、背中の方が少し寒い。
緊張……? そんなことを考えても、今回ばかりは逃げることも許されない。
折角の友達だし、昨日の電話の件もある。
口で言わなければ伝わらないのが、人間の不便なところだ。
三好さんの方に向かって歩いて行く。
俺の動きに反応して、三好さんが固まった。その光景がなんとなく面白い。
「え、と」
喋り出し、何を言うか迷う。
「元気?」
ナンパか? 落ち着け。
「う、うん、元気」
にこっと笑う笑顔がいつもより硬い。
「……」
えっと、と話題を探して、結局何も浮かばなくて目が泳いだ。
本題はあるが、一直線でそこに向かって良いのか、それがわからない。コミュ力なら俺にもあるといきまいて、結局、コミュ力のなさが露見した結果となった。
あ、あははと空笑う俺に、三好さんの笑顔が影った。
「文化祭、終わっちゃったね」
「三日目、三好さんと一緒に周るって話だったと思うんだけど、まさかユウミナちゃんたちと回ることになるとは思わなかった」
ピクリと何かに反応する三好さん。俺は首をかしげた。
「名前、下の名前で呼んでって……」
「あ、ああ、ごめん、癖でつい」
忘れてた……。完全に……。
「絶対、下で呼んで」
「……はい」
もじもじしていたのがなかったことのようにむすっとそういう三好さん。じゃなくて里奈さん。
ついこの間の会話のはずが、どこかにしまわれてしまっていたらしい。
「それで、三日目は楽しめた?」
じろりと俺を睨む里奈さん。
怒りはごもっともだが、それだと上目遣いにも見えてしまう。
俺は半歩足を引く。
「楽しめたよ。ミナちゃんもユウちゃんも良い子で、俺なんかと一緒に遊んでくれる言い中学生だよ……」
ああ、昨日楽しかったな……
「ふぅん、そっか。やっぱ年下とかちっちゃいこの方が好きなんだ」
「んー?」
「私ね、ミスコンの時の告白、ユリア先輩に手伝ってもらったんだ。あんなに余裕そうに振る舞われて、怖くて怖くて……それなのにたいち君に会えないし……」
「いや、うん……それもごめん……。でもロリコンみたいに言うのやめてね?」
「たいち君がロリコンなら、ユリア先輩があんなに余裕だったのもわかるし、中学生と遊ばせてどんな反応をするか見れば年下好きなのも丸わかりだよぉ……」
「いや待って、ホント待って」
「だって中学生女子と遊んで楽しかったとか言う高校生男子がいるとは思えないじゃん。そんなこと言うのは年下好きの人くらいじゃん……」
「まとう? 俺の言葉を聞こう?」
しかし、里奈さんは止まらない。
「私の気持ち、少しくらい届くかなって思ってたけど、対象外じゃ諦めるしかないじゃん……。でも好きな人が犯罪者になるのをみすみす見過ごすことも出来ないから、だから!!」
「……だから?」
もういっそ、最後まで聞いてやろう。
「たいち君、私と付き合って、ロリコンを克服してあげるから!!!」
「ロリコンじゃないので大丈夫です」
結論。
翌日から、里奈さんは以前と変わらない感じで絡んでくれるようになった。
見込みがないのはわかった……。
じゃあ、もう、見込みが出来るまで一緒にいるしかない。
意識させることには成功した。だから、あとは一緒にいるための関係生を取り戻すだけ。
そして、それにも成功した。けど……。
たいち君。
女の子の告白に、そんな返答で許されると思うなよぉぉぉぉおおおお!!!!!!!!!