表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
3.4章 京都・東京交流会
406/408

幕間 それは失敗を約束された、戯れの狂騒

あけましておめでとうございます。

この章は完結まで書き留めたので投稿したいと思います。

 それは五年ほど前のこと。

 土御門光陰という男は小学校でも特権階級だった。国立の小学校は呪術省の息がかかり、土御門家と賀茂家の御曹司の言葉に全て肯定を返した。ここで御曹司たちに恩が売れればもっと上の高等学校などで採用されることもあると考えてのことだ。

 京都にある国立学校のため、ほとんどが地元の名士や陰陽師の子息だ。そのため土御門の名前は誉れであり、彼を持ち上げる人物ばかり。

 大人も子供もそうであれば増長するのは当然の話だった。


 そんな彼は小学五年生の時にある実験をしようとした。彼が本家の書庫で学んだことからとある狐を抹殺しなければならないとわかり、まずはその狐を呼び出して殺すことにしたのだ。

 彼は完全に実力を誤信していた。いくら名家の子供とは言えまだ十一歳。とある難波家の特異点たちを除いてその年齢でプロの陰陽師に匹敵することもなく、ライセンスで言えば三段を与えられるかどうか、というほど。

 むしろ賀茂静香の方が実力は上だ。この頃はまだ茨木童子の偽物の大鬼を与えられていないが、それを差し引いても賀茂の方が実力は上。


 だが静香自身がその事実を認識しておらず、光陰も現在の呪術省を率いているのが土御門なために家柄から自分の方が上だと信じ切っていた。

 だからか、彼の無茶を止められる者はおらず、彼の付き人に対してまるで奴隷のように扱って実験の全ての準備を任せていた。その人物は石灰を用いて校庭に馬鹿でかい五芒星を描く。更にその五芒星に術式の内容を書き込み、ついでに自身の血を触媒として入れ続けて貧血に陥りそうになりながらも、光陰が調べさせた術式を書き上げた。


 五芒星は安倍晴明が作り上げた陰陽術の極点だ。プロの陰陽師どころか、五神に任命された人物でも扱えないことが多い陰陽術の最果て。それを十一の子供が模倣したところで儀式など上手くいくはずがなかった。

 それでも術式の起動は進む。光陰も静香もその術式の結果を待つだけで一切手伝わず、全てを任せられた付き人が霊気を術式に込め始めて、詠唱を口にした。


「全ての怨嗟をここに、我らが呪いを引き付けろ。その縁は一千年前より続きし太古の契約。冥府の扉よ、その固き楔を解きたまえ。()はここに、解放者の名は土御門!悪しきは都を滅ぼしたる九尾の大化生!長く続く因縁に決着を──!『泰山府君祭』‼︎」


 術式が隆起する。

 石灰の白線が霊気を起こし、空へ青白い光が伸びる。それが五芒星を描いており、そのまま空を割ろうとした。

 「泰山府君祭」はまさしく安倍晴明が用いた、最高の術式だ。その術式の概要は土御門家に残っており、それを持ち出して今回使用した。

 それは効果があるのか、空に何もないはずなのに空がひび割れる。そして割れた先には全ての黒を混ぜたような深淵があった。


 その深淵からドロッとした何かが落ちようとして──急速にそのひび割れが消えた。消えたのと同時に黒い液状のものも消え去り、空へ上がった光も地上へと降りていき、最後は校庭の円陣へと吸い込まれていった。

 術式は起動したように見える。だがその結果は何もなく、術式の中央に現れたものはない。

 そしてドサリと音を立てて、術式を発動した少年は倒れこんだ。汗を尋常じゃないほど流しており、顔面は蒼白。息切れも激しく、明らかに霊気を使いすぎたことによる霊気欠乏症の症状だった。

