表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/280

学校祭と言えば!!



 三日目が開会された。

 人混みの中に見つけた可愛らしい双子に手を振ると、こちらに気づいて振り返ったミナちゃんとユウちゃんが、二パッと笑ってこちらに駆け寄ってきた。

「おはようございます、たいちさん!」

 俺の前まで来るとユウちゃんが頭を下げた。白い秋物ワンピースに薄桃色のカーディガンの装いは、普段着というにはおしゃれさが勝っていた。

 それに続いてミナちゃんも「おはようお兄さん」とまだ眠たそうに言う。パンツスタイルのミナちゃんはユウちゃんとは対照的にボーイッシュに決まっている。いかんせん顔が同じなのでこうして服装が違うとこちらとしても凄く助かる。

「おはよう二人とも。日曜なのに来てくれてありがとう」

 俺は笑顔でそう返すと、ユウちゃんが「こちらこそ案内ありがとうございます」と再度頭を下げた。

 いつも以上に丁寧な態度に、どうしたのだろうと少し不思議に思ったが、不意にこちらに視線を送る人物の存在に気づいた。遠目からこちらを見つめているのはこんな騒がしいイベントには不釣り合いな、楚々とした女性だった。

「なんで二人のお母さんは遠くから眺める感じなの?」

 俺は女性に気づかれないように二人に小さく問いかける。

 ミナちゃんが欠伸交じりにふみゃふみゃ目を瞬かせる。

「やっぱりお母さん後ろにいるよね……? 行ってらっしゃい楽しんできてねって言ってたのに、ついてきてたんだね」

「家を出るとき外出の装いだったから怪しいとは思ってましたが、やはりこの視線は母のものでしたか」

 二人とも気づいていてあえて知らないふりをしていたらしい。視線を感じていて無視できるって凄いな。俺なら振り向いちゃう。

「とりあえず、何も言ってこないうちはいないのと同じですから、エスコートお願いしますね! 太一さん!」

 面倒ごとはおいといて、とニパっと笑い、俺の左腕をぎゅっとだ抱きしめてユウちゃんが俺を引っ張った。

 やんわりほどこうとして逆にがっちりとホールドを強められた。

「そういえば、弓削さん、お姉さんはなんか用事があるらしくて後で合流するって言ってたけど、知ってる?」

「え、太一さんお姉ちゃんが今日なにやるか聞いてないんですか?」

「──?」

 俺がユウちゃんの言葉に首をかしげると、やれやれといった様子で二人とも首を振る。

 ちなみにミナちゃんは俺の右側を普通に歩いてくれている。普通が一番だよ?

「太一さん、今日お姉ちゃんはですね……」

「ユウ、でもそれ言ったら怒られるんじゃ」

「大丈夫、私たちが迷子になっているのを探していたら迷い込んだってことにしておけば問題はない」

「なるほど!」

 何やら感心しているミナちゃんに、再度説明を求めると、「実はですね」と今日、この後行われる学校祭最大の行事のことを教えられた。

 案内役が、教えられるこの構図。正直様式美ですらある。

「お姉ちゃん、ミスコンに出るんですよ!」

 話によれば昨日は告白祭で由利亜先輩が活躍していたが、今日はミスターコンとミスコンがあって、そこでは多くの参加者が何かするらしい。

「何でまた弓削さんが?」

 立候補制なら出そうにないし、推薦されても辞退しそうなのに。

「里奈ちゃんが出るからって言ってました」

「なるほど、巻き込まれたのか」

 そして、三好さんがどうして今日じゃなく昨日を予定に設定したのかこれでようやく謎が解けた。

 あの二人、俺にミスコンでてるとこを見られないように動いていたのか。

「あのさ、二人とも」

 俺は一つの提案をするために足を止めて二人を見る。

 にやりと笑むミナちゃんと、ふっと微笑むユウちゃんは、双子らしく声を合わせて俺の問いに先回りで答えた。

「もちろん、見に行きましょう」

 くっくっくと、ゲスな笑いをこぼしながら、それまでの時間を二人と回るために歩くのを再開した。




 焼きそばにたこ焼き、ポテトや綿飴、チュロスなんかを買い込むと、座れるところを探してミナちゃんとユウちゃんを食堂に案内した。混んでいるかと思って少し警戒していたのだが、意外にも数個のグループがまばらにいるだけで騒がしくもなければ混んでもいなかった。

 入り口から少し進み、俺が手に持っていた食べ物を机に置いて自動販売機を背にして椅子に座ると、二人はその向こう側に並んで腰を下ろした。

「輪投げ楽しかったね! こんな大きなぬいぐるみとれるなんて!!」

 ミナちゃんが一抱えはある熊のぬいぐるみを大事そうに抱きながら笑う。

「私はたいちさんたちの展示がすごく興味深かったです。もっと勉強しなければと思わされました」

 ユウちゃんは俺に気を遣ってかそんな風に俺のクラスの展示を褒めてくれた。俺自身、全く携わっていないことは伝えているのだがしかし褒められて悪い気はしなかった。だましているようで気は引けるが。

