4-1-2 嵐の中でも、突き進む
マユと西郷の行動。
※すみません。パソコン修理出していたので投稿遅くなりました。
天狗の宣言が京都中に響いた時。マユは白虎たる西郷と打ち合わせをしていたために呪術省の中にいた。それまで強い魑魅魍魎の報告もされていなかったので、そのまま呪術省で待機していた形だ。
青竜は呪術省の内部にあるトレーニング施設で修業を。勝手に京都を離れて、連絡がつかなくなると困ったためにどうにか呪術省で説得して、呪術省の内部に居てもらうか出かける時は必ず場所といつまでそこに滞在するのかを確認取ってから他の場所へは行かせた。緊急事態だし、前科持ちのため青竜も納得していた。
朱雀は恋人とのデートのために呪術省で待機はせずに、京都の街を歩いていた。呪術省には警邏のためと進言して。仕事もしてはいたが、それは片手間で、デートを優先していた。しかも夜ごとに相手が違う。今日もあるお店でお酒を飲みながら食事をしている時に宣言を聞いていた。
麒麟の大峰は護衛対象である土御門光陰と賀茂静香の監視のために学校の女子寮、自分の部屋で待機していた。待機とは言っても、姫のことやAのことを調べるために様々な資料から調べ物をしていたので、呪術省からの依頼はおざなりにしていたが。宣言を聞いて護衛よりも先に飛び出していった。明とは入れ違いで天狗の軍団と戦闘を繰り広げていた。
そんな五神たちの中で、呪術省の上層部に駆けこんでいたマユと西郷は状況を見守ろうとしたが、それは一蹴されていた。
「あの天狗たちは普通の魑魅魍魎じゃありません!手を出さずに交渉をしましょう!」
「それは不可能だ。あいつらは明確に我々人類に敵意を抱いている。そんな存在を排除せずにどうする?」
「排除なんてできません!アレは、私たちでも倒せません!」
五神だからこそできる呪術大臣への謁見という、呪術省全体を動かしかねない行動を取ったというのに、それが通るわけがなく。
進言できるという権利を持っていても、その要求が通るかと言われたら滅多なことでは通らない。呪術省に属しているし、様々な厚遇を受けていても五神とは呪術省という組織管理については外様だ。傭兵と似ているかもしれない。
それで良いと思って五神になったマユは下唇を噛み、こういうところが組織として終わってるんだよなと思った西郷は心の中でため息をついていた。全体を止めるためには呪術省ごと動きを止めなくてはならないのに、その要求は通らずに戦闘は始まってしまった。
今では青竜も部隊を編成して現場に向かっている。朱雀も自分の役割を果たすために一人で向かっていた。動いていない五神はマユと西郷だけ。呪術大臣である晴道からすれば、さっさと出撃しろと思っていることだろう。
五神でも勝てない軍団に、どうしろというのか。マユの焦りを、目の前の呪術省のトップは理解しない。
「何故戦う前からあの天狗たちの実力がわかる?君たちは千里眼を使えなかったと記憶しているが?」
「千里眼が使えなくても、あれほどの実力なら遠くにいてもわかります。今からでも遅くありません。攻撃を止めてください」
「危険分子は放っておけない。命令だ、白虎と玄武。ただちに現場へ急行せよ。部隊編成を行う暇もないため、二人組で事に当たれ。あの妖どもを排除せよ」
返答もせず二人は部屋から出て行く。呪術省の対応では徹底応戦が決定事項だ。
あれが魑魅魍魎ではないとわかってはいるが、だからといって妖と決めつけるというのは単直すぎる。
マユたちのように他の人間が誰も呪術大臣に直訴しに来ないということは、誰もあの天狗たちが神だと把握していないということだ。神気も以前に比べて日本中に広がっているというのに、まだ神気を感じ取れるような人間は育っていないということ。
「ま、予想通りッスね。オレたちは怪我しない程度に天狗の足止めをして撤退しましょうか。本気で人間を滅ぼすつもりならいくらやったって進軍は続くだろうし、もし様子見とかだったら何日か粘れば帰ってくれるでしょうし。そこそこに頑張りましょうか」
「それでいいんですか?西郷さん。わたしたちでも足止めできるかわからないですし、あそこに行った陰陽師はたぶん全滅します……」
「一般人の盾になるのも仕事だから仕方がない。実力不足の自分と、バカな上を恨むんスね」
「冷たいですね、西郷さんは」
それも当然で、西郷は人間ではなく妖だ。人間がいくら死のうが関係ない。悲しむこともない。五神になっているのも人間の守護ではなく陰陽師の戦力の把握のため。今マユと肩を並べているのはマユ個人を気に入っているだけ。
今回の争いは人間と神のもの。妖である風狸には本来関わらなくていい案件なのだから。
エレベーターに乗って地上に着き、西郷が移動用の簡易式神である大きな鷹を呼び出すと、二人してその鷹に飛び乗った。鷹が上昇して街中を見下ろしながら進むと、天狗たちがいる方向がやけに蜜柑色に輝いていた。
「あの光景を見ても、どうにかできると思ってるんスかねえ?」
「ひどい……」
マユは前回外道丸が産み出した地獄を見ている。そのため少しだけ耐性はできていたが、今の状況も負けず劣らずだ。
建物がズレもなく綺麗に斬られている。大きな衝撃が与えられたのか建物が爆発四散している。人も例外ではなく、この前と変わらず凄惨な現場が出来上がっていた。
この前と違うことはそれを意図的に産もうとしたわけではなく、抵抗した結果できてしまった痕に見える。ここまでするつもりはなかったかのような、手加減を間違えたかのような。
さらにもう少し違うことは、コンクリートでできた建物や道路からそのコンクリートが消え去って、土が露出していることだ。何かの力がそこにぶつかり、コンクリートだけが消滅してしまったかのようだ。
そこだけ時間が巻き戻ったかのような、人造物など不要だとでも言いたいような、そんな光景だった。
「あーあ。神様が存分に力を振るっちゃって。力の差が圧倒的だから妖は本能的に逆らわないってのに。完全に外れクジッスよ……」
「今から逃げてもいいのですよ?」
「冗談。呪術省に忠誠なんて誓ってないけど、バランスが大事なんだ。人間を見殺しにするつもりはないッスよ。エサがなくなるのは困るし」
「エサ、なのですね……」
そのことに悲しくなりながらも、二人は鷹から飛び降りる。この争いも価値観の相違から起こっているものだ。玄武と白虎を呼び出して二人も防衛に力を注ぐ。
二人が参戦することで死傷者は一気に減った。だが、だからこそ大天狗は注目してしまうし、戦力を送り込みもして二人の苦労は二倍になっていた。
他の五神の所へは、増援は送られない。その程度だと、全員が認識しているからだった。事実、天狗たちに傷を負わせることができているのはマユたちだけだったので、その判断は一切間違っていなかった。
次も三日後に投稿します。
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