 途中まで上手くいっていたのに彼の霊気不足で失敗したとわかった光陰は彼の胸倉を掴み上げ、その上で頬へ平手打ちをした。その表情は怒りに染まっている。


「お前、ふざけるなよ⁉︎僕が術式を提供したのに失敗しやがって!あとほんの少しをなぜ我慢できないんだ!土御門の恥晒しめ!」


「ゲホッ、ゴホッ!む、無理、です……。これ以上は、霊気、が……」


「僕より霊気があるから任せたのに!こんな大規模な術式、二度とこっそりできないだろうが!お前も土御門なら、僕らにかけられた呪いをどうにかしようと使命に燃えないのか⁉︎」


 苛立った土御門はその従者を地面へ投げ飛ばす。霊気も尽きかけているために彼は受け身も取れず、倒れた後も動けなかった。

 光陰と静香は呼び出す予定だった九尾と戦うために霊気の温存をしなければならなかった。だから自分たちで動かせる一番霊気のある従者に任せたのに、あと少しのところで失敗して我慢ができなかった。

 土御門と賀茂を呪う戒めは一千年続いている。その醜悪な因果を終わらせる『正義の執行』は目立ちすぎるために今後子供だけでは実行できないだろう。子供の行動範囲は狭く、親の目を逃れて行える場所は限られている。


 今回は教員たちに無理を言って実行しているために同じことはもうできないだろう。学校側には術式の習得のためと言っているので家にも同じ言い訳を使うしかない。だがその言い訳もあまり使えるものではない。

 現世ではない場所へ干渉する術式だ。先程のように空へ異変が起こるために絶対に調査をされる。全ての悪を終わらせたのであればそれは正義として大々的に褒め称えられるだろうが、今回は失敗した。

 であれば、似たようなことをもう一度、この小学校では行えないだろう。しくじったために光陰は舌打ちを隠さない。


「光陰様、そこの者が失敗しても仕方がないのでは?所詮従者ですし、五芒星は最高難度の術式ですから。やらせるならもっと複数人で霊気を注がなければきっと今回のように途中で終わってしまうでしょう」


「……こいつだけで足りないなら、他の手駒がいるか。だが他の従者はお目付役の意味もある。僕が自由に使えるのはこいつくらいだ。……書庫にあった洗脳術式を使うか?あの術式を解明すれば静香のことも……」


「光陰様?わたくしの顔に何か付いていますか?」


「いや、いい。おい、僕たちは帰るからこの術式の痕跡を消してから帰ってこい。それともっと実力を磨いておけ!このままじゃお前の望みは叶わないぞ!僕の下にいることでお前の望みは叶うんだからな!」


 それだけ言い残して光陰は去る。静香は従者を残して行ってしまっていいのかと逡巡したが、他家の事情には口を出せない。

 彼女は悪いことをしたなと思いつつも校門へ向かう。

 彼女の本質は名家の教育があるものの、今の世界で見れば善性が残っている方だった。


 二人が完全にいなくなって、息を整えた従者の少年はゆっくりと立ち上がる。そして校庭にデカデカと書いた五芒星を消すために体育倉庫から竹箒を持ってきて掃除して石灰をぶちまけたくらいの悪戯へと隠蔽することにした。

 霊気が残っていれば陰陽術でいくらでも隠蔽ができただろうが、そんな霊気は残っていない。五芒星を書いた時と同じくらいの時間をかけながら彼は掃除をしていく。

 その瞳からは涙が溢れていた。


「……お前の下にいれば願いが叶う?あれから一回も会わせてくれないのに、僕たちを解放してくれないのに?それはいつなんだよ……!お前たちの呪いなんて知るかよ……!お前たちが僕たちを呪って縛り付けてる癖に‼︎こんな雑用をして、お前たちのフォローをして、下っ端として働かされて!いつ陰陽術を磨けって言うんだよ⁉︎いっそ……殺してくれよ……」


 そんな泣き言を言いながら手が遅くなりながらも白線を消していく。夕方に始めた実験のせいですっかり夜になっていて、こんな時間に子供が学校にいれば怒られそうなものだが、今日は土御門家の実験をするからと光陰が大人を全て退出させていた。