 まあ姉であるところの弓削さんはバッチリ手伝っているので、それを考えれば姉を褒めるかわいい妹と見れなくもない。

「ユウは変わってるなぁ」

「ミナはもう少し見聞を広げるべきなの」

「あ、でも模型は凄かった! 原爆ドームは行ったことあったけど、キノコ雲の大きさにはびっくりしたんだよ」

 キノコ雲の大きさを表すために作ったジオラマのことを褒めてくれているらしい。まあ実際の大きさより若干小さいのだが、そのことは黙っておこう。折角感心してくれているのに水を差すのもなんだし。

「ありがと。っていっても何度も言うように俺は全く手伝えてないんだけどね」

 笑ってごまかすように言って、二人に食べ物を勧めた。

 二人とも箸を持つと、ミナちゃんは焼きそばのパックをとりふーふーと食べ始めた。

 ユウちゃんは箸を持っても何をとるでもなく俺を見て、

「たいちさんには他にやるべきことがあったんですから、仕方ないじゃないですか。たいちさんが高校一年の文化祭をなげうってくれたおかげで、私とミナはいまお母さんと一緒に暮らせているんですから」

 以前あったときより態度が大人びたように感じていたが、口調まで若干以上に丁寧さを増していた。

 そして何より、由利亜先輩と同じくらいに聡くなっていた。本当に中学一年なのだろうかと疑いたくなったが、身近に本当に高校生なのか疑いたくなる人がいたことを思い出して口をつぐんだ。

 ミナちゃんは変わらず奔放な女の子という印象なのに、母親の存在が「姉」という立場に影響を与えているのだろうか?

「それにしたってサボりすぎたね……。学校祭明けどうなることやら」

 苦笑いでごまかして、ポテトをひとつまみ口に入れた。

「ユウ、そのたこ焼きとって」

「え、今焼きそば食べてるじゃん」

「そっちも食べたい」

「どっちか! 私たこ焼きがいいもん!」

「半分こだよ!!」

「ミナの食べた焼きそばほとんど終わってるの!!!」

 姉妹で話せばこんな感じなので、俺の考えすぎかなとも思ったりしながら、時刻が一時を少し回るころ腰を浮かせた。

「さて、そろそろ行こうか?」

「うん」

「はい。体育館、楽しみです!」

 ゴミを捨て、備え付けのフキンとアルコールで机を拭き終えると、ミナちゃんはクマを抱いて、ユウちゃんは俺の腕を抱いて三人で体育館に向かった。

 弓削さんが合流時間に設定したのは二時。よく考えれば四時間も妹を放置する予定だったと言うことになる。だが、一時的にでも俺と一緒にいると、ミスコン参加のことがばれると考えたのだろう。まあ妹の口の軽さを甘く見ていたのが彼女の計画の失敗の原因と言っていい。

 一時半に始まって、最終選考が四時。弓削さんの予定では一次選考で落ちて俺たちと合流ということになっていたのだろうが、三好さんや弓削さんが一次で落ちるなんて俺には考えられなかった。

「我が姉のことですが、ひいき目なく三次選考までは固いと思います」

 ユウちゃんのその言葉に、俺も首を縦に振る。

「あの二人が一次や二次で落ちるのは考えられないと俺も思う」

「おお、お兄さん見る目あるね」

「ミナちゃん、これは俺の目の問題じゃなくてただの事実だよ」

「おお……お兄さん……言葉選びがキモいね……」

 話しながら体育館にたどり着くと、中は人でごった返していた。普段昼時に購買や食堂は利用しないが、多分こういうことになってるんだろうなあと心の中で思ってげんなりする。

「ミナちゃん、はぐれないようにね」

 既に俺の腕に巻き付いているユウちゃんのことは置いておいて、俺の後ろをついて歩くミナちゃんに声をかけた。

「大丈夫、ユウの服つかんでおくから」

「おっけ」

 じゃあステージの上が見えるところまで行きますか。

 と思ったのもつかの間。

 まだ開始まで十分もあるというのに館内はほぼ寿司詰め状態。一歩進むと右に二歩、一歩進むと左に三歩と進みたいように進めないほど混み具合が最高潮になりつつあった。

 俺は二人に目を向けて、人に押しつぶされそうになっているのを見ると、体を反転させた。

「ちょっと人が多すぎて危ないから出よっか」

 その言葉に二人は何も言わずに頷いた。

 やはり、俺には普通の高校生活というのは送れそうにない。いや、こんな蒸し風呂にいて、大騒ぎすることが普通の高校生活なのだとしたらと言う、条件付きだけれど。

 少し下がって、一番後ろの壁にたどり着くと、人が薄れた。

 どうやらぎゅうぎゅうだったのは密集していたからだけらしかった。

「ここからなら落ち着いて見れそうだけど、どうする?」

「私たちにはステージが見えていないので……」

 言われて身長の問題に思い至る。

 俺でも人の頭越しに辛うじて見えるくらいだ。俺より頭一つ分小さいこの子たちに見えるわけもない。

「あぁー………… あっ、上行くか」

 そう口にしたとき、バツンと体育館内の照明が落とされた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