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安らぎ二つ。



 桜ノ森高校のミスター・ミスコンテストは三学年全クラスから男女二人ずつの自薦他薦で参加者を募り、コンテスト前に事前審査を行い当日参加者を決定する。

 主催は生徒会で、つまりあの生徒会長がトップにいると言うことだが、仕事は仕事でしっかりやるタイプらしく、おふざけの他薦が行われた二年六組はこのコンテストの参加取り消しが発表され、それに加えて出店のランキングアンケートからも名前を消されていた。

 おふざけ、と言うのがどう言うものなのかは俺には把握し切れていないが、多分そう言うことなのだろう。

 だから基本、事前審査を失格になることはないが、今回のミスター・ミスコンテストは三学年で総数十七組、68人の参加が発表された。されていた。つい二週間前から……。

 俺はそれを一切知らないままに学校生活を送り、ついさっき仲良くしてくれている同級生二人の参加を知ったわけだ。

 まあ、学校来てなかったから知らないのは仕方ないんだけどね!! ねっ!!!

 生徒的には最大の、学校側としてはさっさと撤廃してしまいたいであろう大型イベントが幕を上げ、68人の参加者全員が自己PRをし終えたのがなんと圧巻の一時間半後。つまり、三時少し過ぎだった。

「お兄さん、わたしゃもう疲れたよ」

 手すりに体を預けたミナちゃんが、うはあと吐き出すように言う。

 当然の言葉に苦笑を漏らしながら、「まあまあ、これから投票らしいよ」とパンフレットに書かれた進行表に目を落とす。

 はしごを登った二階のギャラリーから真正面にステージを見下ろしながら、俺たちは弓削さんと三好さんの姿を捉えていた。

 学校祭中は上ることを禁止されており、監視役として生徒会役員が立っていたところに「生徒会長に話を通していただければOK出ると思うので」と電話してもらうと、なぜか本当にOKが出てしまい、特別に使わせてもらっている。

 まあ俺もユウちゃんミナちゃんの二人も、あまり騒ぐ方ではないので胸の高さの手すりに寄りかかりながらその自己PRをぼけっと眺めていたワケなのだが、本命の二人は一年でかなり序盤に終わり、後は二年三年と知らん顔の奴らが騒いだりしているの眺めるという謎の時間だった。

 だからまあ、本当にようやくたどり着いた投票タイム。

 だったのだが。

「投票は、スマートホンで学校祭のサイトに飛んで、投票ページで投票よろしく!!!」

 スピーカーから発されたその言葉に、俺は戦慄した。

「……まじか」

 え、学校のイベントで投票って行ったら紙だろ?

 折角胸ポケットに忍ばせておいた三人分のボールペンに軽く触れながら呆然とする。

 よく考えてみれば、68人、全員参加なら72人はいたはずなのだ。そんな人数を審査するのに紙でやっていたら、集計だけで一日はかかりそうだ。

 そんなことにも気づかないほどの脳みそしか持ち合わせていない俺は、両隣で電子の板をポチポチする二人に気づく。

「二人はスマホもってるんだね」

 俺の言葉にミナちゃんが顔を上げないまま切り返す。

「そういえばお兄さんはスマホ持ってないんだっけ。友達いないから」

「ぐっ……!!」

「ちょっとミナ! たいちさんは優秀すぎて平凡な人たちとは足並みがそろえられないだけなんだよ!!」

「おふっ……!!」

 ミナちゃんは率直に、ユウちゃんはフォローするように俺のことを刺してくる。

 別に優秀でもないのに足並みそろえられなくてごめんね……。

「まあ俺のことはいいんだけど、投票ってどんな感じ?」

 別に投票するしないはあまり興味なかったので、とりあえずサイトの感じをユウちゃんのスマホで見せてもらう。

 よくある簡易サイトと言うよりは、少し手を抜いた大学のホームページといった風のそのサイトホームは、しかし高校生が作ったとは思えない作り込みであるようだった。

 いまどきブログやらサイトやら作るのにそこまでの技術は必要ではないにしても、どう見ても二三週間はかかりそうな作り込みだった。

「それで、ここから投票出来るみたいです」

 言ってユウちゃんが画面をタップすると、画面が切り替わり、「投票!!」と題字されたページに飛び、スワイプすると顔写真と名前がずらりと並んでいる。その横にチェックマークをつける四角い枠があり、一番下まで下ろすと「確定」というボタンが用意されていた。

 どうやらIPで管理されたいるらしく、ユウちゃんのスマホでは投票は不可能になっていたが、「もちろんお姉ちゃんと里奈ちゃんに入れましたよ! 後は適当です」とのことだった。

「ユウこの人に入れた?」

「ううん、ていうか男の人は誰に入れたか覚えてない」

「ええ!! こっちの人超格好いいじゃん!!」

「ああ、ミナこういう人好きだよね。だから学校でもカイトくんにべったりだもんね」

「今カイトのこと関係ないじゃん!!」

 ほほう、ミナちゃんの好きな人はカイトくんというのか、覚えておこう。

「たいちさんは誰か知ってる方いましたか?」

 ユウちゃんがミナちゃんとの会話を切りやめ訊ねてきた。

 あいにくと、二人と同じ人物しか顔を知らないのだが、そんな風に思っていたのもつかの間、壇上に一人の男子生徒が現れた。

「あ、あの人は知り合いだよ。うちの生徒会長」

 指を差してユウちゃんの方を見ると、目が震えていた。

 手すりを握る手は必要以上に強く力が込められていた。

 ミナちゃんはと目だけ動かすと、激しい歯ぎしりと瞳孔が開いてるんじゃないかと思うくらいの強烈な視線を送っていた。

 どちらも視線が注がれているその先にいるのは、由井幹晴生徒会長だった。

「ど、どしたの……? ふたりとも」

 俺の問いかけにユウちゃんが大きく息を吸い込んでから答えてくれた。

「あの人、嫌いなんです」

 そりゃ見りゃわかるが。

 そんな笑いのとれないツッコミは入れず、次の言葉を待つ。

「あの人、お母さんが眠ったとき、言ったんです『水守神社もこれでおしまいか。まあ女だけじゃこんなもんか』って」

 ユウちゃんが切った言葉に、ミナちゃんが続ける。

「『めずらしい体質だから大事にしてやるって言ってたのに、うちに来ないからこういうことになる』って。絶対許せない」

 その言葉には、深く重い感情が込められているように感じられた。

 そんな重さをふきとばすように、ユウちゃんが明るく言う。

「でもあいつは間違ってた! たいちさんがそれを証明してくれたんです! だからあいつのことはもうどうでもいいです!」

 あの人、一応まだあなたのお姉さんの許嫁なんですけどね。という愚にもつかないことは思うに留め、俺は二人の頭を撫でて少し笑った。

 この二人が笑っていることが、今の俺のせめてもの救いだった。

 この一件で、一番救われて欲しい子たちが笑っている。それだけで、神にけんかを売った甲斐はあったというものだ。



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