 そのせいで彼はここに一人、自分を縛る光陰に呪詛を吐きながら早く帰るために手を動かす。


「……ダメだ。僕が死ねば、あの人が殺される。あの人のためにも僕は死ねない……!あと少しだったんだ。あの術式を完成させて九尾を呼び出せば、九尾を殺せれば土御門から解放されるはずなんだ……!早くしないとあの人が殺される。どうにかして時間を捻出しないと……。でも、自分のことだけをやっていたら静香様が……。何で、この世界は僕たちに優しくないんだろう?九尾が都を壊さなければ、僕は幸せだったのかなあ……?」


 少年はそんなことを呟きながら手を動かす。陰陽術が使えないために時間がかかりながら、夕陽も沈みそうになる中孤独(ひとり)で終わらせるにはとてつもない時間がかかる。

 そんな少年の姿を複雑そうに、けど愛おしそうにもしながら見守る影が二つ。校舎の屋上に転落防止のために付けられたフェンスに登り、その上で腰をかけて見守っていた。背丈はグラウンド整備をしている少年とさほど変わらず、確実に十代前半に見受けられる。


 服装は片方が昔の豪商の子が着させられるような綺麗な橙色の小袖を纏い、もう片方は麻でできた簡易な服を着ている。その二人は何が面白いのか、高い場所から見る京都の様子を俯瞰して感嘆したり、一生懸命にグラウンドを直している少年へ音の出ないペチペチと合わせるだけの拍手を贈っていた。

 かんらかんら、と袖で口を抑えながら上品に笑いつつ、先程離れていった忌むべき嫡子たちの様子には恨み骨髄の目線を向けつつ二人は話し始める。


『兄様、土御門と賀茂の零落っぷりを見ました?五百年以上頑張っても、晴明様には届かないんだって』


『姉様、それは一つの真理でしょう?あの方に届くはずがないんだから。私たちは知っている。見たこともない陰陽師の極点を。あの星は目指すのではなく、鑑賞して楽しむもの。手を伸ばすなんて無粋だ』


『それもそうか。それでどうします?あの二家は潰すとして、計画を立てなかったらまたあの時の繰り返しだし』


『そんなことはないさ。あの時は急だったし、何よりも今は二人いる(・・・・)。下調べは必要だけど、嫡子があの程度なら当主の力も簡単に割れる。──あの頃から一歩も進んでいない石頭に、負ける道理はない』


 姉の言葉に兄は傲慢に返す。ざっと京都を見渡して、先程飛ばした簡易式神から得る情報では二人の相手になりそうな相手は極一部。片手で収まる程度しかいない。

 人間は自分たちが生きていた時代から何も進歩していないどころか、むしろ劣化しているのではないかと思うほどの弱体ぶり。

 あの頃は不覚を取ったが、この時代ならそんなことはないだろうと確信した。懸念点はあるものの、やりようはいくらでもある。だから今は簡易式神による情報収集と、真下で頑張る愛しい雛鳥の愚かな様を見続けることにした。


 そんな愉悦を楽しんでいたところに、真後ろで転移の術式を感知する。そんな高等術式を使える敵性個体がいたかと二人は振り返る。

 片方は知らないが、片方は知る人物の霊気だった。格好は随分と西洋かぶれになっているが、彼の独特な霊気を間違えるはずがない。兄の方が身構えるが、それをやって来たAが手で静止していた。


「やめたまえ。今度は(・・・)君と敵対するつもりはない。あんな術式を使われたせいで確認に来ただけだ」


『……どうだか。答えなさい、晴明。どうしてこんなにも(せかい)は穢れている?あなたはずっと活動していたんだろう?それなら滅ぼせたっておかしくない』


「あれはあれで有用なのだよ。魑魅魍魎の対処に人手は必要だ。それに人間社会の運営は煩雑でな。任せられる存在がいるのであれば投げるのが手間が省けて良い。代わりに立つ者がまだ未成熟でな。それまでの辛抱だ」


『あなたが立つわけではなく?』


「そんなもの、恐怖政治だろう。あの二家と同じ醜聞を晒すつもりはない」


 兄はAとのやり取りに満足したのか、陰陽術を使うために構えていた手を降ろす。それを見てAと一緒に来ていた姫は安堵する。

 Aと姫からすれば制圧するには問題ない相手ではあるものの、面倒ではあった。それだけの霊気を持ち、Aとは旧知の仲らしい。そんな相手と戦うのは御免蒙る。

 降霊術にしては異質な術式が使われたと思えば目の前の二人が居たのだ。術式はある意味で失敗し、ある意味で成功したのだろう。つまりは呼び出す対象が異なり、二人がここにいるのはイレギュラーだ。しかも術式を使った光陰たちはその存在を認知していない。

 野に凶悪な殺人犯が放たれたのを知っているのは現状Aと姫だけ。彼らにも計画があるのでその邪魔をしないかを確認しなければならなかった。


「君たちの目的は土御門・賀茂両家の破滅で良いのか?」


『『それはもちろん。あの地獄を、本物の地獄へ突き落とす』』


 二人の息の合った返答に、Aは彼らの事情を知っているからこそ溜息をつく。

 それならそれで良いかと、Aも匙を投げることにした。Aからすれば究極、難波家が無事ならどうとでもなると踏んでいたからだ。


「では下調べをきちんとするように。難波の血筋は滅ぼさないでくれ。それと天海という東に根差した家も。あそこは私と縁深くてな。そこを勘違いで潰されては敵わん」


『そんな勘違いすると思う?僕たちが恨んでいるのはあの二つと、そこに関わり深い屑だけ。他は何もしないよ』


『そうそう。ボクたちの復讐の相手は違えないよ。奴らに同じ苦しみを与えるだけで、他はどうでもいい。極論、土御門だけでも良いけど、どうせ賀茂も同じ穴のムジナだ。あんなのが朝廷を補佐しているとか、民のためにならないでしょ』


「……そうして、理由を付けなければ心を抑えられないか。ああ、好きにすると良い。眼に余るようであれば止めさせてもらうぞ」


『では許可を貰ったということで。行こう、姉様』


『ああ、行こう兄様。今はもう僕らを縛るものはない。情報を集めつつ旅をしよう。それが終わったら終わらせよう。こっちの情報はあの子が教えてくれるから、何かあったら滅ぼしに来よう』


 二人はそう言うと、霊気に融けるようにここからいなくなった。実際今の彼らは肉体を持たないのでAたちのように肉体を持ちつつの転移よりも簡易に行えるだろう。

 姫はさっきの二人のことを詳しく聞こうとして、辞めた。必要ならAの方から話されると思い、それよりも問題の人物であるグラウンドでまだ掃除をしている少年へ目を向けた。


「──殺しますか?」


「放っておけ。あの力は目を見張るものがあるが、冷遇されている彼へ手を加えるつもりはない。波紋を揺らす一石には成り得ても、終着点は変わらない。なら土御門の遊びも見逃そう。家来ごっこをさせている怪物が、本当は自分を超えているなんて真実を知り、嫉妬で殺すのも良いかもしれん」


「残酷な人。あの子を今殺した方が救いかもしれないのに?」


「それはあの少年次第だ。もしかしたら大切な人を救えるかもしれない。そんな希望があるのなら、可能性は残しておくべきだろう?それに純粋に彼の能力は惜しい。私は直接手を下さないな」


「それが残酷だと言うのです。土御門家に救いなんて、ないでしょう?」


 反論はするものの、主人がそう決めたのならと姫はフェンスから離れる。そのまま来た時のように転移で居場所へ戻っていった。

 グラウンド整備をさせられた少年は帰りが遅いと他の従者に叩かれ、責め苦のような睡眠時間を削るほどの勉強をさせられた上に光陰から来る無茶振りに対応して。

 少年の心は確実に磨り減っていき。

 それを見ていた二つの影も、遠く離れた地で口の形を三日月へと変貌させていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